人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
261 / 1,206
第四章 西からの迷い人

51 甘いデザートの後には  成人

しおりを挟む
「アイスクリーム?」
「皇族の食事に招かれた人だけが食べられる、幻のデザート。自慢できますね。」

 弐角にかくに答えたのは力丸りきまる

「え?幻?」
「うん。城でしか出されないから、どんな金持ちがお金を出しても食べられない。城の食事にたまに付くデザートだから。」
「へええ。内緒のレシピ?」
「そうそう。」
「え、もしかして、俺も頂けるんやろか?」
「もちろん、才蔵さいぞうのもあるよ。」
「わ、若……。俺、来て良かった……。何かあったら絶対、生きて帰れへんって、この家の人が一人増える度に思たけど、来て良かったー。」

 才蔵さいぞうが何か半泣きになってる。

「え?何かって何?物騒だなあ。」
「だって、招かれたの、城ちゃうし、他の人、城に入っていくし、俺一人やし、若だけは何とか逃がさなあかんと思って……。」
「大袈裟なんだよ。殿下は、おみに会わせてくれただけやろ。」
「若はこんなんやし。」
「まあ、良かったじゃん?」

 力丸りきまるが腕を伸ばして、ぽんぽんと才蔵さいぞうの頭を撫でた。
 あれ?俺まだ全然食べられてないのに、アイスクリームが出てきてる。
 いいなあ。俺もアイスクリーム食べたい。ご飯を全部食べたら入らなくなる気がするんだよ。
 才蔵さいぞうがアイスクリームを恐る恐る口に入れて、声もなく驚いている。弐角にかくも、一口食べてびっくりして、しげしげとアイスクリームの器を持ち上げて眺めていた。

「早く食べないと溶けるよ。」

 力丸りきまるに言われて、それでも少しずつ口に運んでいる。だんだん才蔵さいぞうが、にこにこしてきた。分かる。美味しいよね。
 二人を見ている俺の口には、炊いた野菜が運ばれている。俺、自分の箸を置いてしまってた。緋色ひいろはアイスクリーム食べないから、今、俺に食べさせながらお客様の様子を見ているみたいだった。
 弐角にかくがこちらを見ながら、しみじみと言った。

緋色ひいろ殿下は、意外と世話焼きなんですね。おみ半助はんすけも助けてもろて、こうして招いて頂いて……。噂なんて当てにならんもんやな。」
「噂?」
「恐いお方やと、お聞きしとりました。」
「その噂、間違ってないと思いますよ。」

 力丸りきまる弐角にかくに答えている。

九鬼くきの城、落としに行かなかったのは朱実あけみ殿下に、やめてくれと頼まれたからです。あと、あまりに相手が弱かったから、出掛けるのも面倒臭いって。」
「え?」
「命拾いしましたね。」

 ほんとに良かったよね。弐角にかく壱臣いちおみと仲良しって分かったし、もう大丈夫。

「それは、つまり……。」
「とっくに逆鱗に触れてます。」
九鬼くきが、ですか?」
「いや?違ったみたいで何より。」

 あ、のんびり食べてた一二三ひふみも、アイスクリームもらって嬉しそうに笑ってる。甘いもの、好きなのかなあ。
 俺もアイスクリーム食べたい。

弐角にかく。」
「は。」

 緋色ひいろの呼びかけに、弐角にかくが背筋を伸ばした。

赤虎せきとらが、披露宴の招待券を二通送ったらしいが、伴侶も婚約者もいないなら九鬼くきは一人参加だな。」
「え?二通……?あ、いえ。ええ。俺は一人で参加する予定でおりました。」
「そうか。最終確認を頼まれていた。」
「な、何ですって?」

 ずっと、食事もせずに黙ってその場を睨み付けていた綾女あやめが、急に声を上げる。

九鬼くきからは、一二三ひふみさんが参ります!そこの傍系やない、殿の子が参りますとも。」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

妹の妊娠と未来への絆

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,307pt お気に入り:28

側近候補を外されて覚醒したら旦那ができた話をしよう。

BL / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:3,610

【R18】体に100の性器を持つ女

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:2

王妃は離婚の道を選ぶ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,257pt お気に入り:37

白い結婚の契約ですね? 喜んで務めさせていただきます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,300pt お気に入り:62

煉獄の絆

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:107

処理中です...