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第3章:てつおVSチトセ!
第21話「タイガー・パンチ」
しおりを挟む真っ黒な大蛇の尾が、砂塵を巻き上げながら地上を薙ぎ払う。
ハヤさんは空中へ逃れながら矢を放つ。
その矢の飛ぶ軌跡に、氷の道が出来上がる。
この氷の道を走って、ハヤさんはゲラーカの周囲を飛び回っていた。
六本の腕や蛇の尾によって、氷の道は砕かれ、矢によって新しく作られていく。
この氷と砂の祭典の中をかいくぐって、タキオくんと王様バンは西の離宮へ一目散に走っていた。
きっとあの王様のことだから、また何か国宝が、不思議アイテムがあるのだろう。
あの二人は、どうにか危険な目にはあわなそうだった。
以上のような戦場を足元に見ながら、俺は瓦礫を探した。
魔女チトセはゲラーカを放ってから、砂煙と瓦礫に紛れてどこかへ消えた。
だけど奴の狙いは分かっている。【究極魔法】の呪文を探しているはすだ。
つまり、正しい瓦礫を探している。
俺にはその正しい瓦礫が分かる。女神様と一緒にいるからだ。さっきまでのチトセと同じやり方で、瓦礫を探せばいい。
「あ!あそこ!あの怪物の尻尾のとこの山の下にある!」
「よーし!ついでにハヤさんの援護もする!行くぞッ!つかまれ!」
衰えたとはいえ、俺の素早さは80万ある。
黒巻き角や六本の腕、大蛇の尾とそれを取り巻く氷の道を避けながら目的に向かって飛ぶことは簡単だった。
すれ違い様にハヤさんに【回復魔法】を唱えておくこともできた。
タキオくん達は中庭の戦場の飛び火の心配がないところまで行けている。
ハヤさんも、とりあえず死ぬことはないだろう。
そして俺の集めた呪文付きの瓦礫も、実はこれで揃った。
おそらく戦況は、俺たちの圧倒的有利に進んでいる。相変わらずチトセの姿はどこにも見えない。
もしかするとチトセはただ逃げただけなのかもしれない。
魔力やスキルでは絶対に敵わないし魔法耐性も下がったとはいえ、まだ俺は総合的にはチトセより強いかもしれない。
だとすると賢いやり方だ。自分の召喚獣を犠牲にせずに俺たちを足止めできて、無事に逃げ切れる。そして俺や女神様の情報を魔王軍に伝えることができる。
……いや、それでもここは俺たちの勝ちだ。
俺は魔王軍の情報と魔王の居場所を知り、【究極魔法】の呪文まで手に入れた。
王宮は壊れてしまったし街の人も大勢死んだのかもしれない。
だけどそれ以上はさせてない。勝ちだと思う。
……と、俺が中庭の戦いに、心の中で勝ち鬨をあげていた時だった。
何となく空の色が変わったような気がした。
それまでの眩しい太陽の光ではなく、何かイルミネーションみたいな色付きの光が俺たちを照らしている気がした。
空を見上げてみると、何か青い光の筋がパラパラと何本かあった。それぞれがどこかへ伸びている。
それぞれが伸びて行く先を目で追うと、あやとりみたいにどこかしらで結ばれていくのが分かった。
俺には何となく分かった気がした。
「う……ッそだろ……まさか……」
俺は【飛行】で上空まで飛んだ。高度を増す毎に、光の筋が何であるかが分かっていった。
「マ、マジ……?これって……!」
光の筋は、見慣れた幾何学模様を作っていた。【召喚魔法】を使う時に浮かび上がる、あの模様だ。俺も何度か使ったから見たことがある。
あまりに巨大過ぎて図形を描いている線だと分からなかっただけだ。
王宮を、いや、城壁で囲まれたこの街全てを!すっぽり覆えるほどの魔法陣が出来上がっていた。
何てちっぽけだったんだ、俺たちが戦っていた場所は。俺の頭の中の戦況とやらは!
「オイオイオイ!やべーぞこれ!何が召喚されるか知らねーけど!どうにかできねーの!?」
「あー、えー、えーと!ぶ、【分解】よ!どんな魔法も【分解】はできるワ!」
「さっきまでの俺の魔力でも完全には【分解】できなかったんだぞ!?衰えた今の俺でできるのか!?」
「そんなこと言われてもー!……あ!待って!?そうだ!ワンチャンこれならいけるかも!」
女神様が久々に役に立ちそうな雰囲気を醸し出してきた。
「スキルの複合技!さっきからチトセがやりまくってるアレよ!【分解】のレベルが低くても、他のスキルと複合すれば強烈な技になるワ!」
「今までやったことないのに今できるか!?」
俺たちが言い争っていると、遥か下のちっぽけな戦場から轟音が響いてきた。
大きな砂煙が立っている。氷の道が砕け散っているのか、キラキラと光っている。
「……やるしかねーか!!何と何を複合すればいい!?」
「“マナイバ”!えーと……今使えそうでレベルが高いのは……これ!【拳闘術】!!」
「【分解】と【拳闘術】?つまり拳に【分解】を纏わせるわけか!?何かコツは!?」
「わ、わたしはできないから分かんない!」
ええい!あと一歩のとこで頼りになんねーな!
