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7 ◇それでもお揃いのエプロンは購入しておく
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「こちら、サイズ違いですがお間違えないですか?」
店員の大きめの声に、松島晃は慌てて首を縦に振った。色違いのあおむしのエプロンは黒がLサイズ、紺色がMサイズで間違いない。洗い替えにと選んだもう一枚は、黒い地に丸いフォルムの電車の絵柄。可愛い電車は鮮やかな色味で三両連なり、黒地に明るく映えている。
「大丈夫です。Lが二つとMが一つです」
声を落として告げると、
「かしこまりました」
と、また大きな声が返ってきて、晃は一太に聞かれていないかと、はらはらしながら辺りを見渡した。まだ値引き品のコーナーで選んでいる姿が見えて、ほっと息を吐く。
「あいつ、そういうの受け取らないんじゃねえ?」
安心した直後に、エプロンを手に晃の後ろに並んだ安部の声がして、びくっと肩を震わせた。レジに品物を持ってくる時に、店員の声が聞こえていたらしい。
「うん……。でも、このエプロン気に入ってたみたいだし、もうMサイズは一つしか残ってなかったし」
「渡したら代金を払うって言うぜ、きっと。キツいんじゃねえか」
「何とか上手くプレゼントできないかな」
はあ、と安部は溜め息を吐く。
「難しいと思うぞ」
「だよね。でも村瀬くん、本当に気に入ってたんだ」
話しながらカードを出した晃は、支払いを済ませて品物を受け取る。
「そりゃ珍しいな」
手に持ったエプロンを店員に渡しながら安部が言った。黒い地に鮮やかな赤や青、黄色い車が走っている。値引き品コーナーには無かった品だった。
「うん、珍しい。唐揚げと同じくらいには気に入ってたと思う」
「あーそう」
晃の真剣な言葉に、安部のおざなりな返事が返ってきた。む、と言葉を重ねようとすると、店員の声がそれを遮る。
「三千二百七十八円です」
「うあー、キツい」
ぶつぶつ言いながら、安部が財布から現金を出して払うのを晃は隣で待った。
「一枚だけ? 洗い替えは?」
「買うつもりだったけど、今日二枚は無理。男用のLサイズは値引き品のコーナーに無かった。終わったらすぐ洗濯することにする」
「そっか。とりあえずボランティアは毎日じゃないしね」
「実習までに、もう一回買いに来るわ」
「バイトしてても、そんなにぎりぎり?」
「ん? まあな。まあ、俺は食う量も多いし、バイト代が入るとつい、今日だけご褒美って豪華なもん食べちゃったりするから、給料日前にいつもは無い出費が来るとこうなるな。勉強に支障が出るほどバイト入れたら本末転倒だから、バイトもほどほどに抑えてるし」
「ふーん……」
二人の視線は、自然と一太の方を向いていた。
「あいつはご褒美も食べてねえんじゃねえ?」
「うん」
「てか多分、ほっといたら食わねえだろ」
「給料日にも、唐揚げ定食、食べれないのかな」
「うどん食べるようになっただけ良かったんだろ?」
「そうなんだけど……」
晃は、大学に入学して四ヶ月経った最近、バイトもせずに勉強に専念している自分が恥ずかしくなってきていた。親しくなった安部が、給料日前に昼ごはんに何を食べるか悩む様子や、一番安いうどんすら食べないで済まそうとする日もある一太を見ていると、自分がいかに恵まれているのかを実感したのだ。
安部は、金が無いと言いつつもご褒美の日があったり、欲しいものがあるからご飯を節約と言ったりするので、彼なりに考えて生活しているのだな、と思える。金欠だあ、とぼやいている時に、奢ってあげようか、と聞けば、サンキューと喜んでくれるし、給料日後には、この間のお礼、と飲み物を返してくれたりする。
でも、村瀬くんは。
レジに歩いてくる一太を見ながら、晃はまじまじとその顔を見つめてしまった。
お金が無いなんて決して言わない。言わなくても何となく、お金があまりないんだろうなと気付いてはいたけれど。ピアノの練習に付き合ったお礼にと昼ごはんを奢ってくれる申し出を受けたのは、一太がきちんと食事を摂っているのか、確かめたかったから。
