C×C 〜クラウンxクラウン〜

九月生

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「怪物は多分この先だろうね」

 地下1階に繋がる階段。

 ここを降りれば、あの牢獄にたどり着く。

 今日のニュースでは死者はまだ出ていない。

「今回はお前も戦うんだな?」

 昨日は案内だけして帰ったシンパンに京介が確認をする。

「慎二君だけじゃあ、どうなるか分からないしね。それに、力無い人達に死なれたら嫌だしね」

 世界から力を与えられたのは俺1人。

 京介は資格はあるもののまだ与えられていない。

 美妃先輩は条件が揃えば候補に、真珠さんについては分からない。

「………お前友達いないだろ?」

「いたことないね」

 シンパンの棘のある言葉に、嫌味で返す京介だが、ひらりと躱される。

「ところで慎二君。力の使い方理解してる?」

 その問いに俺は首を横に振る。

 世界から与えられた力について、俺は何も理解していない。

 どういった力なのか、発動条件はなんなのか、知らない。

 俺が知っていることといえば、

「力の名前以外は何も知らない」

「だよね。正義、11番目の紋章クラウン。それしか知らないよね」

 11番目の紋章——正義。それが俺の力。

「どういう力なのか、教えてくれないか?」

 本当だったら別世界の東京駅ここに来る前に、力の把握をしとくのが当然なんだろう。しかし、この場所に来る方が優先だと行動に出ていた。

「君の力なんだけど、正直僕にも分からない。どんな力なんだろうね?」

 空いた口が塞がらないとはこのことだ。

 シンパンなら知っていると思っていたのだが。

「何1つも分からないのか? 近距離なのか遠距離なのか。主戦力になるのか、サポートに徹した力なのかも?」

「うん、何も知らないよ。人の力なんて他人が分かるわけないじゃない」

 じゃあ、ぶっつけ本番で確かめるしかないのか。力次第では、前線に立ったらヤられる可能性もあり得るということか。

 自分の立ち回りについて考えていると、

「さっきの言葉に1つだけ訂正を入れるとすると、与えられた力に『サポートに徹する力』なんてものは無い。全てが主戦力。力を十全に使えたなら、1人であの怪物を倒すのなんてわけないんだ」

「そう、か」

 そう言われてもどんな力なのか分からない限り、表立って戦うのは危険な気がする。

「だから、今回は僕が最初に仕掛けるよ。力の使い方——つまり発動の仕方を教えてあげる」

 発動の仕方は皆一緒だからね、と言い、先頭を歩き出す。

「ほら、そろそろ地下1階だよ。多分、今回は待ち伏せなんかしてないんじゃあ無いかな」

 地下1階に着き、牢獄に向かう。

 その間に怪物は姿を表す事なかった。シンパンの言う通り、アイツは、

「ほら、やっぱり」

 あの薄気味悪い笑みを浮かべ、牢獄の中央に陣をとり、只々俺達が来るのを待っていた。

「gdkぢfjksbぢdhふぉfんっdlsbsdldbfdk!」

 目が合うと、を上げる。

「うるせぇ」

 京介は叫びに対して文句を言い、美妃先輩と真珠さんも耳を塞ぐ。

 彼らに奴の言葉は通じない。

 通じているのは、俺と———シンパンのみ。

 証拠に、

「『罪人達よ、今度こそ逃がさない』だってさ。僕達に出会えて嬉しがってるんだね」

 アイツの言葉を翻訳している。

「hjgygdyjhっk「ああ、御宅はもういいよ。紋章クラウンNo.9隠者」

 怪物の言葉を遮り、シンパンが自身の持つ力を発動させる。

「安心してよ、本気で戦ったりしないからさ。今回の主役は正義慎二君。僕はちょっと手助けするだけだから」

 掌を相手に向けるように前に出す。

 シンパンの右手の甲にはランタン、左手の甲には棒——いや杖が浮かび上がり、輝き出す。

 眩い輝きは次第に収まり、そして——何も変化は起こらなかった。

 これが力なのか?

 それとも不発したのか?

