【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ

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28 天国のお掃除係

 ヤクモは、毎日が楽しくてたまらない。
 ふかふかのお布団。
 大好きなイズモが抱いて寝てくれたら、嫌な夢も見ずにぐっすりと眠れた。あちこち痛いのも、どこかへ飛んでいくようだ。
 決まった時間に出てくる食事。
 はじめは、口に入れて飲み込むのに必死でよく分からなかったが、ゆっくり食べてみると、とても良い味がする、と思う。熱すぎて口の中がずるむけになったりしない。固いこともない。変なものが入ってたりしない。嫌な臭いもない。誰も取りあげたりしないし、ひっくり返したりもしない。良い匂いによだれを垂らしても、嘲笑う人はいない。それどころかヌイは、

「まあ、そんなに私の作るご飯を喜んでくれるなんて、嬉しいです。」

 と言って喜んでくれたのだ。
 ヌイは、大人の女の人だけど、痛いことをしない。心が痛くなるようなことも言わない。
 おうちをきれいにしてくれて、美味しいスープを作ってくれる。
 男用の服も下着も持ってきてくれた。イズモが短く切ってくれた髪を、格好いいと言った。似合う、と笑って褒めてくれた。
 ヤクモは大好きなイズモ以外の人間は、怖い。
 このおうちに訪ねて来るのは、たった二人。ヤクモは、男のミカゲより女のヌイの方がより怖かった。ヤクモと関わりのあった人間は女の人ばかりで、痛いことをする人ばかりだったから。
 でも、少し元気になってきておうちの中を見ていると、ヌイのしていることが気になって仕方ない。
 お部屋の中を掃いたり拭いたり、窓を拭いたり、お風呂をごしごし磨いたり。
 こっそり後をつけて観察するのが、とても楽しい。
 こうやってお掃除してたら、前に住んでた部屋も、もう少し暮らしやすくなってたのかなあ、なんて思ったりする。そんな体力も気力も無く、掃除道具も無かったことはすっかり忘れていた。
 どうしてもやってみたくて、こっそりとお風呂場に行く。部屋のなかと違って、誰にも見つからずにお掃除できそうだ。お掃除のブラシがお風呂場に置いてあることは知っている。何度かこっそりと観察したので、やり方も大丈夫なはず。
 ヤクモは、お風呂のお湯を流してブラシを手に取った。まずは洗い場からごしごし擦ろう。ヌイがしていたことを思い出しながら、あちこちをごしごし擦っていると楽しくて、思わず歌が浮かんできた。
 色んな記憶が曖昧で、お腹が空いていたっていうことしか、しっかり覚えていない。けれど、歌が浮かんでくるということは、小さい頃のヤクモに、歌を歌ってくれた人がいたのだろう。字が読めるのだから、字の読み方を教えてくれた人がいたのだろう。
 ふんふーん、と頭の中で、でたらめなメロディーを追う。
 ここは、やっぱり天国だなあ、とヤクモは思った。ずっと、ここにいてもいいだろうか。いられたらいいなあ!
 そしたら俺は、お掃除係になろう。ヌイのお手伝いのお掃除係。
 ものすごく素晴らしい思いつきに、ヤクモは幸せな気持ちでいっぱいだった。
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