【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
204 / 1,325
こぼれ話

真っ直ぐな気持ち  緋椀

しおりを挟む
 こんこん、と扉がノックされる。はい、と作治さくじさんが返事をしながら開けにいくと、緋色ひいろ殿下が立っていた。

成人なるひと、いるか。」
「はーい。」

 中に入りながら殿下が言うと、成人なるひとが返事をする。

「今日は昼寝しろ。」
「えー。今から雫石しずくさんと父さまにまんじゅう渡しに行く。」
「明日か、昼寝の後にしろ。」
「眠くない。」
「いいや、駄目だ。まだ休みをもらっているから一緒にいてやる。」

 殿下はそう言いながら、ひょいと成人なるひとをソファから抱き上げた。口では、眠くないと言いながら、成人なるひとは簡単に殿下の腕の中に収まる。

「あ、話は終わったか?」

 殿下も相変わらずだな。

「まだー。」

 殿下は成人なるひとを抱いたままソファに座った。

「何の話?」
成人なるひとくんが、俺たちに新婚旅行を勧めてくれていたのですよ。」
「はは。斑鹿乃むらかのも言ってたな。今度の広末ひろすえの休みの日に、とりあえず動物園に行くそうだ。皆に勧めるほど楽しかったか、成人なるひと。」

 成人なるひとは、うんうんと頷いている。

「行ってきたらいいぞ、温泉。俺の休みが終わってから交代な。」

 殿下の言葉に、作治さくじさんが笑みを深めた。

「お外のお風呂は、いいよー。」
「おや、露天風呂?部屋に?」
「高いぞ。」

 殿下がにやりと笑う。

「ちょっと頑張ってみますか。」
「大人の余裕だなー。」

 この二人は、何だかんだ仲が良い。もしかしてあっという間に……。

「温泉行こうか、緋椀ひまり。」
「………はい?」
「楽しみだなー。」

 温泉旅行が決定してる?

「だから、俺は新婚じゃない。」
「新婚って何?」
「え?知らずに勧めてたの?」
「結婚したての人のことだよ。」
「結婚してる人が行く旅行じゃないの?したてじゃないとダメ?」
「いいや。」

 殿下は楽しそうに笑って、首を捻っている成人なるひとの頬にキスをする。ひゃ、と嬉しそうな顔をした成人なるひとが振り返って殿下の口に口を押し付けた。
 まともに見てしまって、俺が照れる。二人はただ、機嫌良くそこにいるだけなのに。
 殿下がこちらを見て、にやぁと笑った。どことなく姉上に似たその笑いは、嫌な予感しかしない。

「真っ赤だな。」
「なんでー?」
「そういうことは、人前でしないものなんだよ。」
緋椀ひまりはどこでするの?」
「どこって、そりゃ、部屋とか人の見てないとこで……。」
「するんだな。」

 しまった。

「あ、いや……。」
「ちゅーは気持ちいいよねえ。」

 もう俺は顔を手で覆ってうつむくしかできない。乙羽おとわさん、殿下と成人なるひとを止めに来てくれ。

「楽しみだな、露天風呂。」

 いつの間にか作治さくじさんに肩を抱かれていたことに気付いたのは、殿下と成人なるひとが部屋から出ていってからだった。
 
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

若頭の溺愛は、今日も平常運転です

なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編! 過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。 ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。 だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。 ……俺も、ちゃんと応えたい。 笑って泣けて、めいっぱい甘い! 騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー! ※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜

なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」 男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。 ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。 冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。 しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。 「俺、後悔しないようにしてんだ」 その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。 笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。 一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。 青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。 本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。

処理中です...