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第21話 双子のデート
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宝石を里に持ち帰った途端、安仁は強烈な眠気に襲われた。
「姉上...少し休ませて...いただきます...」
安仁はそのまま深い眠りに陥ってしまった。
「安仁様!」
倒れ込む安仁を、猪八戒が慌てて駆け寄って支えた。すぐに里の医師を呼び、診察結果の説明を受けた。
移民の医師は言った。
「ご心配なく。急激に回復している状態です。今の長は、絶食の後に満漢全席を食べたようなもの。宝石のエネルギーを消化することに全機能を集中しているのです」
その後、安仁だけでなく、里の他の純血の鬼たちも次々と深い眠りに陥った。皆、同じように宝石のエネルギーを受けて回復の過程に入ったのだ。
鬼たちは十日間眠り続けた。
十日目の朝、安仁が身仕度を整える音に気づいた召使いが、慌てて猪八戒を呼びに行った。
「猪八戒様、安仁様がお目覚めになって...」
猪八戒は安仁の部屋へ駆けつけた。
しかし、部屋はもぬけの殻。
「安仁様!どこへ行かれました!」
その少し前、安仁は三蔵の部屋に直行していた。扉を勢いよく開けると、まだ寝ぼけ眼の三蔵ににやりと笑いかける。
「姉上、遊ぶぞ!」
なかば強引に三蔵を部屋から連れ出した。廊下で、孫悟空とすれ違う。
「おい、二人でどこへ行くんだ?」
「おお、悟空殿。里を見物しに行くのじゃ。しばし姉上をお借りする」
孫悟空が止める間もなく、安仁は、三蔵とともに屋敷を抜け出した。
今度は、息を切らした猪八戒が駆け寄ってきた。
「ご、悟空殿、安仁様を見ませんでしたか?」
「三蔵と二人で里の見物に行ったぞ」
「あの方は…また!」
「また?」
かつての活発な安仁が戻ってきていた。三蔵の手を引いて、安仁は里を駆け巡った。
「ちょっと、安仁...」
戸惑う三蔵を連れて、安仁は里中を案内して回る。まるで幼少期の空白を埋めるかのように、楽しそうに笑いながら。
「ここは儂が作った市場じゃ。どうじゃ、活気があるじゃろう?」
「ここの学校は移民の子供たちのために建てたのじゃ!」
「この橋は沙悟浄の提案で作ったのじゃ」
「どうじゃ、このからくり!儂の考案じゃ!」
安仁は自分が作り上げた里を、誇らしげに紹介していく。10日前、威厳に満ちた老人のようだった彼女とは別人だ。三蔵は安仁の変化に驚きながらも、その無邪気な笑顔に心を温められた。
「僕、安仁はもっと怖い人かと思っていました」
三蔵の正直な感想に、安仁は声を立てて笑った。
「あれは病で疲れておっただけじゃ。儂は元々このような性格なのじゃ」
里では皆が安仁の回復を喜んでいた。子供たちや年寄りたちが安仁を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「安仁様、お元気になられて良かった!」
「長、この度は誠におめでとうございます!」
――ん?おめでとう?宝石のことかのう?
