人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

23 初めての願い  壱臣

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 ずっと。
 人になるべく迷惑をかけへんように、とだけ思って生きてきた。色んな人が、うちのために酷い目にうてるんをたくさん見てきたから。
 うち一人を生かすために何人もの人が死ぬんやったら、うちが早う死んだ方がええんちゃうか、と思ったことは何回もある。
 それでも、生きろと言うてくれた人のために何とか生きてきた。生きろと言うてくれた誰かのためやった。
 最後まで側にいてくれた半助はんすけを置いてきたのは、半助はんすけを生かすため。うちを狙てるんなら、離れたら半助はんすけから敵の目は逸らされるやろ、と。
 ほんまは、あんな大怪我をした半助はんすけから離れたくなかった。うちの所為で失くした利き腕の、うちのために世話を焼いて護ってくれた大事な右腕の代わりに、今度はうちが世話を焼いてあげたかった。
 よう考えたらうちが死んだらすむ話やったのに、何でこんなに頑張って一人で歩いてきたのか。半助はんすけから離れようとしたのか。
 うちはあほや。
 死んだら半助はんすけが悲しむから。やから頑張ったんや。半助はんすけに生きて欲しいから頑張ったんや。
 半助はんすけに話したいことがようけある。一人で店を開いたこと。全然あかんかったこと。
 うちのことが必要やと言うてくれた人がいること。
 雇い主は、恐くて強くて、でも優しいこと。
 そういえば離宮ここの人たちは誰も、うちのことを九鬼くきの壱と言わへんかった。朱実あけみ殿下にそう扱われるまで、すっかり忘れていたほどに。
 半助はんすけも。   
 おみと。そう呼んで……。
 九鬼くきの壱やから護ってくれてた訳やないと、自惚れてもええんやろか。

「役に立たへんからもうええなんて、半助はんすけもあほや。」

 一人で座り込んでいた客間のソファから立ち上がる。
 成人なるひと君の注文の雑炊は、うちが作ろう。そして、病院に持って行こう。
 役に立つとか立たへんとかどうでもええ。
 側にいて欲しい。
 ずっと側にいてくれたらそれでええ。

「側に居とうないって言われたら、どないしよ。」

 それでも、すがってみようか。
 みっともなく願ってみようか。
 側にいて欲しい。
 うちの生まれて初めての我が儘を、ぶつけてみてもええやろか。
 
 
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