と、俺がイラッとしてしまったその隙を突かれた。
いつの間にか、俺の上空にいたチトセが放った、雨のような【電撃魔法】とか【氷結魔法】を避けるので精一杯だった。
猛スピードで降下してくるチトセが、俺たちの集めた瓦礫を盗み取るのを阻止できなかった。
「しまった!!」
「ダ、ダメ!追いかけちゃダメよ!この【召喚魔法】が実行されたら街ごと消し飛んじゃう!」
「くっ……そォッ!!」
チトセが大人しく逃げる訳がなかった。
でも悔やんでる時間はない。そこはエマエの言う通りだ。
「スキル複合技!これしか皆を救う方法はないの!」
その通りだ。やるしかない!余計なことは考えてる暇がない!
「……よし……!落ち着け俺……できる……【分解】は魔力の網目だ……網目を拳に……」
【分解】で括る網目のイメージを、自分の拳に巻きつけた。当然、自分の拳は【分解】できない。
すぐに【分解】は解除されてしまう。
「だぁぁ!いやいや落ち着け俺……できる……できるぞ頑張れもう一度……」
ブツブツ早口で言いながら自分の拳を【分解】しようとし続ける俺を見かねて、エマエが声をかけた。
「落ち着いて!思い出して!あんた一回はスキル複合技を使ってるのよ!」
「網目が拳に……お、俺が!?いつ?」
「ホラ!タキオのおばあちゃんの魂をペンダントに封じ込めたでしょ!アレは【分解】と【調合】と【召喚魔法】と【マナイバ】よ複合技よ!」
「マ、マジ!?そんなにたくさん……!?でも、あの時はよく分かんなくて夢中で……!」
「だから落ち着いて!きっとできるはずよ!てつおなら絶対できるワ!」
エマエが俺の手を握りしめた。励ましてくれるつもりだったんだろうが、俺の【分解】に触れたせいで、エマエの服は次々と【分解】されていった。
「うわうわうわぁっ!ちょっとタンマ!!?」
服は糸や繊維が複雑に絡み合っていた。【分解】されるとよく分かる。
綺麗にバラバラと解けていく服を見て、俺はコツが分かった気がした。
「……そうか!【分解】は魔力の網目……!拳に纏わせるんじゃなくて、指を通すんだ!」
「ま、待って!そんなに見ないで!恥ずかしい!」
俺はもう一度【分解】の網目を作り出した。
そして手を差し出す。今度はグーじゃなくてパーだ。網目に決して触れないように指を通しまくって、【分解】の網目を束のようにした。
「これだ!この感覚だ!できてる!」
俺の指の間にできた【分解】の束を握りしめる。今度はもう解除されなかった。
後はこれを拳の振りに任せて、あの召喚陣に投げつけるだけだ。
「待って!全く眼中にないのもそれはそれでイヤ!!」
手の中の網目の束は、徐々に固まって魔力の塊になっていた。
感覚としては、手の指と指の間全てに長い爪が生えたような感じだ。
このまま拳を突き出せば相手の鎧を【分解】しながら殴れるだろう。
だけど今回はそれじゃ召喚陣に届かない。
そこで、パーのまま拳を振る必要がある。
「よし、ひっかくように……腕を、振る!!」
俺の腕の振りに合わせて、上空の召喚陣の一部分に爪跡が残った。
「よし!できたぞ!!」
と、喜ぶのもつかの間。召喚陣にできたひっかき傷は、グニャグニャ曲がりながら元の形に戻っていく。【分解】ができてない!
さっきのだと拳に合わせて魔力を飛ばしているに過ぎないらしかった。
この魔力を、【分解】として発動する必要がある。
網目の束を、もう一度網目に戻す必要がある。
「あー!どうすればいいんだろ!?えい!この!もう一回戻れ!網目になれ!」
俺が腕をブンブン振るたびに、爪跡が次々と召喚陣に入っては治っていった。
……いや、厳密には、何箇所か治っていかない、【分解】が行われているところがあった。
「そ、そうか……!振った腕を、戻す!?」
ひっかくように振った腕を、高速で逆方向に戻す。すると最初の振りで飛ばした魔力が、網目として開いていった。
理屈は分からない。だけど実際に目の前で、そうなっていた。
「これだ!こうか!こうか!?よし!こうだ!」
俺のこの複合技が最適な形を得た。
ひっかいた腕を高速で少しだけ戻す。
要するに、簡単に言うと……猫パンチだ。
猫パンチの動きがこの技の最適解だ。
「で、出来たのネ!?やったワ!おめでとう!技の名前は何にするの?」
どうにか無事だった布をギリギリのところで纏いながら、エマエが問いかけてきた。
「な、名前!?今そんな場合じゃ……」
「ダメ!名前をつけておけば次から安定して使えるようななるの!呪文と同じ!あんたの身体が反応するようになるの!」
そ、そうなのか!そういえばチトセも聞いたことない呪文を言うことで知らない魔法を使いこなしていた。
それに……必殺技みたいでカッコいい。
「今回は武術スキルとの複合技だから動作を表現する名前が良いと思うワ!」
ど、動作……?それなら……
「ね、ねこ……パンチ……?」
「え!?ちゃんと大きな声で宣言して!何パンチ!?」
ダメだ!あまりにカッコ悪い!!
でも動きは完全に猫パンチだから……猫……せめて強い猫……
「き、決めた!いくぞ!!」
「やって!やっちゃってー!」
俺は指を開いて腕を振りかざしながら叫んだ。
「タ……“タイガー・パンチ”!!」
名前をつけた複合技の威力は段違いで、召喚陣の一端を完全に【分解】してみせた。
「やった!すごいすごい!“タイガー・パンチ”!?カッコイイー!」
「ちょ……あんまり言わないでくれ……」
デカイ爪痕の傷口からボロボロと崩れていく召喚陣。
成功だ。快挙だった。
だけど俺は多分、この光景を思い出すたびに枕に顔を埋めて喚くだろう。
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