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第1章 : 慣れろ!てつお
第1話「魔王、倒してくれる?」
しおりを挟む「じゃあまずステータスオープン魔法の呪文を教えるわネ。“マナイバ”よ。唱えてみて」
俺の名前は佐藤てつお。高校生だったはず。
「マナイバ」
てつお・さとう
レベル:1
HP:999
MP:999
攻撃力:99
守備力:99
素早さ:99
魔力:99
魔法耐性:99
それが何故、「マナイバ」とか変な呪文唱えてるんだろう。てかここ、どこなんだろう?今何時だろう?昼っぽいな。夢見てんのかな?
「へー、これが俺のステータスねぇ。何か凄そう。何か下の方にいっぱいスキルもある」
頭がついていかなくても、言葉は自然に出てくるもんだ。自分でもちょっと驚いた。
「レベルの数字とステータスの数字が微妙に違うの分かる?」
そもそもコイツ誰なんだろう。知り合いぐらいの距離感だけど。
「あ、ホントだ。レベルのとこのは何か小さくて細いけどステータスはデカい?」
「そう、まあそっちの世界で言えば半角と全角ね。半角の数値が10,000になったら全角の1になるのよ」
「マジか。すげぇ。じゃあ全部99万か、めっちゃ強いじゃん俺」
【テキトー会話術】というスキルがあれば、俺は間違いなくマスターしている。だけどそろそろ限界だった。
「ごめん、ところで君は誰だっけ?」
「ん?あ、そっか!こっちの姿だから分かんないか!あたしよ!女神様!あんたをこの世界に召喚した!」
「あ、俺やっぱ召喚されてたっけ」
「ハァ!?小一時間ぐらい説明したじゃん!」
あー、だんだん思い出してきた。何か死にかけて変な空間行って知らない奴がすげぇ喋ってた気がする。
「あ~……アレな!あの時な!」
「……その感じは何も聞いてなかったのね」
うーん、ごめんなさい。俺の横には「シュン……」という擬音がついてそうだった。
「ゴメン、全然覚えてない……」
このちっこいのはおでこに手を当てて首を横に振りながら特大のため息をついた。この仕草、実際目にするのは初めてかも。
「よぉし、再現VTR呪文唱えましょ!同じこと何回も言うのマジ勘弁」
そう言うと彼女は何かブツブツ唱え、空間に魔法のスクリーンを創り出した。へー、便利な魔法だな。それにしても再現VTRとは……この女神様、俺らの世界に馴染み過ぎてねーか?
スクリーンには霧が立ち込めた空間が映し出される。霧の中でボーっとしている男。あ、これ俺だ。
「え、これ俺?こんなに色白だっけ恥っず」
「黙って見ときなさい!」
霧の中から、昔流行った心霊番組のような演出と共に全裸の美女が現れた。
「ホレ。これが本来のあたしね。美人でしょうが」
「黙って見ときます」
光と霧に包まれた女神様が話し始めた。
『……ワネ……シガ……シャニ……』
すげぇエコーかかって何言ってるか全然分からん。
「ちょっと何言ってるか分かんないんだけど」
「……ちょい演出過多だったワ。神秘性が欲しくて……字幕オンにしとく」
そんな機能もあるのか。便利。
『よく来たわね。私があなたを呼んだの。あなたには勇者になってもらうわ』
ありがたい。字幕が無ければ絶対に聞き取れなかった。
『そもそも私が、あ、私は女神なんだけど、そう、私がこの世界を作った時に……』
あ、コイツ説明下手なタイプだ。字幕があるのに何言ってるか全然分からん。
『そんなこんなで魔王は私の力じゃ干渉出来ないから、異世界の人が必要なのよ。そこで私の世界によく似たRPGをやり込んでたあんたを呼んだってワケね』
すごいテキトーな人選だなぁ。もっとやり込んでる人ツイッターで見たぞ。
『本来あなたはあの事故で即死なんだけど、あたしが踏ん張って命繋いでるのよ。そこでお願いなんだけど、魔王倒してくんない?異世界補正はちゃんとあるから』
小一時間のうち、本当に重要な情報は一割に満たなかった。
「なるほどね、だいたい分かった……多分」
「オッケー!じゃあ早速……」
説明することが山積みなのか、いそいそと話し始めるチビ女神様。でもちょっと待て。俺は左手の人差し指と親指でLの字を作って女神様を制止した。話の腰を折る時の癖だった。
