人形と皇子

かずえ

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こぼれ話

お宿の料理  成人

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 お風呂から上がって、浴衣を着せてもらった。夏祭りの時に皆が着てるやつ。俺はいつも甚平だから、初めて着た。ズボンが無いんだね。気を付けて動かないとすぐに脱げてしまいそう。薄いピンク色に薄い黄色の線で模様があって綺麗だった。
 緋色ひいろのは紺色で格好いい。こちらも、不規則に縦横の金色の線が模様になっている。緋色ひいろは何を着ても似合うねえ。
 見惚れていたら、同じく浴衣姿の乙羽おとわ常陸丸ひたちまるが俺たちの部屋へ来た。
 二人もお風呂上がりで、なんだかほこほこしてる。

「きれいね。」

 乙羽おとわは、長い髪をゆるくまとめて、俺と同じ薄いピンク色の浴衣で、とても綺麗だった。

「なるも似合うよ。大人っぽくなった。」

 にこにこの乙羽おとわに言われて嬉しくなる。そお?大人っぽい?
 常陸丸ひたちまるも、格好いい。緋色ひいろと同じ浴衣なのに、筋肉のつき具合で着た印象が違う。強そう。いや、強いんだった。
 もちろん、緋色ひいろが一番格好いいけどね。

「お外にお風呂あった?」
「え?お外にお風呂があるの?」
「うん、こっち。」

 がらがらと戸を開けて見せると、乙羽おとわがびっくりしてた。

「うわー、すごい。湯気がすごい。気持ち良さそうねえ。」
「気持ちいかった。」
「うちの部屋は、中にお風呂があってね。ひのきでできた湯舟がいい匂いだったよ。」
「いいねえ。」

 そんなことを話していると、部屋に人が入ってきて机を置いた。その上に、食べ物が続々と運ばれてくる。
 お刺身とか、小さな鍋の中にお肉と豆腐と葱が入ってるものとか、茶碗蒸しとか、少しずつ煮物が入った小鉢とか。いっぱい!全部二つずつ並んでいった。
 俺と緋色ひいろが並んで座布団に座って、乙羽おとわ常陸丸ひたちまるが向かい側に並んで座る。
 小さな鍋の下のろうそくみたいな物に火が点けられた。ぐつぐつと鍋の中が熱くなる。
 あんまり熱いと食べられない……。

「豆腐、取ってもいい?」
「煮えて味が染みた方が美味しいから、火が消えてから。」
「熱くなるよ。」
「また冷まして食べるんだよ。」
「えー。」
「のんびり食べたらいい。後は寝るだけだし。」
「私、茶碗蒸し食べたい。」

 乙羽おとわが茶碗蒸しを引き寄せた。
 常陸丸ひたちまるが、他には何がいる?って聞いている。

「俺も茶碗蒸し。」
「おう。ふたを開けて冷ましておけ。中に具が色々入ってるから、食べられない物は置いとけよ。帆立の刺身もあるぞ。」
「帆立の刺身。食べる。」
「これは?まぐろの山かけ。とろろ好きだろ?」
「食べるー。」

 ご馳走がありすぎて、大変。こんなにいっぱい食べられるのかな。

「茶碗蒸しだけでも、あと二つお持ちしましょうか?」

 料理を並べていた着物の女の人が緋色ひいろに尋ねている。

「いや、気にするな。全部二人前でいい。」
「かしこまりました。」

 火が消えてから、大急ぎで鍋から出した豆腐は、ふーふーして、卵につけて食べた。肉も少しちぎって食べてみたら、やわらかくて食べれた。これ、好き。

「すき焼き、美味しいか。」

 うん。
 すごく美味しいから緋色ひいろも食べて。
 はい、あーん。
 お箸で肉を持って緋色ひいろの口に入れると、美味しいなって言ってくれた。
 その後にまた、焼いた魚とか、炊き込みご飯とお味噌汁とか、何日分なんだーってくらい食べ物が出てきた。最後はプリン!プリンの頃にはとんでもなく満腹だったけど、半分は食べれた。

「私、三日分は食べたわ。人間ってこんなに食べれるのね……。」

 乙羽おとわの呟きにうんうんと首を縦に振る。
 俺たち、だいぶ大きくなったんじゃない?
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