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Evo23 「放たれた光也の矢」
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クリスマスイブの夜、光也君の弟さんである智也君が突然の病で倒れてしまったのです。でもその原因は、魔術師サンサラーさんの仕業であったのでした。
サンサラーさんは、笑姫ちゃんを遣いにした魔術師アライスターさんを倒し、笑姫ちゃんを己の遣いにする事で、智也君に呪いを掛けさせていたのです。
そして笑姫ちゃんは意識ごと操られてしまい、サンサラーさんの指示で私と戦う事になってしまったのでした。
「ラムさん、麻酔銃を精製出来ますか?」
「了解した、翡翠君。ほら、使って」
ラムさんは近くにあったクリスタル石を実らせ、それを麻酔入りの銃へと精製してくれたのです。
「笑姫ちゃん、痛くない様に撃つから、ごめんなさいっ!」
どうやって痛くない様に撃つかは、私にも良く分かりませんでしたが、笑姫ちゃん目掛けて麻酔弾を放ちました。だけど素人狙いではそう簡単に当たる筈も無く、私は無駄撃ちをしまくる事になってしまっていたのです。
そして笑姫ちゃんもジッとしていてくれる訳が無く、反撃を仕掛けて来たのでした。
「エンペラー、ハーミットっ!」
笑姫ちゃんは『行動力』 と『変幻自在』 の能力を使ったらしくで、自身を弾丸の姿に変化させて突進して来たのです。
「マキさん、3倍の防御でお願いしますっ!」
「良いわよ、翡翠さんっ。えいっ!」
私は、1つの魔法に対し、その数倍の魔力を掛けられる様になっていました。だけど、3倍まで防御を高めたマキさんの能力でも、笑姫ちゃんの攻撃は私の身体をダメージを与えて行ったのです。
「ぐうう……マキさん、5倍って出来ますか?」
「3倍以上はアグリッタ様の魔力に負担が掛かってしまうのだけど……まっいっか。えいっ!」
取り敢えず今を凌ぐ事が先決だと考えたマキさんは、防御魔法を5倍まで引き上げてくれました。そして何とか笑姫ちゃんを弾き返す事となったのです。
「笑姫ちゃん、まだ……やるよね?」
「ロウ デ フォーチュンっ、ジャスティスっ、共に逆位置でっ!」
笑姫ちゃんは『アクシデント』 の能力を使い、私が持っていた麻酔銃を落とさせたのです。続いて『不正』 の能力で、その銃を奪い取ってしまったのでした。
「これはピンチです……」
「と言うか翡翠、早く智也を救わなきゃいけないんでしょ?」
勿論、私も忘れていた訳では無いのですが、想像を超えた笑姫ちゃんの攻撃に戸惑っていたのでした。そして笑姫ちゃんは、己が考え付いたであろう、最大の攻撃を仕掛け様としてしまうのです。
「……翡翠ち……良い事……教えてあげ……私を倒せ……彼の病……治」
切れ切れの言葉を発した笑姫ちゃんであったのですが、それには理由があったのです。
笑姫ちゃんの心身は、魔術師サンサラーさんにより完全に服従させられているかの様に思えたのですが、私を傷付けたくないと言う思いを残してくれていたからでした。
それは今にも消されてしまいそうな思いであったかも知れませんが、極僅かに残された笑姫ちゃんの意地と、私の事を思ってくれる、『最大の魔法』 であったに違いないのです。
「笑姫ちゃん……ありがとうね」
笑姫ちゃんは、サンサラーさんに与えられた魔力の限りで連続魔法を放って来ました。時間で言えば、笑姫ちゃんの攻撃は10分程続いていたでしょう。
だけど私はその攻撃全てを受け止める為、耐え続けていたのです。
そして、笑姫ちゃんは叫びました。
「ぐうううっ……翡翠ちゃんっ!!」
「うん。やっぱり笑姫ちゃんは、強い子だね」
笑姫ちゃんは与えられ魔力を使い果たしてしまい、その場に倒れこんでしまったのです。だけどこのままでは恐らく、笑姫ちゃんの記憶は失われてしまうでしょう。でも、今の私では成す術が無く、笑姫ちゃんを一般世界の自宅へと連れ戻す事しか出来なかったのです。
そしてその足で、智也君のいる病院へと戻る事にしたのですが、そこに光也君の姿は見当たりませんでした。
