聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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魅入られたのか

4.

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 和人は、良子の実家であった事件の簡単な概要ととその村に伝わる言い伝えの両方を、あらためてゆきと、新たに凛に話した。ゆきには、良子が考えているドッペルゲンガー説についても、すでに簡単に話していた。
 幸子が他言しないと言っていたことだけに、和人としては少し心苦しかった。
 だが言い訳かもしれないが、凛になら話してもいい気がしたのだ。
 そう思ったのは、ゆきが凛のことを信頼していることとも無縁ではなかった。

「実際にあった不法侵入の事件については、特に今のところ進展はありません。どんな展開になるか、まったく想像もつかないし…… それで、問題はその言い伝えのほうなんです。ここからは僕の推理なんですけど」

 和人は少し息を飲んだ。
 思ったほど緊張はしていなかったが、それでも言葉を吐き出すのに、少し決意が要った。

「穴に投げ込まれた二人は、子供をつくったんじゃないかと思うんです」

 ゆきも凛も表情は変わらなかった。
 それが無理に表情を固めているのか、二人のありのままの顔なのかは和人には判別がつかなかった。
 和人は自分の推理をすべて話した。

「もちろん、そんな大の大人の女性と、未成年の子供が子供をつくるなんて、モラル的におかしい行為だよ。でも、もともと二人がそういう関係だったとしたら、どうかな? というより、それが理由で穴に投げ込まれたのだとしたら?」

 和人はできるだけ平静を装っていたが、どうしても少し早口になってしまった。
 ゆきも凛もその事には気づいているはずなのに、茶化してこなかったのはありがたかった。

「あの穴の高さじゃ、大人の肩に子供が足を乗せても穴の縁には届かない。でも、その子供がさらに幼児を持っていたらどうかな? その幼児を放り投げるようにすれば、穴の外に出せると思うんだ。そして、その幼児には細い紐を結わえておく。生後一歳半ぐらいなら、もう早い子は歩けるし、簡単な指示だって入る。穴の外にある木を一周するくらいなら可能だったと思うんだ。あとはもう一度穴に飛び込んでもらい、それを穴の底でキャッチする。身体に結んでいた紐を綱に結びかえて、引いていけば、穴の中らから外に生えている木に綱をかけることができる。どうかな? この推理」

 得意気にならないようにはしたつもりだったが、言い終わったとき、和人はどこか高揚感を覚えていた。
 ゆきが凛のほうをちらりと見た。
 凛が少し首を傾げた。言葉はなかったが、ゆきを促すような目配せをした。
 ゆきは落ち着いた、ただしはっきりとした口調で話し出した。

「言い伝えの真実についてはよく分からないけど、お兄ちゃんが、その推理をに辿り着いたことで、あることに気づいたのは分かるよ」

「……え?」

「重ねちゃったんでしょ? その言い伝えに出てくる二人と、自分と幸子さんを」

 図星だった。
 和人は何かを言おうと思ったが、何も言えなかった。
 
「うん」

 和人はコクリと頷いた。
 言い伝えに出てくる二人とは年齢こそ違えど、年上の女性と年下の少年という組み合わせは、和人と幸子と一緒である。
 そのことに気づき、二人の間にあったかもしれないことを意識すればするほど、和人は幸子との距離感が分からなくなっていった。
 ただ和人にも、気づいていることがあった。
 幸子の美しさを客観的に見るのは、もう無理だということに。
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