44 / 188
四十四
しおりを挟む
護衛は、あっという間に決まった。若様方の専属の護衛たちが、それぞれ、友人を紹介したいと申し出てくれたからである。平安の世、強くあれと剣の腕を磨いて育ったところで士官の道はそうそう無く、武家の次男三男は、職にあぶれて食い詰めるものが多かった。嫡男であっても、家のやりくりに四苦八苦している者も多い。戦のない世は何よりであるのだが、武家にとっては、大きな収入源が減ることでもあったのだ。
「その者は、つい先日、兄が嫁を迎えて家督を継ぐこととなった為、暮らす家にも事欠いており……」
とのことで、良庵の屋敷に住み込みでの仕事と相成った。小太郎の方の護衛も同様の事情である。が、時行の裁量で雇った者が、幾人もの家臣や使用人を抱えた直井家の屋敷で住み込みというのは居づらかろうということで、同じく良庵の屋敷に居候することとなった。良庵の屋敷には住み込みの使用人はおらず、嫁も子もいない。部屋はたくさん空いていたのだ。
怪文書が届いた、と聞いた良庵と草庵も、若様の配慮をありがたく受け入れることとした。その頃、時行と余四郎のすぐ上の兄が体調を崩しており、担当でないとはいえ、御典医である良庵と助手の草庵はかなり忙しくしていたのだ。通いの使用人たちが家へ帰る時間になっても、良庵も草庵も屋敷へ戻っていないことがあり、伊之助が屋敷に一人でいる時間が増えている。この時間を、良庵は大いに気にしていた。住み込みの申し出は丁度良かった。
話に出た二人は、翌々日にはもう、小さな手荷物を持って良庵の屋敷に転がり込んできた。
そして、よろしくお願い致します、と藩校から戻ってきた伊之助に平伏した。
「こ、こ、こちらこそ」
伊之助は、平伏こそしなかったが深々と頭を下げて、お互いに名乗り合った。
「竹内藤兵衛と申します」
こちらが、伊之助の護衛となる者らしい。中肉中背で優し気な顔つきであったが、めっぽう強いと余四郎の護衛、山中正平のお墨付きである。
「辻本左近と申します。お世話になります」
こちらが、小太郎の護衛。こちらも中肉中背で、切れ長の目の優男であった。時行の護衛、土井嗣治の推薦でやってきた。
「伊之助です。あ、ええっと、飯原伊之助です」
未だに、名乗ってもよいものか悩みつつ、伊之助は家名を口にする。何度名乗っても、慣れることは無さそうだった。家名をぎこちなく名乗る度に、いのはそのうち、玉乃川伊之助になるからな、私とお揃いだ、という四郎の言葉を思い出す。そのうち、四郎さまと同じになる、ということに伊之助の胸は弾む。飯原の名は、ほんの少しだけ借りることとしよう。
その後、屋敷を訪ねてきた時行と余四郎は、自分たちの護衛よりだいぶ体格の小さな二人に首を傾げて勝負を挑み、見事に打ち負かされた。
若様相手に手加減をしない姿勢もよいですね、と小太郎が笑い、体格など強さに関係ないことを、私たちは誰より知っているのになあ、と小さくて強い小太郎を見ながら伊之助は思ったのだった。
「その者は、つい先日、兄が嫁を迎えて家督を継ぐこととなった為、暮らす家にも事欠いており……」
とのことで、良庵の屋敷に住み込みでの仕事と相成った。小太郎の方の護衛も同様の事情である。が、時行の裁量で雇った者が、幾人もの家臣や使用人を抱えた直井家の屋敷で住み込みというのは居づらかろうということで、同じく良庵の屋敷に居候することとなった。良庵の屋敷には住み込みの使用人はおらず、嫁も子もいない。部屋はたくさん空いていたのだ。
怪文書が届いた、と聞いた良庵と草庵も、若様の配慮をありがたく受け入れることとした。その頃、時行と余四郎のすぐ上の兄が体調を崩しており、担当でないとはいえ、御典医である良庵と助手の草庵はかなり忙しくしていたのだ。通いの使用人たちが家へ帰る時間になっても、良庵も草庵も屋敷へ戻っていないことがあり、伊之助が屋敷に一人でいる時間が増えている。この時間を、良庵は大いに気にしていた。住み込みの申し出は丁度良かった。
話に出た二人は、翌々日にはもう、小さな手荷物を持って良庵の屋敷に転がり込んできた。
そして、よろしくお願い致します、と藩校から戻ってきた伊之助に平伏した。
「こ、こ、こちらこそ」
伊之助は、平伏こそしなかったが深々と頭を下げて、お互いに名乗り合った。
「竹内藤兵衛と申します」
こちらが、伊之助の護衛となる者らしい。中肉中背で優し気な顔つきであったが、めっぽう強いと余四郎の護衛、山中正平のお墨付きである。
「辻本左近と申します。お世話になります」
こちらが、小太郎の護衛。こちらも中肉中背で、切れ長の目の優男であった。時行の護衛、土井嗣治の推薦でやってきた。
「伊之助です。あ、ええっと、飯原伊之助です」
未だに、名乗ってもよいものか悩みつつ、伊之助は家名を口にする。何度名乗っても、慣れることは無さそうだった。家名をぎこちなく名乗る度に、いのはそのうち、玉乃川伊之助になるからな、私とお揃いだ、という四郎の言葉を思い出す。そのうち、四郎さまと同じになる、ということに伊之助の胸は弾む。飯原の名は、ほんの少しだけ借りることとしよう。
その後、屋敷を訪ねてきた時行と余四郎は、自分たちの護衛よりだいぶ体格の小さな二人に首を傾げて勝負を挑み、見事に打ち負かされた。
若様相手に手加減をしない姿勢もよいですね、と小太郎が笑い、体格など強さに関係ないことを、私たちは誰より知っているのになあ、と小さくて強い小太郎を見ながら伊之助は思ったのだった。
784
あなたにおすすめの小説
生まれる前から好きでした。
兎
BL
目立たないよう静かに暮らしてきた高校生の相澤和真の前に、突然現れた年下の容姿端麗な男、三峰汐音。彼には生まれる前からの記憶があり、和真の事を前世で自分が護衛をしていた王女の生まれ変わりなのだと打ち明ける。自分が側に居なかった為に王女が処刑されてしまったと、心に深い傷を負ったまま汐音は何度も生まれ変わりながらもずっと亡き王女の魂を探し求め、やっと見つけたのが和真なのだと説明する。王女の面影を重ねながら和真を一途に慕う汐音に、和真の生活は乱されていく。汐音の出現で和真の唯一の友人である福井奏の様子もどこかおかしい。出生に複雑な事情を抱えていた和真の身に、さらに大手企業の後継者争いまで勃発してきて……。年下男から一途に愛される生まれ変わりラブ。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。
みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。
愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。
「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。
あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。
最後のエンドロールまで見た後に
「裏乙女ゲームを開始しますか?」
という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。
あ。俺3日寝てなかったんだ…
そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。
次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。
「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」
何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。
え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね?
これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる