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第2章:飛び立て!てつお
第11.5話「私がこの手で」
しおりを挟むさて、覚悟を決める時が来た。
私の……いや、“親衛隊隊長ハヤ・ソフレン”の秘密はゲラーカ家の者に握られていると考えるべきだ。
誠に腹立たしい嫌がらせは激化する一方だ。
しかしこの嫌がらせはゲラーカ家が根源ではない。
ある意味では、私が生まれた前からずっとこの国にあったものだ。
生まれる前から気づけば身近にあり、生きていく上で自然とその中に組み込まれていく。
誰もが無意識のうちにこれを行う。
ゲラーカ家は私に害を及ぼす形で実行しているだけに過ぎない。
恐らく私もそれと知らず行ってきたのだろう。
そして誰かが、誰にも気づかれぬのうちに何かを諦めることになるのだ。
我が身に降りかかってようやく、私が行ってきたことが悔やまれる。
そもそも私がこれに屈しなければ、カーサは死なずに済んだではないか。
“ソフレン家の長女カーサ”は、私が殺したも同然だ。
だが、それとこれとは話が別だ。
私がこの手で殺したからこそ、今更奴らに彼女を引っ張り出させる訳にはいかない。
私がこの手で決着をつけなければならない!
こうなれば、誰を頼りとするのも間違いだ。
ある意味では、国全てを巻き込んだ私一人の問題だ。
私は今こうして自分の屋敷にいるが、それでもこのターバンを外すわけにはいかないだろう。
もはやどこの誰が彼らの手の者か分からない。
この国で信頼できるのはバン様とお父様と……今、王立魔法学校から帰ってきたこの妹のルミナだけだ。
「お帰りルミナ。……学校はどうだった」
「あ……その……大丈夫よ……」
まさか。妹の身にまで彼らの嫌がらせは及んでいるのか?
「どうした?まさか……イジメられているのか?」
「……うん。マモヤ・ゲラーカさんは私が許せないみたい。私のせいで皆の教育レベルが下がるって」
……!またしてもゲラーカ家か。
マモヤというと……あの一人娘まで加担しているというわけか。呆れたものだ。
「でもね、わたしは変わるの」
「うん?」
「今日助けてくれたタキオって人と約束したから。彼ね、オルズ様のお孫さんなのよ」
「何!?オルズ様の!?」
これは驚いた。最近は本当に何もかもが起きている。
私の改名の儀式を執り行った恩深き大魔法使い、オルズ様の孫がこの街に来ていようとは!
ここ最近の唯一の明るいニュースだ。
「それは素晴らしい……おっと、もうこんな時間か。さて……少し水浴びをしてくる。手伝ってくれないか」
「うん!」
束の間の休息だった。
ルミナに対しては、全てをさらけ出して安堵することができる。
さて、今夜は“ガマデン”という酒場に行く。少し手荒な真似も起こるかもしれない。
「いつもよりきつく縛っておいてくれ。少しばかり激しく動くかもしれないのでな」
「そんな……!危ないことするの?」
「心配するな。万が一のためだ。それに……最近はこの秘密を疑う者がいてな」
「……わたしも気をつけるわ。つい喋っちゃわないように……はい!こんな感じでどうかしら……」
「うむ。ありがとう。ターバンも巻いてくれないか」
「……いつもより大きめに巻いておくわ」
「……ルミナ。お前がいてくれて私はどれだけ助かったか分からない。そのお前を助けてくれた少年……タキオといったな?オルズ様のお孫さんは……彼にもしも会えたなら、何か力になるとしよう」
「ほんと?ありがとう!」
さて、ルミナのおかげで支度をすることができた。ちょうど酒場に客が満ちる頃合か。
覚悟はできた。あとは行動あるのみだ。
小高い丘にある私の屋敷の窓からは、“ガマデン”の屋根が辛うじて確認できる。
親衛隊に支給される弓でも充分狙える距離だが……念には念を入れておこう。
久方振りだな……再び我が愛弓“嶺雨泉”を再び使う日が来ようとは。
ジューク、貴方がこれを私に手渡しながら言ったことがこの胸に蘇る。
五年前の……いやもっともっと前から貴方は私の壁をこの弓矢で貫いていた。
「燃え落ちる家の誉れとなるか……」
弓に凍てつく矢をつがえる。
あの頃は、ジュークだけが私の引く弓の先を共に見てくれていた。
そしてそれはバン様を、オルズ様を、この国をも動かしたのだ。
「育ちゆく家のための恥となるか!」
私の“ルブル”を纏い、矢は“ガマデン”の屋根の窓へ放たれた。
矢が通った空中に氷の道が形作られる。
これが魔力を弦にした“嶺雨泉”の効力だ。
私がこれを滑り降りれば、この戦いの始まりだ。
ゲラーカ家、メロンジ団、マゴシカ帝国……
そしていつか必ず襲い来る魔王軍!
私は屈しない!戦い続ける!守り続ける!
私はこの氷の矢の軌跡に迷いなく飛び乗る。
そこに後悔はあるはずがない!
この弓は間違ったものを射ない!
「タキオ!!」
「うぐあーーっ!」
店内が騒がしいな……って、タキオ?
誰かがそう叫んでいたのか?
くっ……メロンジの奴を今夜中に拷問するつもりだったが……
ダメだ。今夜のところは穏便に済ませねばなるまい。
店ごと吹き飛ばすつもりだったが……屋根を崩すとするか。
「“ルブル”!矢の軌道よ!屋根へ逸れろッ!」
……よし。狙いは逸れた。
ついでに……降りておくか。
押し入ることはするまい。入り口から、入るとするか。
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