【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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百四十九

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 はたして弥助の言葉通りに、流すまでもなく噂は町に広がっていた。
 町の者達を侮ってはいけない。たみさんのような顔の広い話好きが、たくさんたくさん暮らしているのである。常とは違う動きをしている者がいれば、口の端に上らないわけがないのだ。例えその対象が、偉いお武家様であってもその辺の町の者であっても変わりはしない。領地で一番偉いお殿様のことだって、噂するのは自由なのである。いつどこでどうやって知ったものやら、まことしやかな話がどこでもかしこでも囁かれているのだ。
 噂を聞きつけた商人たちが、相馬の屋敷の御用を渋るようになるのはすぐであった。商人たちとて、ものが売れればそれで良い、と考えているわけではない。売掛での商売なれば尚更だ。後々、お代が回収できなければ商売あがったり。良くない噂が流れれば真偽を確かめに動くのは当然の事だった。そうして、調べを進め始めたところに、伊良がたみさんに語った話が届く。当事者の語る話に少々尾ひれ付いたとて、信ぴょう性に欠けるものとはならなかった。これはいけないと、商人たちが相馬家から離れていくのは当然の帰結。
 だが、商人たちは髪結い達と違って、商売道具を手に雲隠れするわけにいかなかったため、騒動になった。
 相馬の雇った浪人たちが、なぜ呼び出しに応じないのか、と脅し交じりに店まで押しかけてきたらしい。これはいけない。
 話を聞いた行成は、ここが出番と手勢を引き連れ、取り押さえに出かけた。
 雇われの浪人たちは大慌てである。
 まさか、先代藩主の伴侶が自ら足を運んでくるとは……!
 麗しの行成が容赦なく行う捕物に、町の者はやんやの喝采を送った。
 
「相馬さまに頼まれ、呼んでも屋敷へ来ない商人たちを呼びに来たにすぎぬ」
「なるほど。しかし商売人たちにも客を選ぶ権利がある。無理強いは良くないね?」

 少々頭に血が上りやすくなっている行成だけを行かせるのが不安であった伊良は、自分の策の行き方を確かめたいと付いてきて、取り押さえた浪人たちの言い分を聞いた。

「武家の御用を断るなど無礼千万……」

 更に口を開こうとする浪人の首筋に、捕り物の際には抜かれなかった刀の刃がひたりと当たる。当然、伊良に付いてきていた藤兵衛の低い声が響いた。

「無礼を語るなら、まずは礼儀を弁えよ」
「……っ、は?」
「これにおわすは当代藩主のご伴侶、伊良さまにあらせられる。頭が高い」
「え? は?」

 いや、まあ、分からなくとも無理はない。伊良は行成ほど麗しい相貌をしているわけでも、良時や時行のように男らしく整った相貌をしているわけでもないし、三人のように武勇に優れているわけでもない。鍛えても、あまり硬くも大きくもならなかった体は、ひょろりとして頼りないものだ。その上、藩の財政的な問題を少しでも解決するために上等な着物を身に付けるのをやめたので、なんというか、その……城勤めの下級役人のように見えていたのではないか。……自分で自分の姿は見えないので、想像でしかないのだが。
 行成や他の者も刀に手を掛けたたためか、捕らえられた浪人たちは慌てて頭を下げた。

「商売ってのは信用も大事だ。商人たちにそっぽを向かれたって事は、相馬は信用を無くしたんだろう。こうして暴力に訴えていては信用を無くすばかりだ。また信頼を築けるような行動をとらなくてはいけない、と伝えておいてくれ」
 
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