「皆、心配をかけたのう。ほれこの通り、儂は元気いっぱいじゃ!」
安仁は天候を操る力の応用で、空に美しい虹を出現させた。沙悟浄との遊びの中で身につけた技である。里の人々は歓声を上げる。
「すごいですね」
三蔵が感嘆する。
「どうじゃ、儂の力は!」
安仁が得意そうに言う。
「ここは、本当に素晴らしい里です。安仁の愛情がいたるところに感じられます」
「姉上に褒めてもらえて嬉しいのう」
三蔵の言葉に、安仁は満足そうに微笑んだ。
「儂が命をかけて守りたかったものを、姉上は褒めてくれたのじゃ」
「安仁…」
「のう、姉上。儂は不幸に見えるかの?」
安仁は三蔵の目をじっと見据えた。
三蔵ははっとした。
――僕は、安仁が不幸だと決めつけている。
それはとても失礼な行為だ。
そして、この子は僕を罪悪感から救おうとしてくれている。なんて優しい妹だろう。助けることができて、本当に良かった。三蔵の目頭が熱くなった。
ふと、昔の孫悟空の言葉を思い出した
《お前が悲しいと、俺が悲しいんだ》
僕は本当に馬鹿だ。僕はこの子を悲しませていたんだ。
「いいえ、僕が間違っていました。安仁は里の皆さんに愛されて幸せ者ですね」
「えへへ…まあ、そうじゃの」
安仁は少女らしく笑った。
「僕も、こんなに元気でかわいい妹がいて幸せです。安仁…大好きです」
三蔵は安仁の手を取り、その目を真っ直ぐに見つめた。
「あ、姉上…」
三蔵の直球ストレートな好意に、安仁はたじろぎ、思わず赤面した。
――他者に愛される力か…
そういえば、孫悟空は三蔵に夢中のようだし、猪八戒、沙悟浄も三蔵を大切にしている様子。
安仁は三蔵の素養について、改めて腑に落ちた気がした。
「ううむ、姉上は生粋の人たらしなのかもしれんのう。」
「ええ!?」
夕方、二人が屋敷に帰ると、心配した猪八戒が安仁を待ち構えていた。
「安仁様!一体どちらに行かれていたのですか!」
激怒の説教が始まった。
「突然姿を消されて、どれほど心配したか!長としての自覚をお持ちください!」
「す、すまぬ八戒…」
安仁は小さくなって謝った。
三蔵は、いつもの優しい八戒先生との違いに驚いた。安仁への愛情が深いからこその叱責なのだろう。
孫悟空も安仁の変わりように驚いていたが、幼なじみの沙悟浄はこの光景の既視感に微笑みを浮かべていた。
「まあ、久しぶりに昔の安仁に戻ったってことだな」
「安仁は昔からやんちゃだったのですか?」
「それはもう。八戒の勉強をサボって、俺と一緒にいたずらばかりしていた」
沙悟浄は懐かしそうに語る。
「八戒先生にはお気の毒でしたが、とても楽しそうですね」
三蔵は微笑みながら、安仁の多面性を知ることができて嬉しかった。
その夜、安仁は久しぶりに心から笑っていた。病気と責任の重圧から解放されて、本来の自分を取り戻していた。
「姉上と過ごせて、本当に楽しかったのじゃ」
「僕もです。安仁の本当の姿を見ることができて」
窓の外では、安仁が作った虹の名残が夜空に薄っすらと残っていた。
双子の姉妹が、ようやく普通の姉妹として過ごすことができた、貴重な一日だった。
「姉上...少し休ませて...いただきます...」
安仁はそのまま深い眠りに陥ってしまった。
「安仁様!」
倒れ込む安仁を、猪八戒が慌てて駆け寄って支えた。すぐに里の医師を呼び、診察結果の説明を受けた。
移民の医師は言った。
「ご心配なく。急激に回復している状態です。今の長は、絶食の後に満漢全席を食べたようなもの。宝石のエネルギーを消化することに全機能を集中しているのです」
その後、安仁だけでなく、里の他の純血の鬼たちも次々と深い眠りに陥った。皆、同じように宝石のエネルギーを受けて回復の過程に入ったのだ。
鬼たちは十日間眠り続けた。
十日目の朝、安仁が身仕度を整える音に気づいた召使いが、慌てて猪八戒を呼びに行った。
「猪八戒様、安仁様がお目覚めになって...」
猪八戒は安仁の部屋へ駆けつけた。
しかし、部屋はもぬけの殻。
「安仁様!どこへ行かれました!」
その少し前、安仁は三蔵の部屋に直行していた。扉を勢いよく開けると、まだ寝ぼけ眼の三蔵ににやりと笑いかける。
「姉上、遊ぶぞ!」
なかば強引に三蔵を部屋から連れ出した。廊下で、孫悟空とすれ違う。
「おい、二人でどこへ行くんだ?」
「おお、悟空殿。里を見物しに行くのじゃ。しばし姉上をお借りする」
孫悟空が止める間もなく、安仁は、三蔵とともに屋敷を抜け出した。
今度は、息を切らした猪八戒が駆け寄ってきた。
「ご、悟空殿、安仁様を見ませんでしたか?」
「三蔵と二人で里の見物に行ったぞ」
「あの方は…また!」
「また?」
かつての活発な安仁が戻ってきていた。三蔵の手を引いて、安仁は里を駆け巡った。
「ちょっと、安仁...」
戸惑う三蔵を連れて、安仁は里中を案内して回る。まるで幼少期の空白を埋めるかのように、楽しそうに笑いながら。
「ここは儂が作った市場じゃ。どうじゃ、活気があるじゃろう?」
「ここの学校は移民の子供たちのために建てたのじゃ!」
「この橋は沙悟浄の提案で作ったのじゃ」
「どうじゃ、このからくり!儂の考案じゃ!」
安仁は自分が作り上げた里を、誇らしげに紹介していく。10日前、威厳に満ちた老人のようだった彼女とは別人だ。三蔵は安仁の変化に驚きながらも、その無邪気な笑顔に心を温められた。
「僕、安仁はもっと怖い人かと思っていました」
三蔵の正直な感想に、安仁は声を立てて笑った。
「あれは病で疲れておっただけじゃ。儂は元々このような性格なのじゃ」
里では皆が安仁の回復を喜んでいた。子供たちや年寄りたちが安仁を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「安仁様、お元気になられて良かった!」
「長、この度は誠におめでとうございます!」
――ん?おめでとう?宝石のことかのう?
