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第五章 それは日々の話
45 雨の朝 三郎
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いつの間に寝とったのか、目覚ましの音で目を覚ました。
ジリリリリリリ、と大きな音の鳴る時計は、水瀬さんが貸してくれたもの。誰も世話してくれない状況で生活することになった日に、時計を見ることから教えてもらった。
私は、何もできなかったから。
ここにくるまでは、私に何の予定があるのかを管理する者がいて、その予定に合わせて起こしてくれる者がいた。起こしてくれたら、着替えを持ってきた者が着替えを手伝い、長く艶やかな髪を丁寧に梳かれ、いつの間にか朝食が用意されていた。
そう。すべては、私の周りで流れていく景色のようやった。
雨の音が、窓を叩く。冷たい雨。もうすぐ冬が来る。
「るっせーな」
不機嫌な声に驚いて、慌てて目覚ましを止める。隣に置かれたままの兄上のベッドから、力丸さまが起き上がった。
「もう朝か、くそっ」
くあ、と欠伸をして寝癖の付いた頭をかく様子を、じっと見てしまう。そこに人がいることに、ほっとした。何せ私は、一人になることは、ほとんど無く育った。
一緒にいてくれたんやろか。そういえば私は、きちんと布団を掛けて寝とった。
自分の罪の重さに、泣いて泣いて泣いている間、頭を撫でてくれていた優しい手。泣き疲れて寝てしまうまで、そうしてくれていたんやろう。こんな悪い人間は、放っておけばええのに。九鬼の城で自分の犯してきた罪は、どうして今まで平気でいられたのかと思うほど酷いもので。どんな罰も受けようと思うのに、兄上は簡単に許してしまう。
ああ。こうして生きていくことが罰なんやろか。
「おはよう」
不意に声を掛けられて驚く。
「お、はよう、ござい、ます……」
「ん。部屋に戻るわ。邪魔したな」
「あ、いえ、その、あり、ありが、ありがとう、ござい、ました」
「おう。仕事遅れんな。雨が酷いから」
「雨……ですか」
この離宮から出ない私には、天気はあまり関係無い。
「ん。雨が酷く降ると、斎さんの調子が悪くなる。無理させねえように、見ててやってくれよ」
「は……い」
斎さん。私の新しい仕事の上司。緋色殿下の書類仕事を一手に引き受けている責任者。力丸さまに関わりがあるとは思えないお人。でも、雨が降ると調子が悪いことを知っている。そして、気にかけている。
誰にでも優しいこの人に、心を傾けたらあかん。
「村次の足も大丈夫かな。様子見に行くか。成人も色々痛むかもなあ。寝ててくれりゃいいけど」
そんなことを呟きながら、力丸さまは部屋を出ていく。
「じゃ、後でな。ちゃんと飯食いに来いよ?来なかったら呼びにくるぞ」
と、私にも笑顔を向けて。
皆のことを気にして、皆に優しい。私にも、優しい。その優しさを吸い込んで、私の中で何かが育つ。
あかん。
冷たい水で顔を洗う。
弁えろ。私に、誰かを頼る資格なんてない。
兄上の長い孤独を、次は私が知る番なんやから。
ジリリリリリリ、と大きな音の鳴る時計は、水瀬さんが貸してくれたもの。誰も世話してくれない状況で生活することになった日に、時計を見ることから教えてもらった。
私は、何もできなかったから。
ここにくるまでは、私に何の予定があるのかを管理する者がいて、その予定に合わせて起こしてくれる者がいた。起こしてくれたら、着替えを持ってきた者が着替えを手伝い、長く艶やかな髪を丁寧に梳かれ、いつの間にか朝食が用意されていた。
そう。すべては、私の周りで流れていく景色のようやった。
雨の音が、窓を叩く。冷たい雨。もうすぐ冬が来る。
「るっせーな」
不機嫌な声に驚いて、慌てて目覚ましを止める。隣に置かれたままの兄上のベッドから、力丸さまが起き上がった。
「もう朝か、くそっ」
くあ、と欠伸をして寝癖の付いた頭をかく様子を、じっと見てしまう。そこに人がいることに、ほっとした。何せ私は、一人になることは、ほとんど無く育った。
一緒にいてくれたんやろか。そういえば私は、きちんと布団を掛けて寝とった。
自分の罪の重さに、泣いて泣いて泣いている間、頭を撫でてくれていた優しい手。泣き疲れて寝てしまうまで、そうしてくれていたんやろう。こんな悪い人間は、放っておけばええのに。九鬼の城で自分の犯してきた罪は、どうして今まで平気でいられたのかと思うほど酷いもので。どんな罰も受けようと思うのに、兄上は簡単に許してしまう。
ああ。こうして生きていくことが罰なんやろか。
「おはよう」
不意に声を掛けられて驚く。
「お、はよう、ござい、ます……」
「ん。部屋に戻るわ。邪魔したな」
「あ、いえ、その、あり、ありが、ありがとう、ござい、ました」
「おう。仕事遅れんな。雨が酷いから」
「雨……ですか」
この離宮から出ない私には、天気はあまり関係無い。
「ん。雨が酷く降ると、斎さんの調子が悪くなる。無理させねえように、見ててやってくれよ」
「は……い」
斎さん。私の新しい仕事の上司。緋色殿下の書類仕事を一手に引き受けている責任者。力丸さまに関わりがあるとは思えないお人。でも、雨が降ると調子が悪いことを知っている。そして、気にかけている。
誰にでも優しいこの人に、心を傾けたらあかん。
「村次の足も大丈夫かな。様子見に行くか。成人も色々痛むかもなあ。寝ててくれりゃいいけど」
そんなことを呟きながら、力丸さまは部屋を出ていく。
「じゃ、後でな。ちゃんと飯食いに来いよ?来なかったら呼びにくるぞ」
と、私にも笑顔を向けて。
皆のことを気にして、皆に優しい。私にも、優しい。その優しさを吸い込んで、私の中で何かが育つ。
あかん。
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弁えろ。私に、誰かを頼る資格なんてない。
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