何度誘っても来てくれなかった食堂に連れ出すことができたから、学校のピアノの弾き心地を確かめようとピアノ室を借りたあの日の自分のことを、何度でも褒めてやりたいと晃は思っている。
店員の大きめの声に、松島晃は慌てて首を縦に振った。色違いのあおむしのエプロンは黒がLサイズ、紺色がMサイズで間違いない。洗い替えにと選んだもう一枚は、黒い地に丸いフォルムの電車の絵柄。可愛い電車は鮮やかな色味で三両連なり、黒地に明るく映えている。
「大丈夫です。Lが二つとMが一つです」
声を落として告げると、
「かしこまりました」
と、また大きな声が返ってきて、晃は一太に聞かれていないかと、はらはらしながら辺りを見渡した。まだ値引き品のコーナーで選んでいる姿が見えて、ほっと息を吐く。
「あいつ、そういうの受け取らないんじゃねえ?」
安心した直後に、エプロンを手に晃の後ろに並んだ安部の声がして、びくっと肩を震わせた。レジに品物を持ってくる時に、店員の声が聞こえていたらしい。
「うん……。でも、このエプロン気に入ってたみたいだし、もうMサイズは一つしか残ってなかったし」
「渡したら代金を払うって言うぜ、きっと。キツいんじゃねえか」
「何とか上手くプレゼントできないかな」
はあ、と安部は溜め息を吐く。
「難しいと思うぞ」
「だよね。でも村瀬くん、本当に気に入ってたんだ」
話しながらカードを出した晃は、支払いを済ませて品物を受け取る。
「そりゃ珍しいな」
手に持ったエプロンを店員に渡しながら安部が言った。黒い地に鮮やかな赤や青、黄色い車が走っている。値引き品コーナーには無かった品だった。
「うん、珍しい。唐揚げと同じくらいには気に入ってたと思う」
「あーそう」
晃の真剣な言葉に、安部のおざなりな返事が返ってきた。む、と言葉を重ねようとすると、店員の声がそれを遮る。
「三千二百七十八円です」
「うあー、キツい」
ぶつぶつ言いながら、安部が財布から現金を出して払うのを晃は隣で待った。
「一枚だけ? 洗い替えは?」
「買うつもりだったけど、今日二枚は無理。男用のLサイズは値引き品のコーナーに無かった。終わったらすぐ洗濯することにする」
「そっか。とりあえずボランティアは毎日じゃないしね」
「実習までに、もう一回買いに来るわ」
「バイトしてても、そんなにぎりぎり?」
「ん? まあな。まあ、俺は食う量も多いし、バイト代が入るとつい、今日だけご褒美って豪華なもん食べちゃったりするから、給料日前にいつもは無い出費が来るとこうなるな。勉強に支障が出るほどバイト入れたら本末転倒だから、バイトもほどほどに抑えてるし」
「ふーん……」
二人の視線は、自然と一太の方を向いていた。
「あいつはご褒美も食べてねえんじゃねえ?」
「うん」
「てか多分、ほっといたら食わねえだろ」
「給料日にも、唐揚げ定食、食べれないのかな」
「うどん食べるようになっただけ良かったんだろ?」
「そうなんだけど……」
晃は、大学に入学して四ヶ月経った最近、バイトもせずに勉強に専念している自分が恥ずかしくなってきていた。親しくなった安部が、給料日前に昼ごはんに何を食べるか悩む様子や、一番安いうどんすら食べないで済まそうとする日もある一太を見ていると、自分がいかに恵まれているのかを実感したのだ。
安部は、金が無いと言いつつもご褒美の日があったり、欲しいものがあるからご飯を節約と言ったりするので、彼なりに考えて生活しているのだな、と思える。金欠だあ、とぼやいている時に、奢ってあげようか、と聞けば、サンキューと喜んでくれるし、給料日後には、この間のお礼、と飲み物を返してくれたりする。
でも、村瀬くんは。
レジに歩いてくる一太を見ながら、晃はまじまじとその顔を見つめてしまった。
お金が無いなんて決して言わない。言わなくても何となく、お金があまりないんだろうなと気付いてはいたけれど。ピアノの練習に付き合ったお礼にと昼ごはんを奢ってくれる申し出を受けたのは、一太がきちんと食事を摂っているのか、確かめたかったから。
何度誘っても来てくれなかった食堂に連れ出すことができたから、学校のピアノの弾き心地を確かめようとピアノ室を借りたあの日の自分のことを、何度でも褒めてやりたいと晃は思っている。
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