「皆、心配をかけたのう。ほれこの通り、儂は元気いっぱいじゃ!」
安仁は天候を操る力の応用で、空に美しい虹を出現させた。沙悟浄との遊びの中で身につけた技である。里の人々は歓声を上げる。
「すごいですね」
三蔵が感嘆する。
「どうじゃ、儂の力は!」
安仁が得意そうに言う。
「ここは、本当に素晴らしい里です。安仁の愛情がいたるところに感じられます」
「姉上に褒めてもらえて嬉しいのう」
三蔵の言葉に、安仁は満足そうに微笑んだ。
「儂が命をかけて守りたかったものを、姉上は褒めてくれたのじゃ」
「安仁…」
「のう、姉上。儂は不幸に見えるかの?」
安仁は三蔵の目をじっと見据えた。
三蔵ははっとした。
――僕は、安仁が不幸だと決めつけている。
それはとても失礼な行為だ。
そして、この子は僕を罪悪感から救おうとしてくれている。なんて優しい妹だろう。助けることができて、本当に良かった。三蔵の目頭が熱くなった。
ふと、昔の孫悟空の言葉を思い出した
《お前が悲しいと、俺が悲しいんだ》
僕は本当に馬鹿だ。僕はこの子を悲しませていたんだ。
「いいえ、僕が間違っていました。安仁は里の皆さんに愛されて幸せ者ですね」
「えへへ…まあ、そうじゃの」
安仁は少女らしく笑った。
「僕も、こんなに元気でかわいい妹がいて幸せです。安仁…大好きです」
三蔵は安仁の手を取り、その目を真っ直ぐに見つめた。
「あ、姉上…」
三蔵の直球ストレートな好意に、安仁はたじろぎ、思わず赤面した。
――他者に愛される力か…
そういえば、孫悟空は三蔵に夢中のようだし、猪八戒、沙悟浄も三蔵を大切にしている様子。
安仁は三蔵の素養について、改めて腑に落ちた気がした。
「ううむ、姉上は生粋の人たらしなのかもしれんのう。」
「ええ!?」
夕方、二人が屋敷に帰ると、心配した猪八戒が安仁を待ち構えていた。
「安仁様!一体どちらに行かれていたのですか!」
激怒の説教が始まった。
「突然姿を消されて、どれほど心配したか!長としての自覚をお持ちください!」
「す、すまぬ八戒…」
安仁は小さくなって謝った。
三蔵は、いつもの優しい八戒先生との違いに驚いた。安仁への愛情が深いからこその叱責なのだろう。
孫悟空も安仁の変わりように驚いていたが、幼なじみの沙悟浄はこの光景の既視感に微笑みを浮かべていた。
「まあ、久しぶりに昔の安仁に戻ったってことだな」
「安仁は昔からやんちゃだったのですか?」
「それはもう。八戒の勉強をサボって、俺と一緒にいたずらばかりしていた」
沙悟浄は懐かしそうに語る。
「八戒先生にはお気の毒でしたが、とても楽しそうですね」
三蔵は微笑みながら、安仁の多面性を知ることができて嬉しかった。
その夜、安仁は久しぶりに心から笑っていた。病気と責任の重圧から解放されて、本来の自分を取り戻していた。
「姉上と過ごせて、本当に楽しかったのじゃ」
「僕もです。安仁の本当の姿を見ることができて」
窓の外では、安仁が作った虹の名残が夜空に薄っすらと残っていた。
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