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第1章 : 慣れろ!てつお

第5.5話「旅に必要なもの」

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……もう、一年ぶりか。
カノーは元気だろうか……終わらない春のような人だ。
世界中を飛ぶ、俺という凧の糸を持つ存在さ。
俺の季節は冬で止まっている。
五年前の、あの日からずっと……



俺は誰だ?誰もがこの問いに答えられずにいる。
人々は女神様に答えを求める。“マナイバ”と呟けば女神様が答えてくれるからだ。
きっと俺のステータスには、こう記されているのだろう。
名前はジューク・コーゲン、職業は冒険者。
だが俺にそれを見る目はもう無い。
目が見えなくなった俺は、あの問いの答えを自分で出す必要があるんだ。
俺は世界中を探し回った。
故郷、タイオーには見つけられなかった、その答えを。



王国親衛隊、隊長。それは本当の俺じゃなかった。
五年前、魔王軍を退けた時に若き国王にそう言われただけだ。
王を守った。民を守った。国を守った。
だが俺は失った。
目を失った。光を失った。そして何よりも……
ひとりの少女の命を、失ってしまったんだ。
カーサ……俺はお前を守れなかった。
俺がお前に弓を教えなければ、俺がお前に世界を教えなければ。



だが俺はそろそろ変わらなければならない。
先日、奴の経験値が俺をここへ呼んだ。
五年前の魔王軍の生き残り、翼熊獣リズロ。
村の皆には森の主と言って恐れさせた、あの魔女の召喚獣だ。
奴を倒すような者が、この世界にいようとは。
五年前、俺の目とオルズ様の寿命と引き換えにあの森へ封印した、忌まわしき魔女の呪い。
その呪いが、何者かの手で解かれた。
俺が世界中を探し回っても見つからなかった答えが、よりによってあの村にあると言うのか。



俺の旅も、もう終わりにしなければ。
旅に必要なものが、ようやく分かった。
それは能力値でも、知識でも、物資でもない。
必要なものは、瞳だ。
はるか遠くを見据え、まだ見ぬものに憧れ、出会いを喜ぶ、その心。
これこそが、旅の瞳というものだ。
俺にはもうそれがない。
視力を失っても、瞳を失うべきではなかった。
馬鹿だよ、俺は。
世界の果てまで旅をして見つけたものは、もう何も映さない瞳だったんだから。



さあ、もう帰ろう。俺の故郷、タータケへ。
呪いは解けた。俺を見つけたよ。
後は季節が俺を通り過ぎていくだけさ。
冬に引きこもるのは、もうやめにしよう。
カノー、俺の瞳に君が映っていてほしい。
俺はその姿としてこれからを生きていきたいんだ。


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