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40 お茶会
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「何を言っているの、シャルル。」
王妃は、訳が分からないという顔で首を傾げた。
「貴方は王子なのよ。王妃が生んだ王子なの。側妃の生んだ子より、王太子に相応しい。」
「王妃殿下、お話が長くなるようでしたら、座らせて頂けませんか?私も王太子殿下も、お茶の時間のつもりでおりますのに、いつまでこのような所で足止めをされなければならないのでしょう。」
「その呼び方はどういうこと?母と、呼びなさい。」
「母上。王太子殿下と私とのお茶会はどうされる?」
扇で口許を隠しているが、ぐ、と眉間に皺を寄せた王妃は深呼吸してから、
「どうぞ、席にお着きください。」
と言った。
リュカが持っていたシリルからの差し入れの菓子は、侍女が誰も受け取ってくれないので、リュカが皿に入れて一つのテーブルを囲んだ三人の前に置いた。王妃付きの侍女がすかさず下げようとするのを、シリルとシャルルが睨み付けて止める。
侍女の淹れた紅茶が並べられ、王妃の準備した数種類の菓子が中央に置かれる。
シリルは、リュシルを振り返った。みるみる顔色を失くした侍従は悲しげに首を横に振る。やはり、この人は変わらない。いっそ潔いほどに。
シャルルは、リュシルの置いた焼き菓子をフォークで切り分けて口に入れた。
ひっ、と王妃から息を飲む音がする。
「お止めなさい、シャルル。私が取り分ける菓子以外のものを口にしてはなりません。そちらは、毒味もしておらぬ。」
「とても美味しいです。殿下、ありがとうございます。シモン殿の料理は素晴らしいですね。」
「伝えておくよ。」
「私が毒味をすませました。母上も、安心してお召し上がりください。それと、もう小さな子どもではないのですから、菓子は自分で取り分けます。王太子殿下の前で、恥ずかしいことを言わないで頂きたい。」
「シリルは、王太子ではない。」
耐えかねたような声が王妃から漏れる。
「そうですね。まだ、公示はされておりませんでした。二日後からですかね。」
「一月後の儀式の後で良いのではないか。私は、まあ、どちらでも構わない。王太子になる覚悟はできているから。」
「はい、シリル殿下。」
決して兄上とは呼ばないことに何かの意図を感じて、シリルはシャルルに笑顔を向ける。
王妃がぶる、と震えた。
「何ですって。王太子になる覚悟ができている、ですって。お前は、私の手紙を読まなかったのかしら。」
「大変、興味深い内容でした。こちらに持っておりますよ。シャルルも見るかい?」
懐から、茶会の招待状と共に取り出す。シャルルはすぐに開いて読み始めた。みるみる顔色が悪くなっていく。
「なんという、なんということを。」
手紙を握り潰しそうになって、慌ててシリルに返した。
「母上!よくもこんなものを兄上に!」
「私からの心からの忠告、これを読んでも、王太子になることを辞退しないシリルは、気がふれているとしか思えないわ。貴方が国を背負うのです。」
「気がふれているのは、貴女だ。貴女からの報復が恐くて、誰もがどんな勝負も手を抜いていたことを知らないのですか。学園での兄上の成績もご存知ないのか。」
「学園での成績は知っているわ。貴方に忖度しない愚か者たちには、きっと思い知らせて差し上げます。」
王妃は紅茶を優雅に飲んだ。
「冷める前に、シャルルとシリルもお飲みなさい。お茶を飲みに来たのでしょう。」
「はい、頂きます。」
そう答えたシャルルは、素早くシリルと自分の紅茶を取り替えた。そのまま、ごくりと一口飲む。
「王妃殿下の、私のためにとおっしゃるすべての行動が……。」
そこで、ぐらりと頭が机に伏した。
「……シャルル。シャルル、何故。」
「私の紅茶には、何が入っていたのですか。」
呆然とする王妃にシリルの静かな声が重なる。リュシルが静かにシリルの後ろに立った。様子がおかしいのを察した侍女が二人、駆け寄って来る。
「シャルル殿下、どうされましたか。王妃殿下、これは一体……。」
「医師を呼べ。」
シリルが言うのへ、悲鳴を上げる。
「ああー、シャルル殿下。シャルル殿下が。」
「やはり、やはり死神の呪いですの。毒ですの。王妃殿下、離れてくださいませ。」
「黙れ、早く医師を呼んでこい。シャルルを殺したいのか。近衛騎士も呼べ。この机の上は触るな。」
呆然と席に着いている王妃に冷たい視線を向ける。
「これは、かなりな量を盛りましたか。どう申し開きするおつもりでしたのか?いつもは、体調を崩す程度にされていたでしょうに。」
「私は、知らぬ。何の話を……。」
医師と近衛騎士が来た。
「シャルル殿下。これは、毒ですか。」
「私の前に置かれていた紅茶を代わりに飲んで倒れた。紅茶を淹れた侍女に事情を聞くとよいのではないか。」
近衛騎士がすぐに動く。王妃も侍女も、知らない、覚えがないと繰り返す中、医師が言った。
