完璧な薬

秋川真了

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「とうとうこの時が来たな。」
「そうですね。」
白を基調としたコートに身を包んでいる二人の男がこれまた白に囲まれた部屋で話をしていた。
一人は40代程の男。名前を「タナカ」といい口元には髭を生やし、どんよりとした濁った目をしている。
もう一人は若い10代の男。名前を「ヤマモト」といい、キリっとした目と白い肌で体全体から若さが滲みだしているかのような、エネルギーにあふれた男であった。
男たちの目の前には同じ機械が二つあった。成人が一人すっぽりと収まるくらいの大きさでカプセルのような形をしており、見るものたちに先端技術の集大成だと確信させるような凄みがあった。
「これが、コールドスリープをするための機械ですか。」
「ああ、とある科学者が文字通り一生をかけて開発した代物らしい。なんでもこの機械を開発した直後に過労死してしまったそうだ。」
目を輝かせながら話すヤマモトとは対照的にタナカは科学者に同情するかのような声質で話していた。
「まあ何にせよ。僕たちはこれを使って未来まで行くわけか。」
「ああ、そうだ。」
二人の表情は科学者の話をした後でもなお、異様に明るかった。
それほど彼らにとって未来へ行くとは素晴らしいことだった。
「さてと、それではそろそろコールドスリープの準備をしますか。」
ヤマモトは機械から顔をあげ準備にとりかかる。
それを横目に見ていたタナカはおい、とヤマモトを呼び止めたあと一つの瓶を差し出した。
ヤマモトはその瓶を受け取ったあと、中にある液体を見ながらこれはなんだ、とタナカに聞いた。
タナカは俯きながら答えた。
「この中に入ってある液体は薬だ。それも、飲めば即効で人間が死ぬ薬だがな。」
それを聞いたヤマモトの顔はなぜ、という懐疑の色を一層深めた。
「我々がコールドスリープから目覚める時ということは即ち、この世界が我々の望む世界になっているということだ。しかし、万が一機械の不具合によって我々の望まない世界でめざめてしまったとすればそれは死より恐ろしいことだ。その時、楽に死ねるようにと配慮され我々に持たされている。」
「望まない世界?今に比べたらどんな世界もかわいいものだろ。」
「それもそうだが、本来コールドスリープが複数回使えればこんな物騒なもの持たなくていいんだがな。」
彼らはこの世界をひどく嫌っていた。
理由は端的に言えば「規制」によるものだった。
情報、娯楽、性、その他様々なものに規制がかかる今の時代に彼らは息苦しさを感じていた。
独裁者が愚民政治を行うために規制をかけたわけでもなく民衆が自ら様々なものに規制をかけていることは彼らの息苦しさを嫌悪感に変えた。
つまり、彼らの望む世界とは「規制」の少ない世界、
それに向けてコールドスリープをしているのである。
「さてとそれでは行こうか。」
「ああ。」
二人の準備は整ったようだった。
彼らは互いに顔を見合わせ少しほほ笑んだ後、カプセルの中に入り込み目を閉じた。
カプセルのドアが閉まった後、カモフラージュのため機械は地中に潜る。
静かな空間に響く心音が、体を包み込む冷気により遠のくのを感じながら二人は目を閉じた。


体感的には一瞬だった。
二人は同時に起き上がり、互いを見た後、はにかんだ。
彼らは急いで着替え、外に出た。
彼らの目に飛び込んできたのは

ごく普通の街並みであった。
確かに建物の外装も人々の服装も少し変わっていた。
しかし、お世辞にも時を超えた世界とは思えないほど彼らが生きていた時代と変わらない
空気がそこには流れていた。

二人は急いで人々に聞き込みをした。
その結果分かったことは簡潔にまとめるとこうであった。
規制が進み過ぎた世界では人々が考えることを許されなかった。結果破滅の戦争へと進んでしまい、こうして数万年後再び人間によく似たなにかが再び同じような社会を形成している。

ということは、と彼らは考える。
今は規制の少ないこの世界も結局規制という鎖で自らの首をしめるだろう。
そして地球上ではまた生命が一つ消え、
生まれるのだ。
その結論は「死」や「規制」とは
また違う異様な不気味さを持っていた。

そこからの彼らは素早かった。
コールドスリープの機械を今の人類では到底見つけることのできない場所に隠し、
万が一だと思っていた薬をためらいもなく飲んだ。

年齢も容姿も違う彼らだったがこの時最初で最後の自由を感じた気がした。

とある科学者があの機械を見つけたのはそれから幾何かたったときだった。
しかし、それが難航を極めたせいかその後すぐに過労死をしてしまい、
男二人に使用は託されたようだが。


「とうとうこの時が来たな。」
「そうですね。」
男二人が会話をしている。
しかし、もう彼らの容姿も目的も、記す必要はない。
彼らの足元から伸びる二つの影。
しかしその影は何重にも重なっているように見えることだろう。



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