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翌日、和也たちは朝の七時に大広間の長テーブルへと集まった。霧江はまたしても部屋に引っ込んだままだった。外では相変わらず雨が降り続けている。ラジオでは山道で土砂崩れが起きた話をしていた。ちなみに大広間にテレビはない。二階の部屋でも見た覚えはないので、相田正一がテレビを嫌うタイプなのかもしれないと和也は思った。
「霧江さんて朝ごはんは食べないタイプなのかな?」
「美人によくある低血圧ってやつじゃないのか?」
そんな話をしながら待っていた和也たちだったが、いつまでたっても松永が料理を運んでこない。
「遅いな。あの婆さん、いつまで待たせるんだ」
牧本がイライラした様子で大声をあげる。
「少し前に二階に食事を運んでいったけど、まだ降りてきてないわね」
乃愛がそういったとき、真が「しっ。静かに」と手をあげた。
全員が反射的に耳をすませると同時に「旦那様!? 旦那様!?」とさけぶ松永の声と、ドンドンとドアを叩く音が二階からひびいた。
牧本を先頭に階段を駆け上がり、廊下の突き当りの相田正一の部屋のドアの前に全員が集まった。
「どうしたんだ!?」
「それがいつまでたっても、旦那様がドアをあけてくださらないんです」
オロオロした様子で松永がいった。
「相田さん! 相田さん!?」
ドアを叩きながら牧本が大声で呼ぶが、返事はない。
「しょうがない。中に入るぞ」
「でもドアの鍵は中の旦那様しか」
「蹴破る!」
松永を無視して牧本が身体ごとドアにぶつかった。さすがにつくりが頑丈なせいか最初はびくともしなかったが、真や米塚も協力し、ついに丁番が吹き飛んだ。
部屋の中になだれ込み、最初に目に入ったのは口から泡を吹きベッドから転がり落ちている相田正一の姿だった。その顔は青色と黄色の絵の具を無理やり混ぜたかのような色をしていた。
「旦那様!?」
悲鳴を上げる松永を押しのけ、米塚がすっと相田の身体に近づき首に手を当てる。
「ダメだ。もう息はしていない。死後六時間は経ってるな」
「えぇっ!?」
「どうやら心臓マヒを起こしたようだな」
「心臓マヒだと?」
「ああ。出血や外傷の跡はない。その一方で胸をかきむしった様子はある。顔の色からしても心臓にダメージがったのは間違いなさそうだ」
確かに相田の寝間着は胸元のボタンが飛び散っており、ひどく苦しんだ様子が伝わってくる。
米塚はガタガタと震えている松永のほうに目をやった。
「松永さん。ちょっとお伺いしますが、相田さんは何か持病をお持ちで?」
「確かに高血圧の気はありました。でも薬も飲んでましたし、そんな突然……」
首を振る松永をみて、米塚は顎に手をやり考え込むしぐさをみせた。
「となると……なにかほかに理由が……」
「ルビーだ!」
牧本が突然叫び声を上げる。
「ルビーを確かめろ!!」
そう叫ぶやいなや、牧本は部屋の奥にあるタンスのような大きさの金庫に突撃した。大きな取っ手とダイヤル、それから鍵穴のついた金庫だったが、牧本が取っ手を回すと音もなく扉は開いた。
「ない!」
金庫を覗き込んだまま、牧本が絶叫した。
「どういうこと!?」
真が弾かれたように牧本に近寄り、金庫のなかを覗いた。
牧本が和也たちの方を振り返り、絞り出すような声でいった。
「『王家の涙』がなくなっている」
全員が固まったように動かなくなった。
和也は頭のなかまで固まってしまったような気になった。なにせ本物の死体をみるのはこれがはじめてなのだ。
「どうやらとんでもないことになったわね」
「霧江さん……」
いつの間にか霧江が背後に立っていた。
「とりあえず下に降りて、警察を呼びましょう。相田さんのご遺体は警察がくるまでそのままがいいわね」
「金庫は開けたまま?」
真がきいた。
霧江はその言葉に、すこし眉をしかめた。
「本来なら現場はそのままがいいんだけど、中にはほかにも宝石があるしね……」
霧江は金庫に近づくと扉を足で閉めた。
「松永さん、確かこの部屋には非常時用のアルミテープがありましたよね? 相田さんが前にインタビューで災害があった時のために用意していると話していました。あれで金庫をぐるぐる巻きにしてください」
松永は黙って金庫に近づくと、どこからかアルミ色のガムテープのようなものをとりだして金庫をぐるぐる巻きにしだした。
「とりあえず下に降りて、警察を呼びましょう」
米塚の声に全員が階段へと向かった。
「でもまさか相田さんが亡くなるなんて……」
「病気かな? でも松永さんの話じゃそんなものはないって……」
「殺されたわけでもないわよね? 外傷はないって話だし
」
「うん。でもひょっとしたら……」
真、乃愛、南が和也に視線を向ける。
「ひょっとしたら、なんだよ?」
