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第二章 人として生きる
50 緋色 26
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いえ、と言って部隊長、三雲作治は勧められたソファに腰を下ろす。
「あの子は、元気ですか?」
柔らかい笑顔のまま尋ねられて驚いた。あそこにいた者は皆、戦闘人形を恐れていると思っていた。または、知り合いが殺されて恨んでいるのでは、と。
「ああ」
戸惑いつつ答えると、安堵したような顔をされて、更に困惑した。
「子どもがあんなところで死ぬのは、嫌ですからねえ。大人も死んでは駄目ですけど」
そうか。子ども。皇国では軍人でも、成人してからしか戦場に出すことはないから子どもにしか見えない戦闘人形は余計に目立ったのだと思い至る。成人は、大きいくらいだった。生き残った優秀な戦闘人形。
「幸せに暮らしてるよ」
飴を舐めている成人の顔が思い浮かんで思わず頬を緩めながら答えていた。
「それは、何より」
「お前が嫌でないなら、会いに来るといい。人見知りはしない性質だ」
「え? 私のことをすごく警戒していたけれど?」
「本性を見抜くからな。腹黒は駄目なんだろう」
「なら、緋色に懐くわけがないじゃないか」
「ふふ」
三雲の笑い声に言い合いをやめると、失礼、と三雲が居ずまいを正した。
「仲がよろしくていらっしゃる」
「そうだろう?」
「いや、そうでもない」
二人の声が重なって、また三雲が笑った。
「さて、近況ですが」
「ああ」
「最終戦近隣の村は幾つか回り、復興の手助けと同時にピアスの回収を致しました。外さないものには罰則を課す、との脅しで何とか。無理やり外させる形になってしまい、反発はあるのですが。操られてとはいえ、暴れられては、こちらも撃つしかなくなってしまうので、不本意ながら脅し取りました」
「当面、それしか無いだろうな。指令者が特定できないなら、見えている受信機を外すしかあるまい」
「ええ」
「でも、それでは途方もない時間がかかる。指令者を特定できるならして、確実に消していきたいんだ」
朱実の言葉はもっともだ。指令者を消すのが重要。だが、特定できる方法に問題がある。
「成人の脳に、負担が大きすぎる。絶対に嫌だね」
「受信を妨害する装置を開発させている。それが上手くいったら考えてくれ」
「……」
ふいっと横を向いた。あいつの寿命を縮めるような真似をする奴を、俺は決して許さない。
「緋色。私は、生粋の皇族だ。一人の命で十人救えるなら、一人の犠牲を出すことに躊躇いはない。例えその一人が家族であっても。けれど、今回は猶予がある。お前に嫌われたくもない。あの子になるべく危険がないように、考える。だから、お前も考えておいてくれ」
立ち上がった朱実に頭を下げられ、俺はつくづく皇族に向いていないとため息をついた。
「あの子は、元気ですか?」
柔らかい笑顔のまま尋ねられて驚いた。あそこにいた者は皆、戦闘人形を恐れていると思っていた。または、知り合いが殺されて恨んでいるのでは、と。
「ああ」
戸惑いつつ答えると、安堵したような顔をされて、更に困惑した。
「子どもがあんなところで死ぬのは、嫌ですからねえ。大人も死んでは駄目ですけど」
そうか。子ども。皇国では軍人でも、成人してからしか戦場に出すことはないから子どもにしか見えない戦闘人形は余計に目立ったのだと思い至る。成人は、大きいくらいだった。生き残った優秀な戦闘人形。
「幸せに暮らしてるよ」
飴を舐めている成人の顔が思い浮かんで思わず頬を緩めながら答えていた。
「それは、何より」
「お前が嫌でないなら、会いに来るといい。人見知りはしない性質だ」
「え? 私のことをすごく警戒していたけれど?」
「本性を見抜くからな。腹黒は駄目なんだろう」
「なら、緋色に懐くわけがないじゃないか」
「ふふ」
三雲の笑い声に言い合いをやめると、失礼、と三雲が居ずまいを正した。
「仲がよろしくていらっしゃる」
「そうだろう?」
「いや、そうでもない」
二人の声が重なって、また三雲が笑った。
「さて、近況ですが」
「ああ」
「最終戦近隣の村は幾つか回り、復興の手助けと同時にピアスの回収を致しました。外さないものには罰則を課す、との脅しで何とか。無理やり外させる形になってしまい、反発はあるのですが。操られてとはいえ、暴れられては、こちらも撃つしかなくなってしまうので、不本意ながら脅し取りました」
「当面、それしか無いだろうな。指令者が特定できないなら、見えている受信機を外すしかあるまい」
「ええ」
「でも、それでは途方もない時間がかかる。指令者を特定できるならして、確実に消していきたいんだ」
朱実の言葉はもっともだ。指令者を消すのが重要。だが、特定できる方法に問題がある。
「成人の脳に、負担が大きすぎる。絶対に嫌だね」
「受信を妨害する装置を開発させている。それが上手くいったら考えてくれ」
「……」
ふいっと横を向いた。あいつの寿命を縮めるような真似をする奴を、俺は決して許さない。
「緋色。私は、生粋の皇族だ。一人の命で十人救えるなら、一人の犠牲を出すことに躊躇いはない。例えその一人が家族であっても。けれど、今回は猶予がある。お前に嫌われたくもない。あの子になるべく危険がないように、考える。だから、お前も考えておいてくれ」
立ち上がった朱実に頭を下げられ、俺はつくづく皇族に向いていないとため息をついた。
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