9 / 38
第1章 : 慣れろ!てつお
第5話「仲間が必要」
しおりを挟む多分今日の夕方ぐらいがヤマだろう。
オルズさんの最大HPは100を切ろうとしていた。
このステータスを、カノーさんに見せておいた方がいいかもしれない。
「カノーさん……ちょっとお伝えしたいことが」
辛い事実だからこそ、伝えておいた方がいいよな。
カノーさんは何となく覚悟をしていたらしい。あまり驚いていなかった。
「……ありがとう。あなたの“マナイバ”だもの、間違いないのよね」
「……今日の夕方ぐらいだと思います。どうでしょう、今日はパン屋はお休みにして……」
俺だったらそうしたいと思って言ったけど、カノーさんは違ったらしい。
「ううん、あたしはパンを作らなきゃ。いつもそうしてきたんだもの。でも、そうね……夕方にはお店は閉めちゃいましょうか」
するとそこへ、タキオくんが起きてきた。
「フワァ~、おはようてつおさん。おねーちゃん……ウーン」
何が起こるのか分かってなさそうな呑気なあくびと背伸び。
ああめっちゃ辛い。胸が苦しくなってきた。
夕方には、この子は目の前で避けられないことを経験するのか。
女神様。どうにかならんのか。
いつかは起こることなのは分かる……分かるけどあんまりに可哀想だぞ。
こんな良い子にしてたんだから特別扱いしてやれんのか!
「タキオ。今日の夕方にはね、おばあちゃんは遠くへ行っちゃうの。今日は配達はいいから、今のうちにいっぱいお話しとくのよ」
カノーさんは優しく微笑みかけながら言った。
しかしタキオくんの返事に俺は耳を疑った。
「……イヤだ。話したくないよ。配達もするよ。だってもう話すことがないんだもん」
えぇ?どういうことなんだよ。それはちょっと冷たくないか?タキオくんよぉ。
「まぁ!冷たい子ね!どうしてそんなこと言うの?もうおばあちゃんに会えなくなっちゃうのよ!?」
当然カノーさんはそう言うわな。俺も同じ気持ちだ。
「おばあちゃんだって、僕のお話が退屈なんだよ。だから目を覚まさないで遠くに行っちゃうんでしょ!?」
「いい加減にしなさい!」
あーやばい!今日は一番仲良くしなきゃダメだろ二人とも!
「……イヤだったらイヤだ!」
そう言うとタキオくんはどこかへ駆けていった。
マジかよ。いやでもあのぐらいの子ってこんな感じかもなぁ。
とりあえずフォロー入れないと。
「……大丈夫すか、カノーさん……」
ンアー!何言えばいいか分からん!重っ!
「大丈夫よ……いつかあの子も分かってくれるわ……そうよね?」
「そ、そうですよ!僕ちょっと追いかけてきます!」
俺はそう言って家を出た。何してんだ俺。
追いかけるってのは口実で、本当は泣きそうなカノーさんの顔に耐えられなかったんだ。
ダセェ。
“マナイバ”を唱えれば、【究極魔法】の波動でタキオくんがどこにいるかは一目瞭然だった。
タキオくんを見つけた。街のど真ん中を貫く川の岸辺に座っている。いつになく涼しい風が吹いていた。
川の水は決して浅くないのに、底まで透き通っていた。
どう声をかけていいか分からなかったので、俺は何も言わず隣に座った。
川のせせらぎと草花の揺れる音だけが聞こえてきた。
沈黙を破るのはいつもタキオくんだった。
「これ、おばあちゃんに貰ったんだ」
そう言うとタキオくんは緑色に光る宝石がはめ込まれたペンダントを見せてくれた。
「おばあちゃん、昔は首都で大魔法使いとして働いてたんだよ。これはその退任祝い?だったかな?それで王様から貰ったペンダントなんだって」
「このペンダントを見せる度にね、おばあちゃんは大魔法使いだった頃のお話を聞かせてくれてたんだ。世界中に行って色んな人に会って、色んなステータスを見てきたって」
タキオくんは合間合間にペンダントを覗き込んでいた。
「でも、僕分かっちゃったんだ。僕はおばあちゃんに話せるような立派なお話を何も持ってないんだ。てつおさんのステータスぐらいかなぁ」
確かにおばあちゃんも異世界から来た奴は知らなかっただろう。
「だから僕、おばあちゃんに胸を張って話せるような旅がしたいんだ。世界の果てまで。これ以上おばあちゃんに退屈な思いをさせたくないんだ」
そうか、それで話したくなかったのか。
それじゃ、間に合わないんだよ……
とてもそうは言えなかったので、また黙るしかなかった。
「でも、僕一人で行けるところなんて……おばあちゃんはもう飽きたところばっかりなのかなぁ……また遠くに行っちゃうんだし」
タキオくんはペンダントの宝石の中を覗き込んではいたが、その目はもっと遠くの空を見ていた。