そこで私は、一先ず智也君の病室へと向かう事になったのです。
「翡翠さん。まだいてくれたんですか?」
「智也君、身体の具合はどう?」
笑姫ちゃんを落ち着かせた事により呪いの魔法は解け、すっかり元気になっていた智也君。そして私は光也君の事を尋ねたのですが、智也君も分からないとの事でした。
「さっきまで、いたと思ったんですけど」
「そっか。遅くにごめんね。智也君、また料理作りに行って良いかな?」
「はい。是非来て下さい、翡翠さん」
病院を後にした私。だけど魔法の国では、新たな争いが起きていたらしいのです。アキナはそれに気が付いていた様なのですが、笑姫ちゃんと戦ったばかりの私を気遣い、直ぐには伝えなかったと言っていました。
「良いぞ、光也。やはりお前が、私の遣いとしての適正者であった」
サンサラーさんは光也君を遣いとし、手始めに私では無く、他の遣いの領土に進出させていたらしいのです。
「……ポセイダン、巨大地震を起こすんだ」
「くっ、何なのです。この桁外れな魔力は……」
その相手は、マリアさんであったそうです。そして光也君は、遣いになったばかりだと言うのに、たった数時間の内に魔法の使い方を習得してしまったと、私は後にアキナ君から聞きました。
それはサンサラーのフォローもあったからだそうなのですが、何より光也君が遣いとしての素質を、他の遣いよりも遥かに持っていたと言う事が、大きな要因であったそうです。
「どうした。もう、終わらせて良いのか?」
「私も舐められたものですわね。新参者の遣いさんには、先輩としてお仕置きを致します。レ、ソ、ファっ!」
マリアさんは速攻魔法の攻撃で、光也君に反撃をしたそうです。だけど光也君は無表情のまま、その攻撃を跳ね変えしてしまったと、アキナ君は言っていました。
「アンタはお嬢様っぽいからさ、この魔法で消してやるよ。アパラディーテっ!」
サンサラーさんの魔法は、ソニアちゃんとヤーナさんの魔法と同じで神の力を用いていたそうです。そして光也君は、その1つであるアパラディーテの能力、『最高の美神』 を使ったと聞きました。
アパラディーテ単体の能力では、攻撃として大した効果はないらしいのですが、マリアさんはその姿を見せられた瞬間、跪いてしまったそうなのです。
アパラディーテは、容姿の美しさもそうなのですが、全ての『美』 を持ち合わせていると私は聞きました。当然その美の中には、『音』 の美も含まれていたのそうなのです。
「この私が、音で負ける何て……消しなさい。私は、自分を超える者に出会えただけで本望ですわ……」
「そっか。じゃあ、そうさせて貰うよ」
次の瞬間、魔法の国にマリアさんの姿は存在していなかったそうです……。
これで残る遣いは、光也君、ソフィーさん、そした私の3人だけになってしまったのでした。(笑姫ちゃんは、私との戦いでサンサラーさんから解任されてしまった様です)
既に理解不能な状況になってしまった私。何で光也君がサンサラーさんの遣いになってしまったのか? しかも、遣いになったとしたのならば、それは昨晩私と別れた後の事の筈です。
そしてそんな短時間で、マリアさんを倒せる程の力が付くのかと、私は頭の中で駆け巡る事になっていたのでした。
「翡翠、覚えているかい? 僕が、初めて君に話し掛けた時の事を」
アキナ君は、遣いを選定する能力も優れているのです。そしてアグリッタさんの指示で一般世界に訪れた時、最初に見つけた人物は光也君でした。
だけど、光也君は事故に巻き込まれてしまい、偶然そこにいた私が遣いになったのです。勿論それは、私にも遣いとしての素質が少なかれあった為でもあるのですが、その素質だけで言うならば、光也君の方が格段に上であったのだとアキナは告げました。
「……そっかぁ……そうだよね。アキナ君、ごめんなさい。私なんかが、遣いになっちゃって……」
もし初めから光也君が、アグリッタさんの遣いに選定されていれば、ここまで話がややこしくならなかったと、私は嘆く事になってしまいました。
だけどアキナは告げてくれたのです。私と出会えた事、そして選定した事は偶然では無く、必然の出来事であったのだと。
