【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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224 卒業旅行 2

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 バスに乗って駅へ着く。合流した岸田は、なかなかの大荷物だった。タイヤの付いた鞄を、ゴロゴロと転がしている。

「え? 皆、荷物少な過ぎない?」
「え?」

 二泊三日。寒い季節だから着替えの服は確かにかさばるが、寒い季節だから下着以外は汗もかかないし、まあ汚れたら替えるくらいでいいだろう、と一太は上、下一つずつの着替えを持ってきた。歯ブラシやシャンプー、タオル、寝間着などの備品は一通り置いてある、とホテルの説明に書いてあったから、持ってきていない。たぶん、晃と安倍も似たようなものだろう。一太より体が大きい分着替えが大きくて、少しだけ荷物が大きい程度だ。晃はそんなに大きくないボストンバッグをひょいと肩に掛けていて、安倍はリュックを背負っている。

「逆に、何が入ってんの?」
「え? 普通に」
「普通に?」
「だから、着替えとかタオルとか化粧品とかパジャマとか」
「タオルもパジャマ的なものもあるって書いてあったじゃん」
「え? でも、一応」
「なるほど?」

 一応? 三人で首を傾げつつ、予定通りの電車で出発した。平日の早朝、自由席でも四人で向かい合って座ることができて安堵した。相談の上で指定席代をケチったが、一時間ほどの時間を立って過ごすことになったらどうしよう、と少し不安だったのだ。早速賭けに勝って、みんなで早くもテンションは高めだ。

「そういえば今までの修学旅行の時もさ、女子の荷物って多かった」
「そうかも」

 電車に乗ってからの晃と安倍の言葉に、そうなのかあと一太は思う。

「男子はさ、荷物少な過ぎなんだよ。いるかいらないか分からないもの、全部置いてくるんだもん」
「いるかいらないかとか悩みもしないぞ。いるものだけ持っていく」
「ええ? 悩みもしないんだ」
「何を悩むんだよ」
「いや。もしかしてタオル足りなかったら? とか考えたら、一枚二枚持つじゃん? パジャマが合わなかったら困るからパジャマ一応持ってく? とか、汚した時のために下着や服を予備一つずつ追加したりしてたらこうなるんだけど」
「へええ」

 驚きの声は三つ響いた。その声に、岸田が目を丸くする。

「あれ? 村瀬くんも考えない感じ?」
「あ、うん……」
「なんか、勝手なイメージで、村瀬くんは予備とかちゃんと考えてそうだと思ってた」
「予備、予備かあ」

 予備どころか、最初の一つにも事欠いた人生だ。一太の今までの人生に予備なんて存在しなかった。

「村瀬も男子だからさ。やっぱ俺らと一緒なんだよ。な」

 一太が言葉に詰まっていたら、安倍が代わりに明るく答えてくれた。晃もうんうんと頷いている。
 そうか。それでいいのか。
 一太も笑って頷くと、岸田が不満そうに口を尖らせた。

「男子の中にだって、色々考える人いると思うんだけどなあ」
「そりゃそうだ。大雑把な女子もいるしな。ま、色々だけどさ。ここにはいなかったっぽいな」
「まあいいわ。私が、みんなの分も考えておくから」
「頼りにしてるよ」

 話してるだけで、楽しい。この四人で旅行できて良かった、と一太はしみじみ思った。
 目的の地域に着いて、まずはホテルへ向かった。チェックインは夕方以降だが、大きな荷物を預けておいてもよいかと尋ねてみたら、ホテルの人が快くオッケーしてくれたのだ。

「やった。ロッカー代が浮いた」
「ロッカー代?」
「そ。遊ぶ時に大きい荷物を持ち歩くのが大変だから、駅や遊ぶとこのロッカーに預けるんだよ。ロッカー代も最近は結構するから、預かってもらえたらその分、お金がかからずにすむだろ?」
「おお、なるほど」

 安倍の細かい節約術が素晴らしい。一太が感心して見ていると、荷物を預けながらホテルのフロントの人と軽快に話していた安倍が、サファリパークの割引きチケットをもらって帰ってきた。

「今からサファリパークに遊びに行くんですって言ったら、良かったら使ってくださいってくれた!」
「安倍くんってすごいね!」
つよしくん、すごい」
「わはは。もっと褒めていいぞ」
「天才。節約の天才」
「わーはっはっは」
「岸田さん。褒めすぎると調子に乗るからほどほどで」
「松島。せっかく良い気分なんだから水を差すな」

 何だか色々と上手くいって、まだ荷物を預けただけなのに、皆でずっとにこにこしている。一太は、ホテルの出入口やフロントの人の丁寧な挨拶に、一々ぺこりと頭を下げながら旅を満喫していた。
 知らない土地でも、晃と安倍が携帯電話で地図を出して調べて連れて行ってくれるので安心だ。一太は、晃と手を繋いで歩きながら、普段の町との景色の違いを楽しんでいた。
 開園の三十分前に着いたが、何人かの人がすでに門の前に待っていた。早く来て良かった、と四人で胸を撫で下ろす。岸田がやりたい餌やり体験は先着順だから、これならできないということは無さそうだ。

「買うぞ」
「もちろん」
「一番高いやつでいいんだな」
「決めてきたじゃん」
「よしっ」

 普通の観光バスで、座って動物を見て回るのが一番安い。けれどこれでは、岸田がやりたがっていた餌をあげる体験ができないのだ。安いバスの四倍近い値段がするが、先着三組は虎への餌やり体験ができる檻の形のバスにすることは決めていた。餌やりをしたい人は餌代を更に五百円払うことになるが、やりたいことを考えると選ぶバスはこちらだろう。決めた時は、これしか無いと皆で言っていたのだが、いざ買うとなるとなかなかの値段差に決心がいるものらしい。
 
「すみません。一番早い時間の餌やり体験はまだ空いてますか」
「はい、大丈夫ですよ」
「四人で餌やり体験付きのコースをお願いします」
「はい。入園券は別になりますので、そちらも四人分でよろしいですか?」
「はい、お願いします。割引きチケットがあるんですが使えますか?」
「あ、はい。では割引き致しますね」

 何度も確認する安倍の横から、ひょいと窓口の前に進んだ晃が、すらすらと注文して自分のクレジットカードでさくっと支払いを済ませてしまう。

「チケット買ったよ。餌やり体験できるって。お金は、またホテル戻ってから精算しよ」
「あ、うん……。松島、ためらいねえな?」
「え、うん。だってもう決めてあったし」
「ま、そうなんだけどさ。あまりの値段の違いにちょっとビビるじゃん? 実際買うとなると」
「あはは。それも分かってたことでしょ。バスの出発は一時間後だから、それまで歩いて回れるとこ行っておこう? 歩きでも、動物がかなり間近で見られるらしいよ」

 晃くんもやっぱりすごい。
 一太は頼もしい横顔を見上げて、目を細めた。 
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