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第五章 それは日々の話
184 新年の宴3 朱実
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「皆様に、ご紹介致します」
黒い軍服が、未だにぴったりと体を包む偉丈夫が立ち上がり、九条家の他の四人もそれに倣った。
鍛え上げた体つきで軍服を着ているのは、利胤一人。ひょろりと細身の他の四人は皆、揃いのスーツに身を包んでいる。生松は、元は軍の医療部所属だったから軍服を正装としていたが、軍を辞して緋色の下についたことから、スーツが正装になったようだ。
四人が身に付けているのは、全く同じ拵えのスーツ。あれが、既製品とかいうものだろうか?少しずつ色味が違うのは、それぞれの趣味か。まさか、誰の物か見分けられるように色を変えただけ、などと言うまいな。
私が、お忍びで出かけるときにも着たことのないような、どこにでもあるスーツを着た姿は、この国で最も高貴な者が集まる場所で、異彩を放っていた。確か生松は、毎月の会議すべて、あのスーツだな。どうせ購入するなら、少し違う色味などを試してみれば良いのに。まさか、一張羅ではあるまいな。
もしそうなら、緋色はもう少し、自分の部下の服装に興味を持つべきだ。
「わしの後を継いだ生松は皆様ご存知と思われる。その後に養子とした睦峯も、会議に顔を出したことがあるからご存知の方も多かろう。二人は、緋色殿下の下で働く優秀な医師じゃ」
何一つ謙遜することなく胸を張った利胤が、機嫌よく二人を紹介する。二人は少し苦笑した後、黙って頭を下げた。
「睦峯の隣は、この正月に睦峯が婚姻を結んだ斎と言う。緋色殿下の補佐官で、優秀な文官じゃ。少々病弱のため、ほとんど離宮から出ることはないが、本日は顔合わせのために連れてきた。覚えておいて貰えると助かる」
「斎と申します。よろしくお見知りおきくださいませ」
優雅に頭を下げる仕草は、安物のスーツとひどく不似合いな上品さである。本人は、帝国の第一皇子であったことなど全く記憶にない、とのことだが、身についた所作は、体が覚えているものなのだろうか。
しかし、名前を斎としたのか?文明とすると、帝国の者かと勘繰りやすいから、その方が無難なのかもしれないが。この微妙な名付けはまた、緋色か?どうにも、あいつの名付けの感覚は独特だな。
「そしてこれが、その二人の養子とした三郎じゃ。わしの孫となる。三郎も、緋色殿下の優秀な補佐官でな。九条の次期当主じゃ」
弾んだ声で利胤が隣の青年の肩を抱くと、ざわり、と場が揺れた。まさかの孫!そして次期当主。だから、斎と睦峯は婚姻の形を取った?それは、また……。
「三郎と申します。よろしくご指導くださいませ」
そう。身についた所作は、体が覚えているものなのだ。これまた優雅に頭を下げた三郎に、更にざわめきは増した。
これで、九条は平民の集まり、と言う陰口は封じられたというわけか。
いや。緋色の耳に、そんな馬鹿馬鹿しい言葉は届かない。狙った訳ではなく封じてみせたのだろうな……
黒い軍服が、未だにぴったりと体を包む偉丈夫が立ち上がり、九条家の他の四人もそれに倣った。
鍛え上げた体つきで軍服を着ているのは、利胤一人。ひょろりと細身の他の四人は皆、揃いのスーツに身を包んでいる。生松は、元は軍の医療部所属だったから軍服を正装としていたが、軍を辞して緋色の下についたことから、スーツが正装になったようだ。
四人が身に付けているのは、全く同じ拵えのスーツ。あれが、既製品とかいうものだろうか?少しずつ色味が違うのは、それぞれの趣味か。まさか、誰の物か見分けられるように色を変えただけ、などと言うまいな。
私が、お忍びで出かけるときにも着たことのないような、どこにでもあるスーツを着た姿は、この国で最も高貴な者が集まる場所で、異彩を放っていた。確か生松は、毎月の会議すべて、あのスーツだな。どうせ購入するなら、少し違う色味などを試してみれば良いのに。まさか、一張羅ではあるまいな。
もしそうなら、緋色はもう少し、自分の部下の服装に興味を持つべきだ。
「わしの後を継いだ生松は皆様ご存知と思われる。その後に養子とした睦峯も、会議に顔を出したことがあるからご存知の方も多かろう。二人は、緋色殿下の下で働く優秀な医師じゃ」
何一つ謙遜することなく胸を張った利胤が、機嫌よく二人を紹介する。二人は少し苦笑した後、黙って頭を下げた。
「睦峯の隣は、この正月に睦峯が婚姻を結んだ斎と言う。緋色殿下の補佐官で、優秀な文官じゃ。少々病弱のため、ほとんど離宮から出ることはないが、本日は顔合わせのために連れてきた。覚えておいて貰えると助かる」
「斎と申します。よろしくお見知りおきくださいませ」
優雅に頭を下げる仕草は、安物のスーツとひどく不似合いな上品さである。本人は、帝国の第一皇子であったことなど全く記憶にない、とのことだが、身についた所作は、体が覚えているものなのだろうか。
しかし、名前を斎としたのか?文明とすると、帝国の者かと勘繰りやすいから、その方が無難なのかもしれないが。この微妙な名付けはまた、緋色か?どうにも、あいつの名付けの感覚は独特だな。
「そしてこれが、その二人の養子とした三郎じゃ。わしの孫となる。三郎も、緋色殿下の優秀な補佐官でな。九条の次期当主じゃ」
弾んだ声で利胤が隣の青年の肩を抱くと、ざわり、と場が揺れた。まさかの孫!そして次期当主。だから、斎と睦峯は婚姻の形を取った?それは、また……。
「三郎と申します。よろしくご指導くださいませ」
そう。身についた所作は、体が覚えているものなのだ。これまた優雅に頭を下げた三郎に、更にざわめきは増した。
これで、九条は平民の集まり、と言う陰口は封じられたというわけか。
いや。緋色の耳に、そんな馬鹿馬鹿しい言葉は届かない。狙った訳ではなく封じてみせたのだろうな……
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