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五十八
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小太郎の元服は、有力家を招いて実に立派に、派手に行われた。招待された伊良と良庵、草庵は、自分たちが行った元服との違いに呆然と顔を見合わせた。
「先生。私、こんなとこ来ても良かったんですかね。これは、私みたいな名字無しが来ていいとこじゃないっすよ」
「草庵。名字は、私の青池を名乗ればよいと常から言っているだろう。御典医を勤める私が、大事な弟子に名字を渡したところで、生家から何も言われることは無い」
「いや、はあ、まあ、あの……。あり、がとうございます」
「うん、そんなことより、だ」
まるで、求婚みてえな台詞をさらりと……とか何とか呟きながら真っ赤になってしまった草庵に対して、良庵は首の後ろをすりすりとさすりながら、居心地悪げに肩をすくめた。
「私も、こんな立派な集まりに参加したことはないんだよ。参ったな」
「そうなんですか?」
「そりゃあそうだよ、伊良。私は、貧乏武家の三男なんだから。しかも、剣の腕はからっきしの、先の望めない三男坊だ。元服の儀だけは、それなりに形を整えてしてくれたのが、生家のせめてもの情けさ。とはいえ、その時にもらった名は、医者になる時に変えてしまったんだけれどね。……まあ、だから、伊良の元服がきちんとできているのかの自信はなかったんだが、これを見るに、その、うちのは少々、規模が小さかったかもしれない。その、同じく若様の許婚として考えるなら……」
すまない、と良庵に謝られて、伊良はとんでもない、と手を横に振る。
「先生は立派に整えてくださいました。あの日は、とんでもなく楽しかった。それに、宝物のような名も頂けて、嬉しかったです」
「そうか」
「はい」
あれは、伊良や良庵に丁度良い形であった。
これは、直井家の丁度良い形なのだろう。家の跡を継ぐことは無くなったとはいえ、小太郎は長男で、若様に望まれた、若様の許婚なのだから。
どうぞ、儀式の方へもお越しください、と言われて案内された先では、見事な正装に身を包んだ人々が居並んでいて気後れしてしまいそうであった。伊良は、なんとか背筋を伸ばして前を向く。隣では、良庵と草庵も同じようにきゅと口を引き結んで前を向いており、私たちは今、よく似ているかもしれない、と伊良は少し嬉しくなった。
「直井家は、ずいぶんと派手にやったな」
「ああ。長男とはいえ、跡継ぎで無い小太郎殿にこの規模とは……」
ひそひそと交わされる声から察するに、やはり、かなり大規模なものであるのは間違いないようだ。
「飯原家とはえらい違いだな」
聞こえてきた家名に、伊之助は思わず耳をそばだてる。
「ああ。お主も聞いたか」
「そりゃあ、まあ」
「耳を塞いでいても聞こえてくると言うものだ」
詳しいことは何もわからず、くくっと笑いあって会話は途切れてしまった。まあ、もう戻る気もない家のことだ。伊良は、どうでもよいような、まだその家名を名乗っている以上、気にしていなくてはいけないような、複雑な気持ちであった。
やがて、時行と余四郎がやってきてひそひそ声はすっかり途切れたのだが、手を振り合った伊良と余四郎を見て、ほんの少しだけ、ざわりとした。
「先生。私、こんなとこ来ても良かったんですかね。これは、私みたいな名字無しが来ていいとこじゃないっすよ」
「草庵。名字は、私の青池を名乗ればよいと常から言っているだろう。御典医を勤める私が、大事な弟子に名字を渡したところで、生家から何も言われることは無い」
「いや、はあ、まあ、あの……。あり、がとうございます」
「うん、そんなことより、だ」
まるで、求婚みてえな台詞をさらりと……とか何とか呟きながら真っ赤になってしまった草庵に対して、良庵は首の後ろをすりすりとさすりながら、居心地悪げに肩をすくめた。
「私も、こんな立派な集まりに参加したことはないんだよ。参ったな」
「そうなんですか?」
「そりゃあそうだよ、伊良。私は、貧乏武家の三男なんだから。しかも、剣の腕はからっきしの、先の望めない三男坊だ。元服の儀だけは、それなりに形を整えてしてくれたのが、生家のせめてもの情けさ。とはいえ、その時にもらった名は、医者になる時に変えてしまったんだけれどね。……まあ、だから、伊良の元服がきちんとできているのかの自信はなかったんだが、これを見るに、その、うちのは少々、規模が小さかったかもしれない。その、同じく若様の許婚として考えるなら……」
すまない、と良庵に謝られて、伊良はとんでもない、と手を横に振る。
「先生は立派に整えてくださいました。あの日は、とんでもなく楽しかった。それに、宝物のような名も頂けて、嬉しかったです」
「そうか」
「はい」
あれは、伊良や良庵に丁度良い形であった。
これは、直井家の丁度良い形なのだろう。家の跡を継ぐことは無くなったとはいえ、小太郎は長男で、若様に望まれた、若様の許婚なのだから。
どうぞ、儀式の方へもお越しください、と言われて案内された先では、見事な正装に身を包んだ人々が居並んでいて気後れしてしまいそうであった。伊良は、なんとか背筋を伸ばして前を向く。隣では、良庵と草庵も同じようにきゅと口を引き結んで前を向いており、私たちは今、よく似ているかもしれない、と伊良は少し嬉しくなった。
「直井家は、ずいぶんと派手にやったな」
「ああ。長男とはいえ、跡継ぎで無い小太郎殿にこの規模とは……」
ひそひそと交わされる声から察するに、やはり、かなり大規模なものであるのは間違いないようだ。
「飯原家とはえらい違いだな」
聞こえてきた家名に、伊之助は思わず耳をそばだてる。
「ああ。お主も聞いたか」
「そりゃあ、まあ」
「耳を塞いでいても聞こえてくると言うものだ」
詳しいことは何もわからず、くくっと笑いあって会話は途切れてしまった。まあ、もう戻る気もない家のことだ。伊良は、どうでもよいような、まだその家名を名乗っている以上、気にしていなくてはいけないような、複雑な気持ちであった。
やがて、時行と余四郎がやってきてひそひそ声はすっかり途切れたのだが、手を振り合った伊良と余四郎を見て、ほんの少しだけ、ざわりとした。
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