【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
123 / 1,325
第三章 幸せの行方

24 赤璃 8

しおりを挟む
 緋椀ひまりが息を飲んだ。とても驚いた顔をして私を見ている。弟には伝わったらしい。
 初花ういかには伝わらなかったようだ。

「そんな、簡単な話なわけ、ないわ」
「簡単な話よ。分からなければ、それでいい」
「無礼者。七条ごときがでしゃばって。わたくしが結婚して差し上げなければ、殿下のお相手はもう、いらっしゃらないわ」

 成人なるひとを紹介してもらえたのは、温情であることも理解していないのか、と溜め息をつきそうになった。
 ずるずると力丸が、飛ばした護衛を引き摺ってくる。一ノ瀬いちのせ荘重むらしげも、残りの一人を回収してまとめて置いてくれた。

赤虎せきとらさまの臣籍降下の理由をご存知?」
「重要な研究所を爆破されたのでしょう?恐ろしいわ」
「それは緋色ひいろ殿下の仕業ね。確かに恐ろしい方だわ」
「え……?」
「臣籍降下の理由は、緋色ひいろ殿下の伴侶を拐って研究所で実験動物モルモットにしようとした挙げ句、足を銃で撃って傷付けたからよ。研究所が壊されたのは、救出行動の過程。だから、研究所を壊したのは緋色ひいろ殿下」

 これで、理解してくれたかしら? それとも、これを聞いても分からない?

「赤虎さまは、緋色ひいろ殿下を怒らせたから皇家から出された。皇家は、緋色殿下の方を重要と思っているということですわね。わたくしの見る目は間違っていなかった……。父に褒めてもらえるわ」

 永久に分かり合えない何かが、私たちの間にはあるようだ。

「殿下の伴侶を害したから、臣籍降下された、と言ったのよ。皇家は、あの子を殿下の伴侶と認めている、ということを理解してお帰りなさい」

 ようやくゆるゆると、初花ういかの顔に驚愕の色が浮かび上がる。
 城の敷地内を移動する、警備車両が到着した音がした。

赤璃あかりさま、緋椀ひまりさま、怪我人を運ぶために参りました」

 警備隊の服を着た者が、敬礼して挨拶をする。

「ご苦労様。手間を掛けてごめんなさいね」
「いえ。いつでもお呼びください」

 きびきびと、動けない護衛三人を車に乗せていく。

「生きてるわよね?」
「殺しませんよ!」

 私の思わず出た呟きに、力丸の声が返ってきた。やっぱり、あなたがやったわね。見えなかったけど。

「三条さま。ご一緒にお帰りになった方がよろしいのでは?」

 珍しく緋椀ひまりが口を開いた。
 ぐ、と躊躇する初花ういかに、父によく似た美貌を冷たく研ぎ澄まして告げる。

緋椀ひまりの名において、命じます。二度とこのぐうに近寄ること、相成りません」
「な、な、何を!」

 たたみかけておこう。

赤璃あかりの名において、命じます。二度と緋色ひいろ殿下とその伴侶に近寄ること、相成りません」
「尊き御名によるご命令、確かに承りました。では、三条さま、参りましょう」

 警備の者が一つ頷いて答え、感情のもって行き場が無くて混乱したままの三条初花ういかを連れて帰っていった。
しおりを挟む
感想 2,496

あなたにおすすめの小説

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...