人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

74 緋色 38

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「起きたか?」

 昼食後に朱実あけみに呼ばれたので成人なるひとを置いていってしまった。今日は特に離れたくない日だった筈だから心配だ。抱いて行きたかったが生松いくまつに止められた。
 ベッドに小さな布団の盛り上がりが見える。

「一度起きたのですが、殿下がいないと怒ってしまって。」
「ご飯は?」

 生松いくまつは首を横に振った。

「ミックスジュースも飲めるものではなかったようです。」
「だから、抱いて行くと言ったのに。」
「体が休まりませんからね。」
「今は怪我も熱も無いだろう?」

 生松いくまつはまた、首を横に振った。

成人なるひとのこの体で、何故あれだけの動きができるのか、力が出るのかを考えていました。私の予想は、忍部しのぶべ博士の研究と一致します。こんな体の使い方をしていては長くは持ちません。」
「分かりやすく言え。」
「火事場の馬鹿力です。人が窮地に陥った時に、一生に一度使うかどうかの、自分の限界を遥かに超える力を出すあれを、常に使えるように脳に誤作動を起こさせているのです。そんなことをしたら、体も悲鳴を上げてストッパーがかかるのですが、体の方のストッパーも薬やらで外してしまっている。戦闘人形ドールが子どもなのは、小さいうちほど脳の誤作動を誘導しやすく、体のつくりも変えやすいからでしょう。力を発揮できる間に戦争で役立てばよいので、長持ちするようにはできていない。成人なるひとの体は劣化が始まっています。」
「……なん、だと。」
「ベッドに縛りつけたい訳じゃない。楽しく過ごして欲しい。無茶な動きをさせずに、栄養をしっかり取らせて、一日でも長く生きられるように……します、から。」
 
 声は段々と震えて小さくなっていく。ぐ、と唾を飲み込むと決意したように、生松いくまつはもう一度口を開いた。

「私の、言うことを聞いてください。」

 俺は半ば呆然としていた。一日でも、だと?単位が短すぎないか。一年でも、の間違いじゃないのか。

「戦闘に参加するのは絶対に禁止です。力丸りきまるさまと体を使って遊ぶのも、体調の良い時、週に一度が限度。」
「……必ず、守る。」

 成人なるひとが頭まで被っている布団をそっとめくる。右目の下に涙の痕が見えた。

「……だが、連れていく。」
「殿下。」
「絶対に戦闘には参加させない。約束する。」
「……はい。」
力丸りきまるが学校から帰り次第、出る。それまで点滴でも打っておいてくれ。」
「分かりました。」

 成人なるひとの頭をそっと撫でて、二条家へ殴り込む準備のために、一旦部屋を出た。
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