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第五章 それは日々の話
175 万事丸くおさまるはず 緋色
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「ほう、成る程」
利胤が感心した声を上げる。
「孫か。悪くない。いや、いい!」
「良くないですよ!何ですか、俺たちの子って。俺と三郎とは、十も離れていないんっすよ?無理でしょう」
「いや。その辺は、親側が成人していてしっかりとした収入があり、婚姻していれば何の問題もない。子どもの方が年齢が上、とかなら不味いけどな」
ははは、と笑ってやれば、口を開いてぱくぱくと声にならない声を出す睦峯が目に入る。
「殿下。婚姻していればの条件のために、私と睦峯さんが婚姻届を出すということでしょうか?偽装の片棒を担ぐことに否やはありませんが、私が九条家に入ることで、九条家に悪影響はありませんか?」
「ん?偽装?」
なんだ?お前たち、まだ気持ちを通じていなかったのか?
首を傾げて睦峯を見てみれば、途方にくれたような顔をしている。
「殿下。勘弁してください……」
「あ、そうですね。私は先々、誰とも婚姻を結ぶ予定も、子を為す予定もありませんが、睦峯さんは、この国の人で健康な男子です。先々、思い思われる方ができて、私との婚姻の事実が知られれば、それもまた不味いのでは?」
淡々と紡がれる斎の言葉には、何の感情も乗っていなかった。睦峯からの想いを、喜んで受け取っていると見えていたのだが、気のせいだったか?
「文明……」
「偽装するならどこかの女性を捕まえるよりましなのかもしれませんが、私では不適格なのではありませんか?」
はあ、と睦峯が溜め息を吐いた。
「文明」
斎の目の前で、ぱん、と柏手を打つ。びくっ、と斎の体が震えた。腕の中の成人も、ひゃっと身を竦める。きゅっと抱いてやると、嬉しそうにすり寄ってきた。分からないなりに、真剣に話を聞いているようだ。
「俺の名前は?」
「睦峯さんです」
「うん」
睦峯は、斎の手を取ってしっかりと目を合わせた。
「俺は、例えば三郎を養子に入れるための偽装だとしても、お前と婚姻関係になれることは、嬉しい」
ゆっくりと、幼い子どもに聞かせるように言う。
「え?え……何故、ですか?」
先程までの淡々とした様子が消えた斎が、戸惑った声を上げた。斎には何か、表に感情が溢れそうになるのを抑えるための、引き金があるのかもしれない。作動したそれを、睦峯が外した?
それこそ、身分が高い者の嗜み。己れの内側を探られないように育てられた者の持つ、何か。
記憶を失っても、彼の中から消えぬもの。
「いつか、その頭痛を治してやりたいと思っている」
「ありがとう……ございます」
「だいぶ時間がかかる」
「はい」
「治るまでの治療やお世話を、他の者に任せる気はこれっぽっちもない」
「は……い……」
「つまり、離れる気がないんだ」
「ええ……」
「この家で、結婚の定義はな」
「一番好きな人と、これから先の人生を共に生きる誓い」
成人が嬉しそうに言った。
その頬に口づけを落とす。相変わらず、素晴らしい結婚の定義だな。
「だそうだ」
「ええ」
「文明は、俺と婚姻関係になるのは、迷惑か?」
「いえ……。どうやら、その定義に当てはまってしまうかと……」
不意打ちを食らった睦峯が、目を見開いて言葉に詰まる。
やれやれ。
ここで一言、嬉しいと言って抱き締めたら終わるというのに。
よし、話は纏まったな。
成人の明るい声が響く。
「睦峯と斎は今、嬉しい?そしたら、三郎も嬉しい?」
「…………」
しまった。
まだ、あいつの了承を得ていない。
利胤が感心した声を上げる。
「孫か。悪くない。いや、いい!」
「良くないですよ!何ですか、俺たちの子って。俺と三郎とは、十も離れていないんっすよ?無理でしょう」
「いや。その辺は、親側が成人していてしっかりとした収入があり、婚姻していれば何の問題もない。子どもの方が年齢が上、とかなら不味いけどな」
ははは、と笑ってやれば、口を開いてぱくぱくと声にならない声を出す睦峯が目に入る。
「殿下。婚姻していればの条件のために、私と睦峯さんが婚姻届を出すということでしょうか?偽装の片棒を担ぐことに否やはありませんが、私が九条家に入ることで、九条家に悪影響はありませんか?」
「ん?偽装?」
なんだ?お前たち、まだ気持ちを通じていなかったのか?
首を傾げて睦峯を見てみれば、途方にくれたような顔をしている。
「殿下。勘弁してください……」
「あ、そうですね。私は先々、誰とも婚姻を結ぶ予定も、子を為す予定もありませんが、睦峯さんは、この国の人で健康な男子です。先々、思い思われる方ができて、私との婚姻の事実が知られれば、それもまた不味いのでは?」
淡々と紡がれる斎の言葉には、何の感情も乗っていなかった。睦峯からの想いを、喜んで受け取っていると見えていたのだが、気のせいだったか?
「文明……」
「偽装するならどこかの女性を捕まえるよりましなのかもしれませんが、私では不適格なのではありませんか?」
はあ、と睦峯が溜め息を吐いた。
「文明」
斎の目の前で、ぱん、と柏手を打つ。びくっ、と斎の体が震えた。腕の中の成人も、ひゃっと身を竦める。きゅっと抱いてやると、嬉しそうにすり寄ってきた。分からないなりに、真剣に話を聞いているようだ。
「俺の名前は?」
「睦峯さんです」
「うん」
睦峯は、斎の手を取ってしっかりと目を合わせた。
「俺は、例えば三郎を養子に入れるための偽装だとしても、お前と婚姻関係になれることは、嬉しい」
ゆっくりと、幼い子どもに聞かせるように言う。
「え?え……何故、ですか?」
先程までの淡々とした様子が消えた斎が、戸惑った声を上げた。斎には何か、表に感情が溢れそうになるのを抑えるための、引き金があるのかもしれない。作動したそれを、睦峯が外した?
それこそ、身分が高い者の嗜み。己れの内側を探られないように育てられた者の持つ、何か。
記憶を失っても、彼の中から消えぬもの。
「いつか、その頭痛を治してやりたいと思っている」
「ありがとう……ございます」
「だいぶ時間がかかる」
「はい」
「治るまでの治療やお世話を、他の者に任せる気はこれっぽっちもない」
「は……い……」
「つまり、離れる気がないんだ」
「ええ……」
「この家で、結婚の定義はな」
「一番好きな人と、これから先の人生を共に生きる誓い」
成人が嬉しそうに言った。
その頬に口づけを落とす。相変わらず、素晴らしい結婚の定義だな。
「だそうだ」
「ええ」
「文明は、俺と婚姻関係になるのは、迷惑か?」
「いえ……。どうやら、その定義に当てはまってしまうかと……」
不意打ちを食らった睦峯が、目を見開いて言葉に詰まる。
やれやれ。
ここで一言、嬉しいと言って抱き締めたら終わるというのに。
よし、話は纏まったな。
成人の明るい声が響く。
「睦峯と斎は今、嬉しい?そしたら、三郎も嬉しい?」
「…………」
しまった。
まだ、あいつの了承を得ていない。
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