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エピローグ
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「幸子さん、腕は大丈夫?」
ゆきの声はそっけなかったが、裏表のない声だった。
「大丈夫。少しずつだけど確実に良くなってきている」
「ま、それならよかった」
ゆきはそういうと、本棚へと向かった。
本棚の前では、すでに和人が一心不乱に90年代に書かれた本格ミステリー小説を読みあさっている。
「ねえ、読むんなら、ソファに座るとかしてよ」
妹の言葉に反論するでもなく、和人は本から顔を上げずに、幸子の隣へと移動してきた。
「そういえば、昇さんと未歩さんは?」
まだ今朝から顔を見ていない。
「ああ、あの凛っていう女が引っ越していったから、あの家を改修して、町営の図書館か喫茶店にでもしようっていう話になっているらしいよ。たぶんその打ち合わせだと思う」
「そう」
確証はなかったが、幸子は、伊藤があの凛という女に何か脅しをかけていったのではないかと、直感的に思っていた。
それが伊藤なりの、見過ごしてもらったことへの恩返しなのか、ただの気まぐれなのかは、幸子にも分からなかった。
ただ凛のことよりも、またゆきと会話できるようになったことの方が、幸子には嬉しかった。
文字通りボロボロの身体になり、無条件で庇護を必要とする立場になった幸子を目の当たりにしたことで、ゆきの中にある種の母性愛が芽生えたのかもしれない。
あるいは、ここで幸子の介護やリハビリを手助けすることで、自分の中のやましさや良心の呵責を打ち消せると思った可能性もある。
ただ幸子としては、その本心まで探る気はなかった。
ソファで軽くまどろみながら、手と足の傷をなぞっていた。
痛いような、痒いような、くすぐったいような感覚がある。
だが、なぞっていると、心が落ち着いてくるのだった。
いつの間にか、和人が本から顔を上げて、不思議そうに幸子を眺めていた。
幸子は軽く苦笑すると、手を止めて、ソファのクッションに頭を埋めた。
すぐに幸子は穏やかで、リズミカルな寝息をたてはじめた。
それを聞いて、和人は安心して、また本の世界へと没入していった。
おわり
ゆきの声はそっけなかったが、裏表のない声だった。
「大丈夫。少しずつだけど確実に良くなってきている」
「ま、それならよかった」
ゆきはそういうと、本棚へと向かった。
本棚の前では、すでに和人が一心不乱に90年代に書かれた本格ミステリー小説を読みあさっている。
「ねえ、読むんなら、ソファに座るとかしてよ」
妹の言葉に反論するでもなく、和人は本から顔を上げずに、幸子の隣へと移動してきた。
「そういえば、昇さんと未歩さんは?」
まだ今朝から顔を見ていない。
「ああ、あの凛っていう女が引っ越していったから、あの家を改修して、町営の図書館か喫茶店にでもしようっていう話になっているらしいよ。たぶんその打ち合わせだと思う」
「そう」
確証はなかったが、幸子は、伊藤があの凛という女に何か脅しをかけていったのではないかと、直感的に思っていた。
それが伊藤なりの、見過ごしてもらったことへの恩返しなのか、ただの気まぐれなのかは、幸子にも分からなかった。
ただ凛のことよりも、またゆきと会話できるようになったことの方が、幸子には嬉しかった。
文字通りボロボロの身体になり、無条件で庇護を必要とする立場になった幸子を目の当たりにしたことで、ゆきの中にある種の母性愛が芽生えたのかもしれない。
あるいは、ここで幸子の介護やリハビリを手助けすることで、自分の中のやましさや良心の呵責を打ち消せると思った可能性もある。
ただ幸子としては、その本心まで探る気はなかった。
ソファで軽くまどろみながら、手と足の傷をなぞっていた。
痛いような、痒いような、くすぐったいような感覚がある。
だが、なぞっていると、心が落ち着いてくるのだった。
いつの間にか、和人が本から顔を上げて、不思議そうに幸子を眺めていた。
幸子は軽く苦笑すると、手を止めて、ソファのクッションに頭を埋めた。
すぐに幸子は穏やかで、リズミカルな寝息をたてはじめた。
それを聞いて、和人は安心して、また本の世界へと没入していった。
おわり
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