ゲーム配信は楽しくないと！ 〜毎日配信で有名配信者になります〜

生配信32 そんなことはどうでもいい！ part2

『は？』
『どうでも良くないだろ！』
『喧嘩売ってんのか』
『住所教えろっていってんだろう！』

　ちょっと誤解があるようだ。

　女性配信さんが結婚したのはおめでたいし、こっちはどうでも良くない。

　同業者が結婚出来たということは、俺も結婚出来る可能性があるというわけじゃないですか。

　俺がどうでもいいって言ったのは、

「リスナーさん達を励ますってことに、そんなのはどうでもいいって言ったわけですよ」

『俺らを励ませよ』
『どうでも良くないだろう』
『逆に俺らの方が重要じゃね、滝的には』
『そっちか』

　そうですよ、そっちですよ。

　確かに俺は俺自身の配信を見てくれるリスナーさん達を大切にしなくちゃいけない。

　でもさ、

「もし俺が、誰かの結婚報道でショックを受けて、リスナーさん達に励ましてって頼んだら励ます？」

『ないな』
『ざまぁ、としか打たない』
『傷口を抉る』
『塩を塗り込む』

「でしょ？　ほら、俺の気持ち分かった？」

　逆の立場だったら俺と同じこと言うよね、君達。

　こういうやり取りが俺とリスナーさん達の日常であって、俺らの日常には励ましの言葉はほとんど必要ないよね。

『くっ、反論ができない』
『やるようになったな、滝』
『ここまで来たのか』
『ふっ、成長したな』

　何故、リスナーさん達は上から目線で言ってんだろう。

　ってか、待って。

　女性配信者が結婚してこんなにショックを受けるということは、

「リスナーさん達さ、サキサキさんか絵茶さんが結婚したらどうなるの？」

　いつものメンバーが結婚したらどうなるんだろう。

『えっ、死ぬに決まってんじゃん』
『画面叩き割って、発狂する』
『大声出しながら、線路沿いを走る』
『1週間は泣く自信あるな』

　めっちゃショック受けんのな。

「じゃあ、俺が結婚したら？」

　興味本位で聞いてみた。

　いや、だってさ。この配信見てくれているということは、一応俺のリスナーってことになるじゃん。

　それならショックも受けるんじゃあ、

『いや別に』
『勝手にしろよ』
『勝手にどうぞ』
『報告とかされたら逆にイラつきそう』

　ですよね。そう来ると思ってましたよ。

　コメント欄に流れたコメントを読んでいると、まだ続きがあった。

『『『『ってか』』』』

『『『『それこそどうでもいい』』』』

　うん、分かったから。

　もう、この話を止めよう。

　君たちが本当に俺のリスナーさんなのか疑いたくなってきたよ。

　4回戦目のCPU戦に挑む。

　3回目？　

　いい運動でした。

　リスナーさん達にも元気が戻り、俺のコメント欄もいつもの様に荒れ始めた。

『ってか、何故鉄拳？』
『鉄拳始める前に説明しろよ』
『説明不足だよ、滝』
『これだから滝は。はぁ』

「ねぇ、巻き戻し機能って知ってる？　巻き戻してみれば、なんで説明がないのか理解できるんじゃない？」

『面倒臭い』の文字でコメント欄が埋まる。

　なんだよ、やっぱり前置きは必要だったじゃあねか。

　仕方ないな、説明してやるよ。

　っと言っても、詳しくは説明しない。

　例えば誰に誘われて、誰と誰がチームメンバーなのかとか。

「今回私は、とある人物から誘いを受けまして、鉄拳杯と呼ばれるストリーマー大会に出場することになりました！」

　明かすのはどの大会なのかと、

「1週間後に開催されるらしいし、遅延を入れれば個人の枠で配信していいそうなので、配信します」

　一応、あの後配信のことが気になりシオンさんに聞いてみたところ、配信は遅延ありでしていいとの事だったので配信することにした。

『何故？』
『なんかで見た様な気がする』
『Twitterで見た』
『最下位期待してます』

　最下位期待すんな。1位を期待しろ！

　CPU相手に連勝し、なんとなくキングというキャラのコンボ技のタイミングが掴めてきた。

　5戦目からは、ちょっと雑談多めでプレイしていこうと思う。

　というよりも、CPU相手だと実践経験は身に付かない。

　今度、機会があったらメンバー全員で練習するのも有りかも知れない。

　そんなことを考えていると、

『滝ってさ、彼女いたりした？』というコメントが目に入る。

『いるわけないじゃん』
『童貞だよ？』
『女を知らない男だぞ』
『居たとして小学生の時じゃない？』

