聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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眠れない夜を抱いて

6.

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「そもそも事件の始まりは、島津良子さんのお祖父さんの家に何者かが忍び込み、ナイフで脅した一件よ」

「はい。あのお祖父さんは同じ村に住む伊藤一正だと証言しましたが、伊藤一正には完全なアリバイがありましたね」

「ええ。それからT都で起きた強盗事件。ここでも伊藤一正の顔がカメラに映っていたにも関わらず、当日海外にいたという完全なアリバイがあった。そして最初の事件と同じく、最新の鍵を犯人は破っているという共通点もある」

「そして、事件の調査に乗り出した僕たちのうちの一人、良子さんがドッペルゲンガー説にやたら固執するようになり、事件の調査から離れてしまった」

「そうね。そして、その固執のさせ方は、かつてあの村に建物があった【未来教】とやらのやり方に似ていたことから、そのマニュアルを、犯人が物理的にあるいはネット上で盗み出して実践した可能性が出てきたわ。もっといえば、【未来教】が潰された理由も、インターネット上での情報流出か、ある種のサイバー攻撃が原因と思われるわ」

 ここで幸子は少し口を閉じた。
 二階で誰かが物音を立てたのだ。二階には、和人の部屋、ゆきの部屋、そして両親の寝室がある。
 誰かが階段を降りてくるかと思い、和人は少し身構えた。
 幸子も息を殺している。
 結局誰も来なかったので、二人は同時にふぅっと息を吐いた。
 それから顔を見合わせて、どちらからともなく苦笑した。
 別に見られて困るようなことはしていないのだ。

「それから桂先生の病院が焼失した事件も、関係ありますよね?」

「うむ。あの病院には伊藤一正のカルテがあったと思われる。その中には、人目については困る情報があったのではないかしら? ただ」

「良子さんのお父さんも、あそこの病院に通っていた可能性が高い。しかも仕事柄ITにも強いと思われる」

「そういうことだ。自分で会社を立ち上げるくらいなのだから、それなりにITには熟達しているはず」

「でも最近は電子カルテというのもありますよね? 物理的に病院が燃えてもデータ自体はバックアップされている可能性があるのでは?」

「いやいや。和人。この国の医療が電子カルテなんていうのを本格的に導入したのは、この十年くらいだ。あの二人が村の病院に行っていた頃は、まだ紙での記録がメインだったはず」

 紙での記録がメインという言葉に、和人は少し考え込んだ。
 海外では、カルテは病院に置かれるのではなく、本人がマイデータとしてスマホに記録しているところも多い。
 そうすることで、どの病院に行っても同じ治療記録が得られる。薬のデータも既往歴も、すべて一目瞭然なのだから、薬を重複して出したり、別々の病院で同じ検査をしてしまうなどということもない。 
 もし犯人がカルテや個人情報の抹殺を目的に、病院に火をつけたのなら、それはある意味、この国ならでは犯罪なのだ。

「ただ、実は先ほどある点に気づいてね。もし、この推理が正しければ、犯人は伊藤一正で決まりだ。もちろんアリバイの謎も、なぜ病院に火がつけられたのかも、すべて解ける」

「えぇっ!?」

 幸子の突然の宣言に、和人は思わず声を大きくした。幸い、二階の誰からも反応はなかった。
 驚いた顔の和人を見て、幸子はニヤリと笑った。それからはっきりといった。

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