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第四章 西からの迷い人
120 我が儘 成人
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すごかった。
本当にすごかった。
猿はちゃんと言うことを聞いて、何でもする。上手に玉をぽいぽい投げて受け止めて、くるっと回って。
ほうっ……と息を吐いて、猿に指示を出していた男の人にもらった猿の絵の札を眺める。あの人は凄いな。猿とお話できたりするのかな。
「成人。おーい、成人。」
「は。」
「札をしまえ。お詣りするぞ。」
ええ。手に持っていたい。
でもそうすると、使える手がなくなってしまう……。
俺は最近、手があればなあって思うことが増えて困っている。さっきも、拍手したかった。失くなったときは、何とも思ってなかったのに。
結婚の証を左手の薬指に嵌めるって聞いたときが一番悲しかった。緋色と結婚できないと思って泣いちゃったからなあ。右でも大丈夫で良かったよ。広末や緋椀は鎖に通して首からぶら下げてるし、絶対左手でなくても大丈夫って聞いたときには、それならいいやって思って、やっぱり困ってなかった。
飲み物のふたが開けにくくても、水道からコップに汲めば水は飲めるし、バッグも財布も開けやすいものを吉野が作ってくれたし。ワゴンがあれば、お仕事もできる。服も、最近はちょうどいい大きさの脱いだり着たりしやすいものが置いてある。お風呂では緋色が洗ってくれる。
困ってない。
困ってないのに左手が欲しい。
拍手もしたいし、緋色や父さまや朱実殿下にする礼もしてみたい。左拳の上に右手を乗せて、上に掲げて頭を下げる。格好いいんだ!皇族への敬愛の証なんだって。敬愛は、尊敬してます、大好きですってこと。俺は三人のことをすっごく敬愛してるから、ちゃんとしてみたい。……でも、したいと思ったときには左手はなかった。
今も、一つしかない右手を使えるようにしておかないといけないことは分かってるのに、猿の絵の札を持っていたい。
我が儘だなあ。
胸がもやもやする。
これは駄目よ、と言われて全力で泣いて怒る末良が思い浮かんだ。小さな末良が泣いても、可愛いだけなんだけれど。
札をしまいたくないって言ったら、力丸は困った顔をするんだろうか。そんなことを思いつつ、巾着袋を右手に持つ。
「入れてやろうか?」
「できる。」
力丸に渡したくなくてそう言ったのに、札を持ったまま巾着の口を開けようとして落としてしまった。しゃがんで拾いながら、口から勝手に声が出た。
「んーーーーっ。」
苛々する。
せっかく楽しかったのに。
「どうした?」
「何でもない。」
「ふーん。」
力丸は何にも悪くなくて。俺がこんなことしてたらせっかくの楽しい時間が駄目になる。
「三郎も、後で財布を買ってやるから、今は俺が持ってようか?」
三郎も、札を眺めていたみたい。慌ててポケットにしまっていた。
ああ、俺もポケットもあったなあ。
何とか巾着に入れて立ち上がる。
できたから、良し!
「お詣りする!」
本当にすごかった。
猿はちゃんと言うことを聞いて、何でもする。上手に玉をぽいぽい投げて受け止めて、くるっと回って。
ほうっ……と息を吐いて、猿に指示を出していた男の人にもらった猿の絵の札を眺める。あの人は凄いな。猿とお話できたりするのかな。
「成人。おーい、成人。」
「は。」
「札をしまえ。お詣りするぞ。」
ええ。手に持っていたい。
でもそうすると、使える手がなくなってしまう……。
俺は最近、手があればなあって思うことが増えて困っている。さっきも、拍手したかった。失くなったときは、何とも思ってなかったのに。
結婚の証を左手の薬指に嵌めるって聞いたときが一番悲しかった。緋色と結婚できないと思って泣いちゃったからなあ。右でも大丈夫で良かったよ。広末や緋椀は鎖に通して首からぶら下げてるし、絶対左手でなくても大丈夫って聞いたときには、それならいいやって思って、やっぱり困ってなかった。
飲み物のふたが開けにくくても、水道からコップに汲めば水は飲めるし、バッグも財布も開けやすいものを吉野が作ってくれたし。ワゴンがあれば、お仕事もできる。服も、最近はちょうどいい大きさの脱いだり着たりしやすいものが置いてある。お風呂では緋色が洗ってくれる。
困ってない。
困ってないのに左手が欲しい。
拍手もしたいし、緋色や父さまや朱実殿下にする礼もしてみたい。左拳の上に右手を乗せて、上に掲げて頭を下げる。格好いいんだ!皇族への敬愛の証なんだって。敬愛は、尊敬してます、大好きですってこと。俺は三人のことをすっごく敬愛してるから、ちゃんとしてみたい。……でも、したいと思ったときには左手はなかった。
今も、一つしかない右手を使えるようにしておかないといけないことは分かってるのに、猿の絵の札を持っていたい。
我が儘だなあ。
胸がもやもやする。
これは駄目よ、と言われて全力で泣いて怒る末良が思い浮かんだ。小さな末良が泣いても、可愛いだけなんだけれど。
札をしまいたくないって言ったら、力丸は困った顔をするんだろうか。そんなことを思いつつ、巾着袋を右手に持つ。
「入れてやろうか?」
「できる。」
力丸に渡したくなくてそう言ったのに、札を持ったまま巾着の口を開けようとして落としてしまった。しゃがんで拾いながら、口から勝手に声が出た。
「んーーーーっ。」
苛々する。
せっかく楽しかったのに。
「どうした?」
「何でもない。」
「ふーん。」
力丸は何にも悪くなくて。俺がこんなことしてたらせっかくの楽しい時間が駄目になる。
「三郎も、後で財布を買ってやるから、今は俺が持ってようか?」
三郎も、札を眺めていたみたい。慌ててポケットにしまっていた。
ああ、俺もポケットもあったなあ。
何とか巾着に入れて立ち上がる。
できたから、良し!
「お詣りする!」
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