　結婚の話繋がりなのだろう。

　リスナーさん達が全否定してくる。

　もちろん、

「こんな配信ばっかしている奴に彼女居たわけないじゃん。俺魔法使い目指してるんだから………言いたい事は分かっただろ？」

　童貞である。

　それの何が悪い。

　初めては好きな人と取って置いてるんだ。

　自分の中で言い訳を何個も並べて、肯定する。

『おお、お前も同志か！』
『俺も目指してる』
『あと数年で魔法使いだ！』
『俺は非童貞だけどな』

　おお、同士がこんなに沢山………んん？

　今、なんか雑音が入った様な気がするんだが？

「おい、今同士じゃない奴がいた気がするが？」

『俺も気になった』
『あれ、殺意が沸々と』
『どうせ、イマジナリーフレンドとヤッただけだろう』
『あれ、血の涙が』

　ふっ、俺だってしようと思えば出来たさ。
　
　ただ、しなかっただけ。

　勝ったきでいるなよ、リスナーよ。

　別に羨ましくなんてないし、好きな人との為に取っているだけだし。

　なんだか自分で自分を守る理由がキモくて悲しくなってきた。

『妄想じゃあねぇし。彼女とだし』

　そのコメントで一気に荒れる。

『ウチの滝の配信は童貞しか見ちゃいけないんだぞ！』
『おい、滝だって童貞なのに』
『童貞童貞うるせぇ。滝が可哀想だろう』
『滝に恥かかせんのやめろよ。童貞気にすんなよ笑』

　最後の『笑』って打ったやつが1番気に入らない。

　笑って付ける場所じゃあねぇだろ。

　あと、お願いだから童貞の2文字でコメント欄埋めないで。マジで恥ずかしい。

『滝、すまんな。先に大人の階段登っちゃったぜ』

　お前もお前で、煽ってんのか？

　謝らなくていいんだよ。別に気にしてねぇよ！

「マジでコメント欄が恥ずかしい。女性リスナーだって居るんだぞ、多分。発言が恥ずかしい奴は消せ。コメントを消してくれ」

　そう願うと、非童貞以外のコメントが次々と消えていく。

『そういうところがモテないんだぞ。自分の言葉を撤回するなよ、チェリーども』

　今度はリスナーさんがリスナーさん達を煽る。

『は？　調子に乗んなよ』
『証拠出せよ、非童貞だってことの』
『別に恥ずかしくて消したわけじゃあねぇし』
『滝が消してくれって言ったから消しただけだし』

　ほら、お前が煽ったからまた荒れ始めた。

『『『『なんなら童貞でコメント欄埋めてやろうか！』』』』

「やめてくれ！」

『やってみろよ』

　俺の切実な願いよりも、煽りの方が効いたのか、再び2文字でコメント欄が埋まる。

　もう荒れた砂漠ではなく、世紀末の世界みたいに荒れ果てていく。

「嫌だ、こんなコメント欄は配信史上1度も無い程嫌なコメント欄だ」

　お願いだから、俺の知人は誰も来ないでくれ。

　こんなコメントを見られたら恥ずかしくてコラボなんて一生出来ん。

　別にフラグを立てるつもりはなかった。切実な願いであり、一生一度の願いでもあった。

　しかし、神様は面白い方に付くのか、

『Souチャンネル : ひどいコメント欄だ』

　聡太さんが見てしまった。

「待ってくれ、話を聞いてくれ！　聡太さん、どこにも行かないで！」

　俺はすぐさまLINEで、聡太さんにメッセージを送る。が、

『いいんじゃない。お前らしくて』

　何が俺らしいだ！

　こんな荒れ方は俺らしいくない！

　そもそも荒れるコメント欄なんて望んでない！

　未だに荒れ続けるコメント欄。

『彼女出来たらいいね笑』

『何を勝ち誇ってんじゃあ！』
『俺たちの恐ろしさ見せてやろうか！』
『リーダーは滝だぞ！』
『恐るな、戦え！　リーダーに続け！』

「勝手にリーダーにすんな！　不名誉だわ、そんなリーダー！」

　治ることを知らないリスナーさん達。

　こ、これは配信を中断するしかないのか？

　いや、中断したところで夜配信で再発するだけの様な気がする。

　治める方法を知っている人は、俺のDMに連絡を。

　この争いは決着が着かず、配信終了時間まで終わらなかった。

「今日はご視聴ありがとうございます。今後この様な低俗なコメントはブロック対象にしますので、以後気をつけてください」

『安心しろ伏せ字を使うから』
『伏せ字はチェリーで』
『俺らのリーダーはチェリー』
『伏せ字になってなくて草』

「お願いだから黙っててくれ」

　そう言い残し、配信を閉じた。

　不幸中の幸いは、このコメント欄を見られたのが聡太さんだけだったこと。

　あとで口止めをしなくては。