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第三章 幸せの行方
32 緋色 44
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「失礼致します。殿下、常陸丸殿。」
あまりに突然、俺と成人の間に人が現れたので、いつも銃を下げている腰の辺りを無意識に探る。まだ部屋着だったので、そこに銃は無く、俺の背を冷たい汗が流れた。
常陸丸の殺気がぶわりと膨らんで、すぐに消えた。驚きすぎて、攻撃体勢に入っていたのだろう。
現れた人影は、当代最強と言われる者の殺気を受けて微塵も動じず、成人を上手く支えて扉をノックした。
機嫌を直した成人が、支えてもらって歩いていく。いや、本当は、ほとんど支えに頼って本人は歩けていないのだが、本人にも周りにも分かりにくいように支えているのだ。
「一ノ瀬ね……。」
朱実配下の隠密集団。何故か楽しく、この離宮で働いてやがる。便利だし、朱実が信頼しているなら大丈夫だろうと放っておいたが、恐ろしい奴らのようだな。そして、成人が懐きすぎじゃないか……。
とりあえず成人に続いて斎の部屋へと入る。
常陸丸も首の後ろを撫でながら、まだ警戒を解いていない様子で付いてきた。
「斎。ご飯、食べた?」
成人がベッドに上半身を寝かせて、寝たままの斎に話しかけている。
「成人。また来てくれたのですか。」
斎が怠そうに目を開けて答えた。痩せて、顔色も悪い。成人より先に手術を終えて、成功していると聞いていたのだが。
「ご飯食べた?」
「あまり、食欲が無くて。」
「氷あげようと思ったんだけど。」
「氷?」
「美味しいから。」
「氷、ですか?」
「美味しいでしょ?」
「冷たい氷、ですね?」
「うん。緋色がくれなくて。」
「そう……。」
氷は、成人にはご馳走だが、斎には何のことかよく分かるまい。
「飴もね、溶けてて。」
「成人は、飴が好きですね。」
「一個隠してたの。」
「飴を?」
「うん。緋色が食べたら駄目だって、捨てちゃった。」
「それは、残念でしたね。」
「うん……。斎にあげようと思って。無くて……。ごめんね?」
「飴を、私に?」
「うん。」
「成人の大切な宝物でしょう?」
「斎が元気ないから。」
斎は深く笑んで成人を見た。布団の中からすっかり細くなった手が出てきて、成人の頭を撫でる。
ああ、そうか。成人にとって飴は宝物だった。ご飯が入らなくなるからあまり貰えていないし、好きすぎて、貰ったら直ぐに食べているとばかり思っていた。食べるのを我慢して取っておいた大事な飴だったのだろう。
捨ててしまって悪かったな。代わりを渡してからにすれば良かった、と後悔した。
あまりに突然、俺と成人の間に人が現れたので、いつも銃を下げている腰の辺りを無意識に探る。まだ部屋着だったので、そこに銃は無く、俺の背を冷たい汗が流れた。
常陸丸の殺気がぶわりと膨らんで、すぐに消えた。驚きすぎて、攻撃体勢に入っていたのだろう。
現れた人影は、当代最強と言われる者の殺気を受けて微塵も動じず、成人を上手く支えて扉をノックした。
機嫌を直した成人が、支えてもらって歩いていく。いや、本当は、ほとんど支えに頼って本人は歩けていないのだが、本人にも周りにも分かりにくいように支えているのだ。
「一ノ瀬ね……。」
朱実配下の隠密集団。何故か楽しく、この離宮で働いてやがる。便利だし、朱実が信頼しているなら大丈夫だろうと放っておいたが、恐ろしい奴らのようだな。そして、成人が懐きすぎじゃないか……。
とりあえず成人に続いて斎の部屋へと入る。
常陸丸も首の後ろを撫でながら、まだ警戒を解いていない様子で付いてきた。
「斎。ご飯、食べた?」
成人がベッドに上半身を寝かせて、寝たままの斎に話しかけている。
「成人。また来てくれたのですか。」
斎が怠そうに目を開けて答えた。痩せて、顔色も悪い。成人より先に手術を終えて、成功していると聞いていたのだが。
「ご飯食べた?」
「あまり、食欲が無くて。」
「氷あげようと思ったんだけど。」
「氷?」
「美味しいから。」
「氷、ですか?」
「美味しいでしょ?」
「冷たい氷、ですね?」
「うん。緋色がくれなくて。」
「そう……。」
氷は、成人にはご馳走だが、斎には何のことかよく分かるまい。
「飴もね、溶けてて。」
「成人は、飴が好きですね。」
「一個隠してたの。」
「飴を?」
「うん。緋色が食べたら駄目だって、捨てちゃった。」
「それは、残念でしたね。」
「うん……。斎にあげようと思って。無くて……。ごめんね?」
「飴を、私に?」
「うん。」
「成人の大切な宝物でしょう?」
「斎が元気ないから。」
斎は深く笑んで成人を見た。布団の中からすっかり細くなった手が出てきて、成人の頭を撫でる。
ああ、そうか。成人にとって飴は宝物だった。ご飯が入らなくなるからあまり貰えていないし、好きすぎて、貰ったら直ぐに食べているとばかり思っていた。食べるのを我慢して取っておいた大事な飴だったのだろう。
捨ててしまって悪かったな。代わりを渡してからにすれば良かった、と後悔した。
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