聖女の如く、永遠に囚われて

white love it

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月の光にゆれて

2.

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 幸子の話は伊藤の想像通り、いや、想像を超えていた。

「和人が隣の部屋から持ち出した日本刀で、私の左上腕部と左大腿部を切り落としたのよ。もちろんすぐに止血したし、切り落とした腕と足は布でくるんでから氷と一緒に袋に入れたわ」

「腕と足か…… 確かに切り方によっては、合わせて体重の14~15%は軽くできるね。あなたの体重からすると、6キロ分ぐらいは軽くできる」

「そう。そして和人は大きいドローンで、切り落とした私の手足を持って脱出し、私は軽くなった身体で、小さいドローンで脱出する。ああ、もちろん村の病院で、切り落とした手足はすぐに再建手術をしてもらったがね」

「アルバイトの医者がいたっけ? でもまあ、手術道具だって結構燃えたのに、よくやるね」

「それでも、彼が行っている紛争地域での手術に比べれば、はるかにマシだったそうよ」

 伊藤は肩をすくめた。
 信じられないような話だが、実際に切断された腕や足の再結合自体は不可能ではない。
 まして切断面が非常にきれいで、さらに切断後すぐに冷却し、五分以内に病院に運ばれていれば、さらに確率は上がるだろう。

「だが、分かっていてもできることじゃない。常人の覚悟では無理だ」

「覚悟を決めたのは私ではない。和人のほうよ」

「あの少年の発案か」
 
 伊藤が覚えている遠山和人は、そんな覚悟があるようにも、あの土壇場でそれだけの機転を利かせられるようにも見えなかった。
 あの局面で、腕と足を切り落とすという解決案を出せる人間がどれだけいるだろうか?
 死中に活路を見つけるどころの話ではない。
 狂気に活路を見つけたのだ。

「わずか一日で、ずいぶん大人になったな」

 伊藤はコーヒーを置いた。

「一ついっておく」

 幸子の声のトーンが低くなった。

「今回、助かったのは、お前の残していったドローンと日本刀、それと冷凍庫の氷のおかげだ。だから、今回は見逃す。だが、次に私や和人の目の前に現れたら、その時は容赦しない」

 伊藤は立ち上がった。
 
「月明かりに照らされて、まるで……」

「まるで?」

 魔女というより、聖女だ。
 それほど幸子は美しく、荘厳な輝きを放っていた。
 それは限界まで追い詰められ、尚そこから生還した人間だけが放つことのできる輝きだった。
 もし和人がこの場にいたら、きっと同じ輝きを放っていただろう。
 そういうつもりだったが、あまりにも気障なのでやめておいた。

「いや。何でもないよ。ただ世界のどこに行っても、こんな美人にはもう会えないだろうと思ってね」

 それだけいうと、伊藤は歩き出した。
 本心だった。
 幸子は座ったままだった。
 もう会う気はなかった。これからは世界を舞台に、弟と裏社会でのし上がっていくのだから。
 ただ、あの和人という少年が少しだけ羨ましかった。
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