アキナ君の能力の1つには、『探す』 と言う力が備わっているそうです。それはアグリッタさんに与えて貰った魔法であり、決して判断を誤る事の無い力だと言っていました。
「だから翡翠、アグリッタ様の遣いになってくれて、ありがとう。そして、翡翠の願いを聞かせて」
「アキナ君……うん。私は、光也君を元の生活に戻してあげたい。だから……魔法の国に行こうっ」
その後、アリスちゃんも一緒に行く事になったのですが、その前に私は、笑姫ちゃんの様子を見に行きました。
そして真夜中だったのですが、玄関前に着いたのです。
「翡翠、笑姫は記憶を失った状態なのですね?」
「……多分、そうだと思う。サンサラーさんから、遣いの任は解かれてしまったらしいから」
私達は、笑姫ちゃんの家の前で立ち竦む事になっていたのですが、その時玄関のドアが開いたのです。と、同時に、笑姫ちゃんが私に飛び掛かって来たのでした。
「翡翠…………ちゃんっっ!!」
「え? え? どゆこと??」
笑姫ちゃんは一般人に戻っていたのですが、記憶はそのまま残されていた様なのです。
それには理由があるそうなのですが、笑姫ちゃんがサンサラーさんから遣いの任を解かれそうになった時、笑姫ちゃんの魔術師であったアライスターさんが、それに気が付いたらしいのでした。
そして、自分の魔力も尽き掛けていた様なのですが、その最後の魔力で笑姫ちゃんの記憶を消さない様にしたそうなのです。
「ごめんね、翡翠ちゃん。私、あんな事になっちゃって……」
「笑姫ちゃん、気にしないで。全部終わったら、また皆んなで遊ぼうね」
私は笑姫ちゃんにそう告げて、魔法の国にいる筈の光也君の元へ向かおうとしました。と、その時、笑翡翠ちゃんが、私の未来を占ってくれると言ってくれてのです。
そしてその結果は、以前占った時の内容に付け加えられた……『絶望の中に、光有り』 と出ていたのでした。
「翡翠ちゃん、絶対に諦めないでねっ」
「うん。ありがとう、笑姫ちゃん」
現時点で魔術師の領土は、3つしかないのです。だけどサンサラーさんの領土に行くには、ソフィーさんの領土を通らなければいけない為、私は先ずそこに向かう事になりました。
そしてソフィーさんは、私が来る事を分かっていたかの様に待ち構えていたのです。
「最後の戦いになりそうね、翡翠」
「はい。ソフィーさんも来て下さい」
私はソフィーさんと共に、サンサラーさんの領土まで辿り着く事になりました。そして、そこには光也君の姿があり、智也君に呪いを掛けたのは私であると、勘違いしたまま到着を出迎えた様なのです。
「翡翠……何で智也にあんな事をしたんだ」
「光也君、聞いて。私は、そんな事してないよ。それに、もう智也君は元気になってるの」
光也君は、サンサラーさんに騙されてしまっている様で、私の言葉も届かずにいました。そして、私を倒す事で智也君の病は治ると言われていた事により、変身呪文を唱えてしまったのです。
「我に従いしその力 今この時この瞬間 光の刃で打ち砕かん……光也……エボリューションっ!」
「光也君……。我に宿りしその力 今この時この瞬間 開放へと導かん……翡翠……エボリューションっ!」
『やるしかない』 と私も覚悟を決めました。
そして、アリスちゃんとソフィーさんは一先ず傍観していたのですが、私達の戦いは始まってしまったのです。
だけど、私も初めて経験する、途轍もない光也君の魔力に、防御魔法で防ぐしかない状態であったのでした。
「翡翠っ!!」
「ぐうっ……。(やっぱり光也君は凄いなぁ……)」
光也君を倒さなければいけない筈なのに、私はその魔法に見惚れてしまっていました。自分が遣いとして得て来た力を、光也君はたった数時間で超えてしまっていたのだから。
「翡翠、マキ達の能力をもっと上げるんだっ」
アキナ君の声で、何とか我を取り戻した私。だけぉ、それでも光也君の魔力が上回り、私は反撃が出来ない状態が続いていました。
「どうしよう、アキナ君。私の魔力じゃ、光也君にも勝てないよ」
「確かに、危機的状況だね。んん~……良し、こうしよう」
