人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

49 緋色 25

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「止まらないんだ、帝国各地の暴動が」

 それがどうした、と言ってしまいたい。もう、俺のことは利胤としたねと同じ扱いにしてもらいたいものだ。つまり、引退した軍人。俺は疲れてる。結局、皇族に戻されてるし、戦後処理は細々といつまでも終わらない。だいたいこの間の戦争だって赤虎せきとらが行く筈だっただろう?
 俺がむっつりと返事をしないでいると、朱実あけみは困ったように目を伏せた。

「他に、任せられる者がいなくて。ごめん」

 前回、俺が連れていった部隊が帰国した。精神的な観点から、皇国では戦場に送る部隊は一年以内に帰れるようにしなければならないと定められている。交代制だ。しばらく、のんびり休んで日常を取り戻してもらいたい。そして、俺もその休暇中の筈だ。
 
「今度こそ赤虎せきとらを出せよ」
「無理。絶対に無理。あれ、本当に使えない」

 とはいえ、どうするつもりなんだ? 暴動を頭ごなしに押さえても無駄だとの報告は出した筈。
 ただ腕を組んで睨んでいると、うん、と頷く。

「ピアスで操られている可能性があるとの報告は読んだ。外せば、暴動は押さえられるかもしれないんだよね?」

 心が読める人なのかなー。俺、何も言ってないけどね。

「部隊を送るのではなく、個人に声をかけてピアスを外すのが最善なんだ。後は、指令者を特定できればいいんだが……」

 朱実あけみの考えていることが分かって、俺は殺気を撒き散らす。

「そんな怖い顔をしないでくれ。私はお前が好きなんだ。殺気を向けられると悲しくなるだろ」
「はっ、ははは」

 口だけで笑ってやる。冗談じゃねえぞ。指令者特定に成人なるひとを使おうとしてやがるだろ。

「まあ、話を聞いてくれ」

 そう言って使用人の控え室の扉を開く。珍しく朱実の執務室に他に人がいないと思ったら、そこに隠してたのか。
 出てきたのは、帰国したばかりの部隊長だった。

緋色ひいろ殿下。お久しぶりです。ただいま、戻りました」

 部隊長は俺の殺気にも怯まずに、きれいな敬礼をする。仕方なく、殺気は押さえこんだ。

「あー、ご苦労様。その、悪かったな。後処理、丸投げして」

 置いて帰ったので、少しばつが悪い。

「いえ。その後の指示もしっかり頂いていましたので、大丈夫です」

 有能な壮年の軍人は、爽やかに笑う。

「落ち着かれたようで、安心致しました」

 あちらを立ち去る頃は、成人なるひとがなかなか目を覚まさずに焦っていたから、かなり心配をかけていたのだろう。

「……心配をかけて悪かった」
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