【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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四十五

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「ところで」
「はい」

 そのまま、庭で剣の稽古を始めた若様と新入りの護衛たちを眺めている伊之助に、余四郎の護衛の山中正平が声を掛けてきた。もう長い付き合いの二人は、とても気安い仲となっている。伊之助にとっては、良庵や草庵と同じくらい側にいる、家族のような存在だった。正平がどう思っているのかは知らないが、伊之助にとってはそうだった。怪我をして動けなかった時に何度も抱き上げて運んでもらったことは、伊之助にとってとても大切な思い出だ。思う存分しがみつけた相手など、この人だけだったのだ。伊之助も、そして余四郎も。

「怪文書とやら、先生はなんと?」
「え?」
「良庵先生は何と仰っていましたか?」
「あ。ええっと。先生は最近忙しくて、まだ見せられてなくて。話だけ」

 朝ご飯を食べながら手短に話す間しかなく、届いた文の実物を伊之助はまだ、良庵に見せることができていなかった。

「そうなんですか。……見せてもらっても?」
「あ、はい。もちろん」

 訳が分からなくて気持ち悪かったが、捨てたりはしていない。まだ、良庵や草庵に見せていないから置いておかないといけない、という理由もあるがそれだけでなく、安易に捨てるなどしたら、それはそれで何か良くないことが起こりそうで怖かったのだ。耳元で嫌なことをささやかれる方が、相手の姿が見えているだけまだましだ、と伊之助は、置いてある文を目にするたびに思っていた。初めてもらった文が怪文書ってのもあんまりだなあ、とも。
 縁側から屋敷の中へとふみを取りに入る伊之助に、正平はひょいとついてきた。同じように伊之助についてきた小太郎の後ろには、時行の護衛の嗣治つぐはるがついてきている。

「山中殿⁈」
「土井殿⁈」

 手持無沙汰に庭の隅に立っていた余四郎と時行の小姓たちが驚いた声を上げたが、二人は素知らぬ顔だ。
 伊之助も驚いて護衛たちを見た。これまで、そんなことは無かったから。この二人が、二人ともに若様方の側を離れることなど、伊之助の知る限り一度もなかったのだ。

「どうしました?」
「いや。二人ともついてきたから」

 正直に言えば、ああ、と正平は頷く。

藤兵衛とうべえ左近さこんがいるので、大丈夫です」
「そ、そう……」
「はい」

 見れば、嗣治つぐはるも頷いている。
 この二人がそう言うならそうなんだろうと、伊之助は納得した。そのあたりは伊之助は、相変わらずである。

「お前たちの信頼篤い者を雇えて何よりだ」

 と、小太郎が笑うのを見て、なるほど、そういうことなのかと、また心の内で頷いた。
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