聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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眠れない夜を抱いて

8.

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「説明のつかないこと?」

「もし真犯人が伊藤一正だったとして、そもそもなぜこんなことをしたのか?」

「確かに」

 島津家に忍び込んでおきながら、ナイフで脅すだけで、何も取らずに逃げ出したり、警察官でもない良子を、わざわざ事件の推理や捜査から外すためだけに誘導したのか、疑問は残る。

「それに、なぜかT都の豪邸に忍び込んだ時には、物を盗んでいるんだよね」

「うむ。一貫性がない」

 幸子は顎に手をやって考え込む、特有のポーズをとった。
 たとえラフなTシャツ姿でも、十分すぎるほどのオーラをたたえている。
 和人はその美しさにあらためて惹かれながらも、そんな自分を、そして幸子を、客観的に見られるようになってきていた。
 和人は自分がいつの間にか、幸子に対して敬語を使っていないことに気づいていた。
 だがそれは決して、調子にのっているからでも、幸子を軽んじているからでもない。
 ただ和人自身がほんの少しの精神を身につけ始めていたからなのだということには、まだ気づけていなかった。
 傲慢でも卑屈でもない。
 虚勢を張ることも、自己嫌悪に浸ることもない。
 あるがままの現実と向き合うことができる、中庸という精神は、まさに名探偵に欠かせない能力だったことにも気づけていなかった。
 
「ねえ、幸子さん。実際に伊藤一正に直接聞いてみたらどうかな?」

「え? 直接?」

「うん。向こうからしたら、こっちは女性と子供。かなり油断は誘えると思うんだ。そこで上手く証言を引き出せたら、こっちの勝ちだ」

 幸子が少し驚いたように目を見開いた。
 その形の良い口の両端は、少し面白そうに持ち上がっている。

「幸子さん?」

「いや、なかなかいいアイデアだなと思ってね」

 和人は立ち上がった。

「それじゃまた明日」

「学校はいいのか?」

「気になって勉強どころじゃないよ」

 そういうと、和人は小さく笑った。
 幸子が笑い返したのを見て、心から楽しいと思えた。
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