「……俺、元の世界に帰らなきゃダメなの?」
当然の疑問だった。元の世界は嫌いじゃなかったけど、別に好きでもない。最強のステータスを持つ今のままでテキトーに暮らす方が楽しそうだった。何より魔王を倒すなんて、最強のステータス持ってても面倒くさいはずだ。
「ごめんなさい、てつおくん」
意外なリアクションだった。左手からLの字が消えた。
「あなたは帰らなきゃいけないワ。理由は二つ」
今度はチビ女神が左手でLの字を作った。真似しやがってこいつ。
「まずひとつ。あなたのステータスはレベル上昇と共に大きく下がっていくの。この世界での経験を積むことで異世界補正が薄れちゃうからね。1レベルにつき、だいたい全角で5ぐらい下がってくわネ、いやもっと大きく下がるかも」
「マジか」
マジか。そんな仕様だとは。調子に乗って天下無双の英雄ごっこをしてはいられないワケだ。少し考えて、俺は訊ねた。
「……でも、じゃあなおさら魔王倒す旅に出る必要ないじゃん。死にたくないし。そこら辺でスローライフでも……」
親指を折り畳みながら、チビ女神の残りの人差し指が俺に突きつけられた。
「ふたつ目はさっきの映像魔法を巻き戻せば説明不要ね。ホイ!」
俺から魔法スクリーンに向けられた人差し指から光の粒が放たれ、例の無駄や改善点の多い説明文が巻き戻っていった。どんどんと映像は戻り、暗闇が続いた。
「……そういえば俺は死にかけてるんだっけ」
「そうね。交通事故……あ!この辺でいっか」
病院の廊下が映っていた。母さんと姉さんが手を握りあって座っている。少し離れて知らないオッサンが父さんに必死で頭を下げている。運転手かな。その横を通り過ぎながら、母さんと姉さんの方へ進む少女が見えた。
「あ、あれ東条院?……あ、思い出してきた」
あの日は確かすげぇいい日だったんだ。東条院麗華。保育園の頃からずっとつるんできた幼馴染だ。
何かしら、俺には絶対できないようなことをしては見せびらかしてくる奴だった。俺が全然素直に褒めれないもんだから、ムキになって延々と何かを見せびらかす内に、あいつの目標は俺に褒められることになっていったらしい。
その東条院が、あの日とうとうバイオリンのコンクールで入賞した。八歳の頃からずっと目標にしてきたことだった。
やっぱり自慢してきたからおちょくってウザ絡みして、何だかんだ今回ばかりはキチンと褒めて少し遠い店のアイスを奢った。全財産の630円が消えたけど、奢らされてはいない。
「そっか、あの帰り道にトラックで……」
魔法の映像が喋り出す。何かを震える声で呟いた後、東条院の何かが爆発した。
『ごめんなさい!ごめんなさいおばさん!うわぁー!』
東条院の涙声。ごめんなさいなんてセリフ、あいつからは初めて聞いた。
『私がいつもと違う帰り道に誘ったんです!私が……!』
何も言わずに東条院を抱きしめる母さんと姉ちゃん。東条院の頭を撫でている。こんな姿初めて見た。
母さんって、無断で俺の部屋掃除したり勉強しなさいを言うだけの機械じゃなかったんだ。
姉ちゃんって、無断で俺の漫画を読んで菓子クズ挟んで返したり、いきなり足でリモコンいじってチャンネル権奪うだけの機械じゃなかったんだ。
みんな、俺が死んだら泣くんだ。
チビ女神様が魔法スクリーンを消した。
「……とまぁ、これが二つ目の理由。早い話が、あんたは植物状態なの。こっちの世界の一年は向こうではだいたい一日。魔王倒せたら意識が戻る。そんな感じ」
チビ女神様って、簡潔な説明できるんだ。てか俺死んでなかったのね。
「……魔王、倒してくれる?」
そろそろ【テキトー会話術】スキルを解除しとこうかな。
「……やるよ俺。それしかないんだろ?帰らなきゃな、アイツの為に……」
やっぱりもう一回使おう。恥ずかしい。
「そう、俺を轢いちゃった運転手のオッサンが可哀想だからな。魔王倒すとか一回やってみたかったし」
チビ女神様は大きくうなずいた。
「……ありがとう。巻き込んじゃってごめんなさい。あたしにできることは何でもするわ」
あれ、【テキトー会話術】マスターできてなかったっぽい。
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