【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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105 ◇◇友人の意外な一面

「で?」
「付き合うことになった。ていうか、もう付き合ってたみたい」
「……あっそ」

 安倍には、にやけ顔にしか見えないというのに、周りの女子には松島のこの顔は、爽やかスマイルに見えているらしい。ものすごく注目を浴びながら、学内を歩いている。もともと、大した愛想も無いのにモテモテだった男が、こんなにご機嫌で歩いていれば、そりゃ目立つというものだ。
 パレードを一緒に鑑賞した後は別行動だった、遊園地のダブルデートの翌日。いや、男三人、女一人でダブルデートもおかしな話だが、提案してきたのは松島なので、そこは突っ込まないことにする。
 安倍は、まるで人が変わってしまった友人に胡乱な目を向けた。

「村瀬が、付き合うの意味をちゃんと分かっているとは思えないんだけど」
「うん。そうだろうね」
「は?」
「え? だって、いっちゃんの今までの人生に、そんなことに意識割く暇なんてなかったと思うよ。よく分かってないんじゃないかなあ」
「お前……。それ、分かってて言質げんち取ったのか……」
「うん、そう」

 松島は、爽やかに笑った。
 うん。こいつのこと誤解してたわ、と安倍は思う。淡々とした、他人に心を動かさない男だと思っていた。実際、そうだった。この、幼稚園教諭や保育士を目指す短期大学で学ぶ数少ない同性の同士として、安倍が必死で声をかけていたのに、薄っすら口元だけで笑って、当たり障りのない返事をしてきていたのだから。
 その松島も、同じ時期は、村瀬にこっぴどく振られていたが。

「いいんだよ。いっちゃんが僕のこと、誰より特別に思ってるって事は分かってたんだから」
「はあ?」

 よく言うよ。
 安倍は内心でため息をついた。
 いっちゃんも初恋してるかどうかなんて分からないじゃないか、とか何とかグダグダと言っていたくせに。
 ああ、そうか。
 ご機嫌な友人の笑顔に気付く。
 村瀬の好き、が恋でなく親愛でも、自分だけが特別だと分かれば、もうそれで良くなっちゃったのか。
 付き合い始めて、相手を知るにつれて、どんどん気持ちが育つこともある。俺も、岸田さんと価値観合うな、と思って気になって、買い物一緒に行ったり、勉強を教えてもらっているうちに、どんどん惹かれていったんだった。
 あっちも俺のこと、どちらかというと好きだよな、と気付いていても、告白するのは勇気がいった。もし間違えていたら、今までの友人関係でもいられなくなる。それが、怖かった。このまま仲の良い友人でもいいじゃないか、と思ったり、一番特別だという確証が欲しかったり、悩んだ。でも、勇気を出したから、今がある。
 松島は、もう村瀬と一緒に暮らしている。駄目だったら、気まずいなんてもんじゃない。もう、一緒には暮らせなくなるだろう。
 男同士だし、言わないまま、一番親しい友人でいる選択肢もあったはずだ。それでも、告白することを選んだ。
 それだけ、松島は、村瀬のことが好きだった。
 なら、このまま応援するのが正解なのかもしれない、と安倍は思った。
 まだ、付き合うの意味をよく分かっていない村瀬には悪いけれど、俺はこのまま、友人同士のカップルを応援する事にしよう。そうしよう。
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