 俺達の目にはただ輝き出しただけで終わった、シンパンの力。

 を含めた全員が困惑していた。

「………シンパン、これが力なのか?」

「うん? うん、そうだよ。ちゃんと紋章クラウンも浮かび上がっているしね」

「でも、何も起こって」

「本当に何も起こってないかな?」

 何か変わったことなんて。

 周囲を見渡しても何も変化はない。もしこれが世界から与えられた力なのなら、拍子抜けもいいところ。

「何も………ん?」

 俺の視線の先には怪物がいるが、何故コイツも周囲を警戒しているんだ?

 その疑問は怪物の言葉で理解した。

「ひうghkdbdkfjldlしhxbdj!(何処へ消えやがった、罪人どめ!)」

 アイツ、俺達が見えてないのか⁉︎

「慎二君はアイツの言葉が通じるから分かっただろうけど、他が分かってないようだから話してあげる」

 何処へ逃げた、と叫ぶ怪物を前にして悠々と説明をする。

「僕の力——紋章クラウンNo.9隠者は、変幻自在の能力。対象に向けて発動すると、自身と周囲の人が認識できなくなる」

「見えなくなるってことか?」

 目の前で起きている事と説明で分かった事を述べる京介だが、シンパンは首を振った。

「違うよ、京介。見えなくなっているんじゃあなくて、が出来なくなるんだ。つまり」

 つまり、

「視覚だけじゃなく、音や匂いを認識する聴覚や嗅覚、もしかして触覚なんかも認識されなくなるのか?」

「慎二君、正解!」

 シンパンは京介のポケットから石を取り出し、俺達から5メートルぐらい離れて、投げる。

「っ! gdkdhdkjっっkっっj!『隠れてないで出ていきたらどうだ!』」

 石が当たった感覚はあったのだろう。

 シンパンが石を投げた場所に向けて、体当たりをする怪物。しかし、そこにはもうシンパンはいない。

「このように自分から離れたものには効果はなく、相手にも認識されてしまう。これが僕の力」

 紋章クラウンNo.9隠者の変幻自在の力。

 シンパン1人で怪物を倒せるんじゃないか?

「じゃあ、ナイフとかで斬りつけた場合はどうなるの? 離れた物は認識されるんでしょ? 離れないような物で斬ったり殴ったりしたら」

「ふふふ、そうだよ。美妃さんは、京介よりやっぱり頭いいね! 斬られたことにすら気付かない。いつの間に斬られてたんだって思うだろうね」

 なんで俺を引き合いに出すんだ、と引き攣った笑みを浮かべる京介。

 シンパンは何故京介に対して冷たい。

「でもね、弱点があるんだ」

「弱点?」

「そう。いわゆる第6感——には、この認識が通じない。5感で認識出来ないものを認識するのが勘だからなのかな?」

 分からないけど、と最後に付け足すシンパン。

 勘の鈍い奴ならシンパンの餌食になるわけか。

 話を聞いていて疑問に思ったことを俺も訊く。

「俺達と会った時もそれを使っていたのか?」

 俺と京介がシンパンに初めて会った時、通行人はシンパンを認識していなかった。

 これも能力か何かなのか。

「それは違うね。それは『世界』からの手助けって言えばいいのかな? まあ、力とは関係ないかな………とまあ、質問はここまで。次は慎二君の番だよ」

 シンパンは俺の手助けしかしないと公言していた。

 つまり、怪物を倒すのは俺。

 緊張なのか、恐怖なのか分からないが、手汗が滲んでくる。

「すぅー、ふぅー」

 俺1人で戦うわけじゃない。京介や美妃先輩、シンパンだっているんだ。

 心を落ち着かせるための深呼吸。

「すぅー、ふぅー」

 緊張、恐怖、雑念なんかは全て捨てろ。正しく状況を把握し、正しい行動に出ろ。

 頭の中をクリアにするための深呼吸。

「すぅー、ふぅー」

 捕まっている全員を助けるために、正義を成すために来たんだろう? なら、やるしか無いんだ。

 目的を思いだすための深呼吸。

 ………

 ……

 …

「成すぞ、紋章クラウンNo.11正義」
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