アキナ君が思い付いた策は、私自身の魔力を最大限まで引き上げる事であったのでした。
しかしその方法は、アグリッタさんの魔力を著しく吸収してしまう為、得策とは言えなかった様です。だけど、今は迷っている時間は無いのです。アキナ君は、アグリッタさんに許可を取る為集中していました。
そして、それを見ていた光也君は、またも勘違いしてしまったのです。
「そう言う事だったのか。翡翠をたぶらかしていたのは、オマエだったんだなっ」
「翡翠、アグリッタ様の許可が下りたよ」
アキナ君の言葉を聞き終えた私。だけど光也君は、ハーパイタストの能力で『光の矢』 を精製してしまっていた様なのです。
そして、その身にゼクスの能力である『破壊神』 を宿してしまったらしいのでした。
「翡翠から……離れろっ!!」
光也君の指先からは、光の矢が放たれてしまいました。その矢は言葉通り光を纏う矢であり、アキナ君目掛け突き進んでいたのです。
そして……11月の誕生石である『トパーズ』 を示すアキナキエル君。そのアキナ君は、強い光が弱点であったらしく、その姿を消される事になってしまったのです……。
「アキナ……君? どこにいるのっ、アキナ君っ!!」
「……翡翠、後はお前を遣いにした魔術師を倒せば終わるよ。だから翡翠は、一般世界で待っててくれ」
少しの間、俯向き黙り込んでしまった私。そして叫びました。
「違う……。今の貴方は光也君何かじゃないっ! 光也君を……返しなさいっ!!」
アキナのお陰で、私はアグリッタさんからの魔力供給を受ける事になっていました。
そして光也君に立ち向かったのですが、それでも足りなかったのです。私の繰り出す攻撃は、光也君に届かなかったのでした…………。
サンサラーさんは、笑姫ちゃんを遣いにした魔術師アライスターさんを倒し、笑姫ちゃんを己の遣いにする事で、智也君に呪いを掛けさせていたのです。
そして笑姫ちゃんは意識ごと操られてしまい、サンサラーさんの指示で私と戦う事になってしまったのでした。
「ラムさん、麻酔銃を精製出来ますか?」
「了解した、翡翠君。ほら、使って」
ラムさんは近くにあったクリスタル石を実らせ、それを麻酔入りの銃へと精製してくれたのです。
「笑姫ちゃん、痛くない様に撃つから、ごめんなさいっ!」
どうやって痛くない様に撃つかは、私にも良く分かりませんでしたが、笑姫ちゃん目掛けて麻酔弾を放ちました。だけど素人狙いではそう簡単に当たる筈も無く、私は無駄撃ちをしまくる事になってしまっていたのです。
そして笑姫ちゃんもジッとしていてくれる訳が無く、反撃を仕掛けて来たのでした。
「エンペラー、ハーミットっ!」
笑姫ちゃんは『行動力』 と『変幻自在』 の能力を使ったらしくで、自身を弾丸の姿に変化させて突進して来たのです。
「マキさん、3倍の防御でお願いしますっ!」
「良いわよ、翡翠さんっ。えいっ!」
私は、1つの魔法に対し、その数倍の魔力を掛けられる様になっていました。だけど、3倍まで防御を高めたマキさんの能力でも、笑姫ちゃんの攻撃は私の身体をダメージを与えて行ったのです。
「ぐうう……マキさん、5倍って出来ますか?」
「3倍以上はアグリッタ様の魔力に負担が掛かってしまうのだけど……まっいっか。えいっ!」
取り敢えず今を凌ぐ事が先決だと考えたマキさんは、防御魔法を5倍まで引き上げてくれました。そして何とか笑姫ちゃんを弾き返す事となったのです。
「笑姫ちゃん、まだ……やるよね?」
「ロウ デ フォーチュンっ、ジャスティスっ、共に逆位置でっ!」
笑姫ちゃんは『アクシデント』 の能力を使い、私が持っていた麻酔銃を落とさせたのです。続いて『不正』 の能力で、その銃を奪い取ってしまったのでした。
「これはピンチです……」
「と言うか翡翠、早く智也を救わなきゃいけないんでしょ?」
勿論、私も忘れていた訳では無いのですが、想像を超えた笑姫ちゃんの攻撃に戸惑っていたのでした。そして笑姫ちゃんは、己が考え付いたであろう、最大の攻撃を仕掛け様としてしまうのです。
「……翡翠ち……良い事……教えてあげ……私を倒せ……彼の病……治」