俺は何となく背筋がゾワゾワした。
遠くを見る少年。おばあちゃんが死ぬ時だというのに、もうこの村なんて眼中にないその目。
いや違う。本当に、純粋に死別というものが分かっていないだけなんだ。
もう会えないと皆が言う。でもタキオくんは、その理由が遠さだと思ってしまう。
だからこそ誰よりも遠くに行きたいと思う。確かに筋は通ってるんだな。
いやぁ、俺もカンペキに死別ってのが分かってる訳じゃないと思うけどさ。
不思議とあっという間に時間が過ぎていった。もう正午だ。
「帰ろうか……もうお昼だ。カノーさんにも今の話してあげなよ」
「うん、帰ろう」
パン屋“オルズ”に帰ってみると、村中の人で溢れかえっていた。みんなが順番に並んでいる。しかしパンを買っている訳ではなかった。
「あ、お帰りなさい。あたし、ついおばあちゃんが夕方までもたないって言っちゃったのよ。そしたらこんなになって」
すっかり隅っこへ追いやられたカノーさんが迎えてくれた。
村の人たちの行列は、おばあちゃんの部屋に続いていた。村人たちは、代わりばんこに思い出を話しては去っていった。
「じゃあね、カノーちゃん。昇天の儀式はあたしたちに任せておいて」
「一回ぐらいオルズとキスしたかったわい。ワシもすぐ追いかけようかの!なんつってな」
「ありがとうございました、村長さん」
村長夫妻と思われる老夫婦が去っていった。
村長はタキオくんの頭をポンポンと叩いて帰っていった。
こんな感じで行列は進んでいき、挨拶をしていった。そしてその際に少しずつお金を置いていった。
この国の通貨はカン。50カンで普通のパンが一斤買える。寄付金は全部で2230カンにものぼった。
金額が人望を表しているとは思わないが、紛れもなくこの家族が生み出したお金だと思う。
この家族は、皆に大事にされていたんだ。
この行列が綺麗にいなくなると、それまでが騒がしかっただけに、余計に寂しく感じた。
風の吹く音と少し軋む窓やドアの音だけがこの家にあった。
誰も何も喋らない。
西の窓から少しずつ少しずつ日差しが入ってきていた。
唱えておいた“マナイバ”で、カウントダウンのように最大HPが減っていくのが見える。
少し残酷なような気もするけど、カノーさんが頼んだことだった。
HPがもう残り5しかなくなった時、三人が揃っておばあちゃんの部屋に行った。
少なくとも俺は、最後の最後まで、大魔法使いオルズの立派なステータスを目に焼き付けておきたかった。
これまでHPの減っていくペースはバラつきがあったけど、今はだいたい2分ぐらいで1ずつ下がる。非情なほど規則正しく下がっていった。
4……3……2……1……
その時が来た。ステータス画面は消え、世界中に膨大な量の経験値が散らばっていった。この世界の死は、あまりに目で見て分かりやすかった。
その夜、皆が寝静まった後、俺はこっそり家を出た。
懐中時計のフタが開いた。
「え?え?何?もうこの村出ちゃうの?」
「あ、女神様。“昇天の儀式”って何?」
「ん?あぁ、お葬式みたいなもんネ。魔物の場合は、経験値が飛んでった後の死体はしばらく経つとスーッと消えちゃうでしょ?精神がある生き物は違うの。“魂”ってやつが死体から抜け落ちないと消えないの。で、それを魔法で派手にやるのが“昇天の儀式”よ」
「……魂の行き先ってもしかして」
「あ、鋭い。その通り、この私のところよ」
「じゃあ明日、魂がこの懐中時計に飛んでくるのを村の全員が見るわけか」
「多分ネ。この身体に入ってても、儀式までされたら確実にあたしのとこまで来るワ」
「なるほど……じゃあ明日の儀式で俺のことはバレちゃうのか」
「そうネ。だから出て行くの?」
「……そういうワケにもいかないよなぁ」
「……帰ろ。外はまだ寒いわよ」
「ところで……【究極魔法】って絶対特別なスキルだよな?」
「ん?まぁそうネ。この世界始まって以来見たことないわよあんなスキル」
「だよな……で、俺には仲間が必要だ」
「まさか」
「で、タキオくんには旅が必要だと思うんだけど」
「でも……あたし達の旅は魔王を倒す旅なのよ?あんなちっちゃい子には荷が重いってば」
「……だよなぁ」
俺は考え込みながら、懐中時計を勢いよく閉めた。
指を挟んだ女神様の小さい悲鳴が聞こえた。
どっちにしても、明日この村を出よう。
出なくちゃ一生出れなくなる。俺にはあの家族が立ち直るまで見守る時間はないんだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる