【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

82 すごい人の一人  成人

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「あー、うん。食べたし、何となく」

 広末ひろすえが当たり前のように言うと、三郎さぶろうはますます驚いて口をぽかんと開けた。

「専門の仕事をするお人というんは、すごいですねえ」

 少しして、ぽつりと呟く。

「あ、違うと思う。広末ひろすえさんがすごいだけ」
「なんだ?持ち上げても何も出ねえぞ」

 村次むらつぐの言葉に広末ひろすえが冗談っぽく返すけど、俺も広末ひろすえはすごいと思う。

「まあ、広末ひろすえはすごいよな。泉門院家うちの厨房から殿下のとこに移った後、うちの厨房はだいぶ困ってた」
「そんなことないでしょ。特に引き止められもしなかったし」
「免許無しの広末ひろすえが一人いなくなった所で、何てことないって思ってたんだろうなあ。うちも、そんなに身分が高いとかじゃねえけど、昔からの名字持ちだし。兄上が殿下の護衛に抜擢されたりして、ちょっと家格が上がってたから、厨房の免許持ちに、矜持みたいなもんが出てきてたんだろ」
「ははっ。俺は名字無しの免許無しでしたからね。殿下、よく俺のこと雇ってくれましたね」
乙羽おとわの命を繋いだ料理人だと、常陸丸ひたちまるが言ってたからな」

 それまで、黙って俺の椅子になってた緋色ひいろが、当たり前って顔で言った。

「兄上って信頼されてるなあ……」

 力丸りきまるが、いいなあって感じの顔をする。常陸丸ひたちまる緋色ひいろは、ずっと一緒で、すごく仲良し。

「それに、殿下って名字とか免許とか気にしないですよね。生松いくまつ先生も、孤児院からの特待生で高等学校に行った後、ろくに研修も無しで戦場に送られたって言ってたのに、今じゃ殿下のお抱え医師だし」
「才能があるのに名字があるか無いかで分けられるなんて、国としての損失だぞ」
「感謝してます、殿下」

 突然、広末ひろすえが跪いて包拳礼をとった。

「やめろ、馬鹿。このうちの中でやるな、面倒くさい」

 広末ひろすえは、すぐに笑って、はい、と椅子に座り直す。

「お前は自分で名字も手に入れたからな。俺はあまり助けになれなかった。俺たちのために免許を取ってくれたんだろう?感謝してるのはこっちだ」
「はははっ。俺は、自分の城で好きに料理ができて、幸せ者です。気の合う同僚と弟子もできましたし、嫁さんと子どもは可愛いし」

 話が難しくなってきてよく分かんないけど、広末ひろすえが幸せなら良かったなあ。

「殿下のお側には、そういった才能のある方が惹かれておいでになるんですねえ」

 真剣に話を聞いていた三郎さぶろうの呟きに、

「お前も、期待してるぞ」

 と、緋色ひいろがにやっと笑って言って、三郎さぶろうがすごくすごく困った顔でうつ向いた。
 どうして困ってるの?
 崩し文字が読めるだけでもすごいのに!
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