切れ切れの言葉を発した笑姫ちゃんであったのですが、それには理由があったのです。
笑姫ちゃんの心身は、魔術師サンサラーさんにより完全に服従させられているかの様に思えたのですが、私を傷付けたくないと言う思いを残してくれていたからでした。
それは今にも消されてしまいそうな思いであったかも知れませんが、極僅かに残された笑姫ちゃんの意地と、私の事を思ってくれる、『最大の魔法』 であったに違いないのです。
「笑姫ちゃん……ありがとうね」
笑姫ちゃんは、サンサラーさんに与えられた魔力の限りで連続魔法を放って来ました。時間で言えば、笑姫ちゃんの攻撃は10分程続いていたでしょう。
だけど私はその攻撃全てを受け止める為、耐え続けていたのです。
そして、笑姫ちゃんは叫びました。
「ぐうううっ……翡翠ちゃんっ!!」
「うん。やっぱり笑姫ちゃんは、強い子だね」
笑姫ちゃんは与えられ魔力を使い果たしてしまい、その場に倒れこんでしまったのです。だけどこのままでは恐らく、笑姫ちゃんの記憶は失われてしまうでしょう。でも、今の私では成す術が無く、笑姫ちゃんを一般世界の自宅へと連れ戻す事しか出来なかったのです。
そしてその足で、智也君のいる病院へと戻る事にしたのですが、そこに光也君の姿は見当たりませんでした。
そこで私は、一先ず智也君の病室へと向かう事になったのです。
「翡翠さん。まだいてくれたんですか?」
「智也君、身体の具合はどう?」
笑姫ちゃんを落ち着かせた事により呪いの魔法は解け、すっかり元気になっていた智也君。そして私は光也君の事を尋ねたのですが、智也君も分からないとの事でした。
「さっきまで、いたと思ったんですけど」
「そっか。遅くにごめんね。智也君、また料理作りに行って良いかな?」
「はい。是非来て下さい、翡翠さん」
病院を後にした私。だけど魔法の国では、新たな争いが起きていたらしいのです。アキナはそれに気が付いていた様なのですが、笑姫ちゃんと戦ったばかりの私を気遣い、直ぐには伝えなかったと言っていました。
「良いぞ、光也。やはりお前が、私の遣いとしての適正者であった」
サンサラーさんは光也君を遣いとし、手始めに私では無く、他の遣いの領土に進出させていたらしいのです。
「……ポセイダン、巨大地震を起こすんだ」
「くっ、何なのです。この桁外れな魔力は……」
その相手は、マリアさんであったそうです。そして光也君は、遣いになったばかりだと言うのに、たった数時間の内に魔法の使い方を習得してしまったと、私は後にアキナ君から聞きました。
それはサンサラーのフォローもあったからだそうなのですが、何より光也君が遣いとしての素質を、他の遣いよりも遥かに持っていたと言う事が、大きな要因であったそうです。
「どうした。もう、終わらせて良いのか?」
「私も舐められたものですわね。新参者の遣いさんには、先輩としてお仕置きを致します。レ、ソ、ファっ!」
マリアさんは速攻魔法の攻撃で、光也君に反撃をしたそうです。だけど光也君は無表情のまま、その攻撃を跳ね変えしてしまったと、アキナ君は言っていました。
「アンタはお嬢様っぽいからさ、この魔法で消してやるよ。アパラディーテっ!」
サンサラーさんの魔法は、ソニアちゃんとヤーナさんの魔法と同じで神の力を用いていたそうです。そして光也君は、その1つであるアパラディーテの能力、『最高の美神』 を使ったと聞きました。
アパラディーテ単体の能力では、攻撃として大した効果はないらしいのですが、マリアさんはその姿を見せられた瞬間、跪いてしまったそうなのです。
アパラディーテは、容姿の美しさもそうなのですが、全ての『美』 を持ち合わせていると私は聞きました。当然その美の中には、『音』 の美も含まれていたのそうなのです。
「この私が、音で負ける何て……消しなさい。私は、自分を超える者に出会えただけで本望ですわ……」
「そっか。じゃあ、そうさせて貰うよ」
次の瞬間、魔法の国にマリアさんの姿は存在していなかったそうです……。
これで残る遣いは、光也君、ソフィーさん、そした私の3人だけになってしまったのでした。(笑姫ちゃんは、私との戦いでサンサラーさんから解任されてしまった様です)