「幸い飲み差しの紅茶があるとはいえ、毒の種類を特定して解毒できるまでに、シャルル殿下のお命がもつかわかりません。本当にこの中に毒を入れた方がいないのなら、お覚悟を。」
王妃は、訳が分からないという顔で首を傾げた。
「貴方は王子なのよ。王妃が生んだ王子なの。側妃の生んだ子より、王太子に相応しい。」
「王妃殿下、お話が長くなるようでしたら、座らせて頂けませんか?私も王太子殿下も、お茶の時間のつもりでおりますのに、いつまでこのような所で足止めをされなければならないのでしょう。」
「その呼び方はどういうこと?母と、呼びなさい。」
「母上。王太子殿下と私とのお茶会はどうされる?」
扇で口許を隠しているが、ぐ、と眉間に皺を寄せた王妃は深呼吸してから、
「どうぞ、席にお着きください。」
と言った。
リュカが持っていたシリルからの差し入れの菓子は、侍女が誰も受け取ってくれないので、リュカが皿に入れて一つのテーブルを囲んだ三人の前に置いた。王妃付きの侍女がすかさず下げようとするのを、シリルとシャルルが睨み付けて止める。
侍女の淹れた紅茶が並べられ、王妃の準備した数種類の菓子が中央に置かれる。
シリルは、リュシルを振り返った。みるみる顔色を失くした侍従は悲しげに首を横に振る。やはり、この人は変わらない。いっそ潔いほどに。
シャルルは、リュシルの置いた焼き菓子をフォークで切り分けて口に入れた。
ひっ、と王妃から息を飲む音がする。
「お止めなさい、シャルル。私が取り分ける菓子以外のものを口にしてはなりません。そちらは、毒味もしておらぬ。」
「とても美味しいです。殿下、ありがとうございます。シモン殿の料理は素晴らしいですね。」
「伝えておくよ。」
「私が毒味をすませました。母上も、安心してお召し上がりください。それと、もう小さな子どもではないのですから、菓子は自分で取り分けます。王太子殿下の前で、恥ずかしいことを言わないで頂きたい。」
「シリルは、王太子ではない。」
耐えかねたような声が王妃から漏れる。
「そうですね。まだ、公示はされておりませんでした。二日後からですかね。」
「一月後の儀式の後で良いのではないか。私は、まあ、どちらでも構わない。王太子になる覚悟はできているから。」
「はい、シリル殿下。」
決して兄上とは呼ばないことに何かの意図を感じて、シリルはシャルルに笑顔を向ける。
王妃がぶる、と震えた。
「何ですって。王太子になる覚悟ができている、ですって。お前は、私の手紙を読まなかったのかしら。」
「大変、興味深い内容でした。こちらに持っておりますよ。シャルルも見るかい?」
懐から、茶会の招待状と共に取り出す。シャルルはすぐに開いて読み始めた。みるみる顔色が悪くなっていく。
「なんという、なんということを。」
手紙を握り潰しそうになって、慌ててシリルに返した。
「母上!よくもこんなものを兄上に!」
「私からの心からの忠告、これを読んでも、王太子になることを辞退しないシリルは、気がふれているとしか思えないわ。貴方が国を背負うのです。」
「気がふれているのは、貴女だ。貴女からの報復が恐くて、誰もがどんな勝負も手を抜いていたことを知らないのですか。学園での兄上の成績もご存知ないのか。」
「学園での成績は知っているわ。貴方に忖度しない愚か者たちには、きっと思い知らせて差し上げます。」
王妃は紅茶を優雅に飲んだ。
「冷める前に、シャルルとシリルもお飲みなさい。お茶を飲みに来たのでしょう。」
「はい、頂きます。」
そう答えたシャルルは、素早くシリルと自分の紅茶を取り替えた。そのまま、ごくりと一口飲む。
「王妃殿下の、私のためにとおっしゃるすべての行動が……。」
そこで、ぐらりと頭が机に伏した。
「……シャルル。シャルル、何故。」
「私の紅茶には、何が入っていたのですか。」
呆然とする王妃にシリルの静かな声が重なる。リュシルが静かにシリルの後ろに立った。様子がおかしいのを察した侍女が二人、駆け寄って来る。
「シャルル殿下、どうされましたか。王妃殿下、これは一体……。」
「医師を呼べ。」
シリルが言うのへ、悲鳴を上げる。
「ああー、シャルル殿下。シャルル殿下が。」
「やはり、やはり死神の呪いですの。毒ですの。王妃殿下、離れてくださいませ。」
「黙れ、早く医師を呼んでこい。シャルルを殺したいのか。近衛騎士も呼べ。この机の上は触るな。」
呆然と席に着いている王妃に冷たい視線を向ける。
「これは、かなりな量を盛りましたか。どう申し開きするおつもりでしたのか?いつもは、体調を崩す程度にされていたでしょうに。」
「私は、知らぬ。何の話を……。」
医師と近衛騎士が来た。
「シャルル殿下。これは、毒ですか。」
「私の前に置かれていた紅茶を代わりに飲んで倒れた。紅茶を淹れた侍女に事情を聞くとよいのではないか。」
近衛騎士がすぐに動く。王妃も侍女も、知らない、覚えがないと繰り返す中、医師が言った。
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