「相田さんは宝石を盗まれる場面をみちゃったんじゃないかな?」
「なるほどね」
南が指をパチンと鳴らした。
「そのショックで心臓発作を引きおこしたってわけね、ありえるわ」
「霧江さんて朝ごはんは食べないタイプなのかな?」
「美人によくある低血圧ってやつじゃないのか?」
そんな話をしながら待っていた和也たちだったが、いつまでたっても松永が料理を運んでこない。
「遅いな。あの婆さん、いつまで待たせるんだ」
牧本がイライラした様子で大声をあげる。
「少し前に二階に食事を運んでいったけど、まだ降りてきてないわね」
乃愛がそういったとき、真が「しっ。静かに」と手をあげた。
全員が反射的に耳をすませると同時に「旦那様!? 旦那様!?」とさけぶ松永の声と、ドンドンとドアを叩く音が二階からひびいた。
牧本を先頭に階段を駆け上がり、廊下の突き当りの相田正一の部屋のドアの前に全員が集まった。
「どうしたんだ!?」
「それがいつまでたっても、旦那様がドアをあけてくださらないんです」
オロオロした様子で松永がいった。
「相田さん! 相田さん!?」
ドアを叩きながら牧本が大声で呼ぶが、返事はない。
「しょうがない。中に入るぞ」
「でもドアの鍵は中の旦那様しか」
「蹴破る!」
松永を無視して牧本が身体ごとドアにぶつかった。さすがにつくりが頑丈なせいか最初はびくともしなかったが、真や米塚も協力し、ついに丁番が吹き飛んだ。
部屋の中になだれ込み、最初に目に入ったのは口から泡を吹きベッドから転がり落ちている相田正一の姿だった。その顔は青色と黄色の絵の具を無理やり混ぜたかのような色をしていた。
「旦那様!?」
悲鳴を上げる松永を押しのけ、米塚がすっと相田の身体に近づき首に手を当てる。
「ダメだ。もう息はしていない。死後六時間は経ってるな」
「えぇっ!?」
「どうやら心臓マヒを起こしたようだな」
「心臓マヒだと?」
「ああ。出血や外傷の跡はない。その一方で胸をかきむしった様子はある。顔の色からしても心臓にダメージがったのは間違いなさそうだ」
確かに相田の寝間着は胸元のボタンが飛び散っており、ひどく苦しんだ様子が伝わってくる。
米塚はガタガタと震えている松永のほうに目をやった。
「松永さん。ちょっとお伺いしますが、相田さんは何か持病をお持ちで?」
「確かに高血圧の気はありました。でも薬も飲んでましたし、そんな突然……」
首を振る松永をみて、米塚は顎に手をやり考え込むしぐさをみせた。
「となると……なにかほかに理由が……」
「ルビーだ!」
牧本が突然叫び声を上げる。
「ルビーを確かめろ!!」
そう叫ぶやいなや、牧本は部屋の奥にあるタンスのような大きさの金庫に突撃した。大きな取っ手とダイヤル、それから鍵穴のついた金庫だったが、牧本が取っ手を回すと音もなく扉は開いた。
「ない!」
金庫を覗き込んだまま、牧本が絶叫した。
「どういうこと!?」
真が弾かれたように牧本に近寄り、金庫のなかを覗いた。
牧本が和也たちの方を振り返り、絞り出すような声でいった。
「『王家の涙』がなくなっている」
全員が固まったように動かなくなった。
和也は頭のなかまで固まってしまったような気になった。なにせ本物の死体をみるのはこれがはじめてなのだ。
「どうやらとんでもないことになったわね」
「霧江さん……」
いつの間にか霧江が背後に立っていた。
「とりあえず下に降りて、警察を呼びましょう。相田さんのご遺体は警察がくるまでそのままがいいわね」
「金庫は開けたまま?」
真がきいた。
霧江はその言葉に、すこし眉をしかめた。
「本来なら現場はそのままがいいんだけど、中にはほかにも宝石があるしね……」
霧江は金庫に近づくと扉を足で閉めた。
「松永さん、確かこの部屋には非常時用のアルミテープがありましたよね? 相田さんが前にインタビューで災害があった時のために用意していると話していました。あれで金庫をぐるぐる巻きにしてください」
松永は黙って金庫に近づくと、どこからかアルミ色のガムテープのようなものをとりだして金庫をぐるぐる巻きにしだした。
「とりあえず下に降りて、警察を呼びましょう」
米塚の声に全員が階段へと向かった。
「でもまさか相田さんが亡くなるなんて……」
「病気かな? でも松永さんの話じゃそんなものはないって……」
「殺されたわけでもないわよね? 外傷はないって話だし
」
「うん。でもひょっとしたら……」
真、乃愛、南が和也に視線を向ける。
「ひょっとしたら、なんだよ?」
「相田さんは宝石を盗まれる場面をみちゃったんじゃないかな?」
「なるほどね」
南が指をパチンと鳴らした。
「そのショックで心臓発作を引きおこしたってわけね、ありえるわ」
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