既に理解不能な状況になってしまった私。何で光也君がサンサラーさんの遣いになってしまったのか? しかも、遣いになったとしたのならば、それは昨晩私と別れた後の事の筈です。
そしてそんな短時間で、マリアさんを倒せる程の力が付くのかと、私は頭の中で駆け巡る事になっていたのでした。
「翡翠、覚えているかい? 僕が、初めて君に話し掛けた時の事を」
アキナ君は、遣いを選定する能力も優れているのです。そしてアグリッタさんの指示で一般世界に訪れた時、最初に見つけた人物は光也君でした。
だけど、光也君は事故に巻き込まれてしまい、偶然そこにいた私が遣いになったのです。勿論それは、私にも遣いとしての素質が少なかれあった為でもあるのですが、その素質だけで言うならば、光也君の方が格段に上であったのだとアキナは告げました。
「……そっかぁ……そうだよね。アキナ君、ごめんなさい。私なんかが、遣いになっちゃって……」
もし初めから光也君が、アグリッタさんの遣いに選定されていれば、ここまで話がややこしくならなかったと、私は嘆く事になってしまいました。
だけどアキナは告げてくれたのです。私と出会えた事、そして選定した事は偶然では無く、必然の出来事であったのだと。
アキナ君の能力の1つには、『探す』 と言う力が備わっているそうです。それはアグリッタさんに与えて貰った魔法であり、決して判断を誤る事の無い力だと言っていました。
「だから翡翠、アグリッタ様の遣いになってくれて、ありがとう。そして、翡翠の願いを聞かせて」
「アキナ君……うん。私は、光也君を元の生活に戻してあげたい。だから……魔法の国に行こうっ」
その後、アリスちゃんも一緒に行く事になったのですが、その前に私は、笑姫ちゃんの様子を見に行きました。
そして真夜中だったのですが、玄関前に着いたのです。
「翡翠、笑姫は記憶を失った状態なのですね?」
「……多分、そうだと思う。サンサラーさんから、遣いの任は解かれてしまったらしいから」
私達は、笑姫ちゃんの家の前で立ち竦む事になっていたのですが、その時玄関のドアが開いたのです。と、同時に、笑姫ちゃんが私に飛び掛かって来たのでした。
「翡翠…………ちゃんっっ!!」
「え? え? どゆこと??」
笑姫ちゃんは一般人に戻っていたのですが、記憶はそのまま残されていた様なのです。
それには理由があるそうなのですが、笑姫ちゃんがサンサラーさんから遣いの任を解かれそうになった時、笑姫ちゃんの魔術師であったアライスターさんが、それに気が付いたらしいのでした。
そして、自分の魔力も尽き掛けていた様なのですが、その最後の魔力で笑姫ちゃんの記憶を消さない様にしたそうなのです。
「ごめんね、翡翠ちゃん。私、あんな事になっちゃって……」
「笑姫ちゃん、気にしないで。全部終わったら、また皆んなで遊ぼうね」
私は笑姫ちゃんにそう告げて、魔法の国にいる筈の光也君の元へ向かおうとしました。と、その時、笑翡翠ちゃんが、私の未来を占ってくれると言ってくれてのです。
そしてその結果は、以前占った時の内容に付け加えられた……『絶望の中に、光有り』 と出ていたのでした。
「翡翠ちゃん、絶対に諦めないでねっ」
「うん。ありがとう、笑姫ちゃん」
現時点で魔術師の領土は、3つしかないのです。だけどサンサラーさんの領土に行くには、ソフィーさんの領土を通らなければいけない為、私は先ずそこに向かう事になりました。
そしてソフィーさんは、私が来る事を分かっていたかの様に待ち構えていたのです。
「最後の戦いになりそうね、翡翠」
「はい。ソフィーさんも来て下さい」
私はソフィーさんと共に、サンサラーさんの領土まで辿り着く事になりました。そして、そこには光也君の姿があり、智也君に呪いを掛けたのは私であると、勘違いしたまま到着を出迎えた様なのです。
「翡翠……何で智也にあんな事をしたんだ」
「光也君、聞いて。私は、そんな事してないよ。それに、もう智也君は元気になってるの」
