【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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四十四

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 護衛は、あっという間に決まった。若様方の専属の護衛たちが、それぞれ、友人を紹介したいと申し出てくれたからである。平安の世、強くあれと剣の腕を磨いて育ったところで士官の道はそうそう無く、武家の次男三男は、職にあぶれて食い詰めるものが多かった。嫡男であっても、家のやりくりに四苦八苦している者も多い。戦のない世は何よりであるのだが、武家にとっては、大きな収入源が減ることでもあったのだ。

「その者は、つい先日、兄が嫁を迎えて家督を継ぐこととなった為、暮らす家にも事欠いており……」

 とのことで、良庵の屋敷に住み込みでの仕事と相成った。小太郎の方の護衛も同様の事情である。が、時行ときゆきの裁量で雇った者が、幾人もの家臣や使用人を抱えた直井家の屋敷で住み込みというのは居づらかろうということで、同じく良庵の屋敷に居候することとなった。良庵の屋敷には住み込みの使用人はおらず、嫁も子もいない。部屋はたくさん空いていたのだ。
 怪文書が届いた、と聞いた良庵と草庵も、若様の配慮をありがたく受け入れることとした。その頃、時行と余四郎のすぐ上の兄が体調を崩しており、担当でないとはいえ、御典医である良庵と助手の草庵はかなり忙しくしていたのだ。通いの使用人たちが家へ帰る時間になっても、良庵も草庵も屋敷へ戻っていないことがあり、伊之助が屋敷に一人でいる時間が増えている。この時間を、良庵は大いに気にしていた。住み込みの申し出は丁度良かった。
 話に出た二人は、翌々日にはもう、小さな手荷物を持って良庵の屋敷に転がり込んできた。
 そして、よろしくお願い致します、と藩校から戻ってきた伊之助に平伏した。

「こ、こ、こちらこそ」

 伊之助は、平伏こそしなかったが深々と頭を下げて、お互いに名乗り合った。

「竹内藤兵衛とうべえと申します」

 こちらが、伊之助の護衛となる者らしい。中肉中背で優し気な顔つきであったが、めっぽう強いと余四郎の護衛、山中正平のお墨付きである。

「辻本左近さこんと申します。お世話になります」

 こちらが、小太郎の護衛。こちらも中肉中背で、切れ長の目の優男であった。時行の護衛、土井嗣治つぐはるの推薦でやってきた。

「伊之助です。あ、ええっと、飯原いいはら伊之助です」

 未だに、名乗ってもよいものか悩みつつ、伊之助は家名を口にする。何度名乗っても、慣れることは無さそうだった。家名をぎこちなく名乗る度に、いのはそのうち、玉乃川伊之助になるからな、私とお揃いだ、という四郎の言葉を思い出す。そのうち、四郎さまと同じになる、ということに伊之助の胸は弾む。飯原の名は、ほんの少しだけ借りることとしよう。
 その後、屋敷を訪ねてきた時行と余四郎は、自分たちの護衛よりだいぶ体格の小さな二人に首を傾げて勝負を挑み、見事に打ち負かされた。
 若様相手に手加減をしない姿勢もよいですね、と小太郎が笑い、体格など強さに関係ないことを、私たちは誰より知っているのになあ、と小さくて強い小太郎を見ながら伊之助は思ったのだった。
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