【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
174 / 1,325
第三章 幸せの行方

75 赤璃 10

「と、いうわけです。」

 私の報告に、朱実あけみが頭を抱える。特に人払いもしていなかった執務室で、一人の文官を呼んだ。

「急いで駄菓子屋と雑貨屋を一軒ずつ買い上げてくれ。もう店を閉めようかと考えている所や、経営が傾きかけている所を調べて、私の持ち物にしてほしい。二軒の場所は近い方が良い。頼む。」

 文官は、余計なことは何も言わず、頭を下げて出ていく。同じ部屋にいたし、声も落としていなかったから、だいたいの話は聞こえていたのだろう。

「そうなりますよね……。」
「当たり前だろう。ついでに、緋色ひいろ常陸丸ひたちまるが行かない訳がない。どれだけ目立つと思うんだ?力丸りきまる成人なるひとだけならまだしも。いや、成人なるひとは駄目だな。どうしても人目を惹く。もともと整いすぎた顔に傷があることで余計に人目を惹くんだよ、あれは。もう少し無表情なうちはまだ、それほどでは無かったけれど、今は、少し感情がおもてに出るだろう?」
「ええ…。可愛いですよ。動くことに慣れていない表情筋が少しずつ解れて笑う様子は。拗ねたりするのは、緋色ひいろ殿下と力丸りきまるにしかしませんけれど。」
「はあ…。眼帯をつけさせてもまた、それが目立つんだろうな。左手が無いことも隠せないしなあ。」

 どうせ、なるだけで出掛けるなんてあり得ないのだから、もっと目立つ人がいつも隣にいるんでしょうに。
 緋色ひいろ殿下の整った顔を思い浮かべて苦笑いする。

「どうした?」
「いえ。その駄菓子屋と雑貨屋から儲けが出たら、万々歳ですね。」
「私は、商人までするのか?王様業で精一杯だというのに。」
 
 くふふっと笑ってしまった私に、柔らかい笑みが返される。

「そろそろ、間諜の真似事は終わりだな。」 

 ん?と首を傾げると、立ち上がって執務机の前に回ってきた。柔らかく抱きしめられて、体を預ける。

「結婚式をするよ。頃合いだ。戦争は終わった。」

 間諜の真似事は、趣味でもあったけれど。
 私は、微かに頷く。

「最近は、良い報せが多くて嬉しいね。」

 独り言のように漏れた言葉。
 母上が、お出掛けになりたいとおっしゃった……。

 少しずつ、少しずつ、色んな物事が動き始めている。きっと、よい方へ。
感想 2,503

あなたにおすすめの小説

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 表紙は、Pexelsさまより、Lorena Martínezさまによる写真をお借りしました。ありがとうございます!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....