光也君は、サンサラーさんに騙されてしまっている様で、私の言葉も届かずにいました。そして、私を倒す事で智也君の病は治ると言われていた事により、変身呪文を唱えてしまったのです。
「我に従いしその力 今この時この瞬間 光の刃で打ち砕かん……光也……エボリューションっ!」
「光也君……。我に宿りしその力 今この時この瞬間 開放へと導かん……翡翠……エボリューションっ!」
『やるしかない』 と私も覚悟を決めました。
そして、アリスちゃんとソフィーさんは一先ず傍観していたのですが、私達の戦いは始まってしまったのです。
だけど、私も初めて経験する、途轍もない光也君の魔力に、防御魔法で防ぐしかない状態であったのでした。
「翡翠っ!!」
「ぐうっ……。(やっぱり光也君は凄いなぁ……)」
光也君を倒さなければいけない筈なのに、私はその魔法に見惚れてしまっていました。自分が遣いとして得て来た力を、光也君はたった数時間で超えてしまっていたのだから。
「翡翠、マキ達の能力をもっと上げるんだっ」
アキナ君の声で、何とか我を取り戻した私。だけぉ、それでも光也君の魔力が上回り、私は反撃が出来ない状態が続いていました。
「どうしよう、アキナ君。私の魔力じゃ、光也君にも勝てないよ」
「確かに、危機的状況だね。んん~……良し、こうしよう」
アキナ君が思い付いた策は、私自身の魔力を最大限まで引き上げる事であったのでした。
しかしその方法は、アグリッタさんの魔力を著しく吸収してしまう為、得策とは言えなかった様です。だけど、今は迷っている時間は無いのです。アキナ君は、アグリッタさんに許可を取る為集中していました。
そして、それを見ていた光也君は、またも勘違いしてしまったのです。
「そう言う事だったのか。翡翠をたぶらかしていたのは、オマエだったんだなっ」
「翡翠、アグリッタ様の許可が下りたよ」
アキナ君の言葉を聞き終えた私。だけど光也君は、ハーパイタストの能力で『光の矢』 を精製してしまっていた様なのです。
そして、その身にゼクスの能力である『破壊神』 を宿してしまったらしいのでした。
「翡翠から……離れろっ!!」
光也君の指先からは、光の矢が放たれてしまいました。その矢は言葉通り光を纏う矢であり、アキナ君目掛け突き進んでいたのです。
そして……11月の誕生石である『トパーズ』 を示すアキナキエル君。そのアキナ君は、強い光が弱点であったらしく、その姿を消される事になってしまったのです……。
「アキナ……君? どこにいるのっ、アキナ君っ!!」
「……翡翠、後はお前を遣いにした魔術師を倒せば終わるよ。だから翡翠は、一般世界で待っててくれ」
少しの間、俯向き黙り込んでしまった私。そして叫びました。
「違う……。今の貴方は光也君何かじゃないっ! 光也君を……返しなさいっ!!」
アキナのお陰で、私はアグリッタさんからの魔力供給を受ける事になっていました。
そして光也君に立ち向かったのですが、それでも足りなかったのです。私の繰り出す攻撃は、光也君に届かなかったのでした…………。
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【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
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マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
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アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
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家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
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