聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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boy

2.

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「で、でも、こういうのって、ちょっとくらいオーバーしても大丈夫なんじゃ……」

「いや、この最大積載重量は100g単位で記載されている。おそらく、試用品として能力の限界を知るためだろう。つまり、文字通りこの数字が限界なんだ。もし仮に飛べても、この山火事を飛び超すのは絶対に不可能だ」

「そ、そんな……」

 和人は、今度こそ本当に膝から崩れ落ちた。
 そんな和人を幸子はじっと見ている。

「和人」

「……」

「和人!」

「……幸子さん?」

 幸子は少し微笑んでいった。

「その大型のドローンを使って、君だけ飛んで行って」

「……え? でも幸子さんは、どうするの?」

「私はここまででいい」

 幸子はそういって首を振った。
 その美しく艷やかな髪が、はらはらと揺れた。

「そ、そんな!?」

「聞いて。和人。私の話を」

 幸子はそういうと、落ち着いた声で語り出した。

「昔、大戦中、私にはあとをよくついてくる少年がいた」

 煙も炎をまるで気にしていない口調だった。

「その少年は私を慕っていたし、恋していたことも分かっていた。私は彼を助手のように、弟のようにも思っていた。だが、ある日、B29の爆撃を受けて、私も彼も建物の下敷きになってしまったの」

 幸子は軽いため息をついた。
 軽いけれど、疲労の色のついたため息だった。

「暗闇の中で、三日間私は救助を待ち続けていた。私は辛うじて助けられたけど、彼は二日目に死んだわ。私の目の前で。別に別れの言葉もなかった。気づいたら息をしなくなっていたの。さあ、これで分かったでしょう? なぜ私が暗闇を嫌がるか」

「でも幸子さんは、寝る時にも普通に電気を消しているよね? 緑亭館にだって、暗い所は普通にあるでしょ?」

「あれはね、罰なの。そうやって暗闇に身を置くことでしか、私が私に与えられる罰はなかったのよ」

「そんな……」

 一体どれだけの夜、幸子は暗闇に身を置いて、自分を罰してきたのか、和人には想像もできなかった。

「でもそれも、今日で終わり。和人。君を助けることで、私はやっと解放される。さあ、分かったら行って」

 そういって幸子は顔を上げた。
 もし幸子の顔つきが微笑んだままだったら、和人はそのまま外に駆け出していたかもしれない。
 だが幸子は泣いていた。
 その美しい両の瞳から、涙がつたっていた。
 それに気づいた瞬間、和人の中に何かとてつもなく熱い力が湧き上がってきた。
 幸子はもう、助かる道を放棄している。
 だが和人は、そうする気はなかった。
 何かが和人を突き動かした。
 この瞬間、和人は諦めるという言葉を捨て去った。
 和人は隣の部屋へと走り出した。
 すでに煙が充満していたが、その足取りは軽く、力強かった。
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