30 / 83
30 塔の町の子ども
「イズモ様とヤクモ様に紹介します。うちの息子のヒカゲとその嫁のトキです。」
町での仕事を終えたヒカゲとトキを連れて、夕食時に塔へと足を運んだ。ヒカゲとトキも、緊張しているのが分かる。
イズモ様の加護の無いまま塔へ入るのは、寿命を削る行為である。寿命を削るのは自分たちだけで良いと考えて、あまり連れてこなかったのは良くなかったな、とミカゲは思った。ミカゲの子どもの頃にはまだ塔にサクラがいて、王家からの給金もしっかりと払われ、親に付いてきて塔の周辺で遊んでいたので、イズモと接することへの緊張なども無かったのだ。
「ヒカゲです。よろしくお願い致します。」
「トキと申します。」
二人が緊張しながら、出入り口の扉前に立つと、塔の中からイズモが、にこりと笑うのが見えた。ふ、とヒカゲとトキに加護の力が注がれるのが感じられる。二人は、不思議な感覚に顔を見合わせていた。
「よろしくね。イズモです。僕がここから出られないから、世話をかけます。」
「あ、いえ、あの……。」
イズモ様のことを小さな頃から、塔の守り神、国の礎として習い、これまでの、カナメヅカの一族がお世話をしてきた記録を読んで育っているヒカゲは、四百年間国を守るイズモ様を神様と崇めている。花嫁の不在で寝込んでいたイズモ様。イズモ様の加護の無い我が子を塔へ入れることはできず、そのお姿を見るのは初めてなのだ。
神様が実在した、とばかりに感動に震えるヒカゲと、ただひたすらに戸惑っているトキ。花嫁の不在が長過ぎたため、塔の町の子ども達ですら、この塔にイズモ様が本当にいらっしゃることを忘れかけているのだ。塔が見えてもいない場所に住む人々にはもう、この国の成り立ちを覚えている者も少ないのかもしれない。
二人が加護を受けたので、安心して塔の中へ入る。
ヤクモ様は予想通り、盛大に身を震わせた。思わず、といった風に、側にいたヌイにしがみついてしまっている。
今日はヌイは、昼過ぎから塔の中で食事の支度をしていた。今までは、家で作ったスープと買ってきたパンを届けるだけだったので、調理の様子を見たことのなかったヤクモ様は、もうかぶりつきで見ていたようだ。随分とヌイの近くにいた。
いつもの、掃除の様子を見ている時は、本人はこっそりと気付かれていないつもりで見ているので、離れて物陰から覗いている、と聞いている。だと言うのに今日は、しがみつける程近くにいて見ていらっしゃったのか。
何となく微笑ましくなって、ヌイにしがみつくヤクモ様をじっと見ていると、はっとしたようにヌイから手を離して、わたわたとイズモ様の元へ走っていった。
イズモ様が嬉しそうにヤクモ様を腕の中へ迎え入れて抱きしめると、ヤクモ様がほっとしたようにぺたりと寄り添うのが見えた。優しい神力がほわほわと塔の中に満ちる。
ああ、きっともう色々なことが大丈夫なのだ、と思いながら、ヌイと共に大勢での食事を並べた。
町での仕事を終えたヒカゲとトキを連れて、夕食時に塔へと足を運んだ。ヒカゲとトキも、緊張しているのが分かる。
イズモ様の加護の無いまま塔へ入るのは、寿命を削る行為である。寿命を削るのは自分たちだけで良いと考えて、あまり連れてこなかったのは良くなかったな、とミカゲは思った。ミカゲの子どもの頃にはまだ塔にサクラがいて、王家からの給金もしっかりと払われ、親に付いてきて塔の周辺で遊んでいたので、イズモと接することへの緊張なども無かったのだ。
「ヒカゲです。よろしくお願い致します。」
「トキと申します。」
二人が緊張しながら、出入り口の扉前に立つと、塔の中からイズモが、にこりと笑うのが見えた。ふ、とヒカゲとトキに加護の力が注がれるのが感じられる。二人は、不思議な感覚に顔を見合わせていた。
「よろしくね。イズモです。僕がここから出られないから、世話をかけます。」
「あ、いえ、あの……。」
イズモ様のことを小さな頃から、塔の守り神、国の礎として習い、これまでの、カナメヅカの一族がお世話をしてきた記録を読んで育っているヒカゲは、四百年間国を守るイズモ様を神様と崇めている。花嫁の不在で寝込んでいたイズモ様。イズモ様の加護の無い我が子を塔へ入れることはできず、そのお姿を見るのは初めてなのだ。
神様が実在した、とばかりに感動に震えるヒカゲと、ただひたすらに戸惑っているトキ。花嫁の不在が長過ぎたため、塔の町の子ども達ですら、この塔にイズモ様が本当にいらっしゃることを忘れかけているのだ。塔が見えてもいない場所に住む人々にはもう、この国の成り立ちを覚えている者も少ないのかもしれない。
二人が加護を受けたので、安心して塔の中へ入る。
ヤクモ様は予想通り、盛大に身を震わせた。思わず、といった風に、側にいたヌイにしがみついてしまっている。
今日はヌイは、昼過ぎから塔の中で食事の支度をしていた。今までは、家で作ったスープと買ってきたパンを届けるだけだったので、調理の様子を見たことのなかったヤクモ様は、もうかぶりつきで見ていたようだ。随分とヌイの近くにいた。
いつもの、掃除の様子を見ている時は、本人はこっそりと気付かれていないつもりで見ているので、離れて物陰から覗いている、と聞いている。だと言うのに今日は、しがみつける程近くにいて見ていらっしゃったのか。
何となく微笑ましくなって、ヌイにしがみつくヤクモ様をじっと見ていると、はっとしたようにヌイから手を離して、わたわたとイズモ様の元へ走っていった。
イズモ様が嬉しそうにヤクモ様を腕の中へ迎え入れて抱きしめると、ヤクモ様がほっとしたようにぺたりと寄り添うのが見えた。優しい神力がほわほわと塔の中に満ちる。
ああ、きっともう色々なことが大丈夫なのだ、と思いながら、ヌイと共に大勢での食事を並べた。
あなたにおすすめの小説
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます
こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。