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第六章 家族と暮らす
60 護衛の失態 常陸丸
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「「殿下!」」
叫んだのは、力丸と同時だった。音が漏れにくい仕様になっているとはいえ、扉の前にいれば、人を殴った気配を微かに感じることはできる。緋色がやけに冷静だったから心配ないと踏んだんだが、判断を誤ったか。
中から返事はない。元より、話し声などは聞こえていないし、全く様子は分からない。だが今、間違いなく殴った。しかもあれは、腹とかじゃなく顔だ。そしてグーだ。
馬鹿緋色。
先に手を出すのは駄目だっていっつも言われてんだろ、俺ら。
あんたたちはね、人よりずっと力が強いから、きっとたくさんのものを守れる。手に入れることができる。でも、力が強いから、力加減を失敗したら相手が壊れちゃうかもしれない。よく考えて行動するんだよ。自分から手を出しちゃいけない。手加減を忘れちゃいけない。その代わり、大事な物を守るとき、自分の身を守るときには躊躇うな。
母はよく、俺と緋色、力丸にそう言った。成人にも教えていたな。あいつはもう、そんな力は失ってしまったけど。いや、命と引き替えにならできないことはな……。いや、駄目だ。そんなことは絶対にさせねえ。緋色が泣くだろ?
まあ、そんなことはどうでもいい。
身に付いたその約束が吹っ飛ぶほどの何があった?何を言われた?朱実殿下がまた、何か仕掛けてきたのか?……ああ、くそ。
「殿下?開けますよ?」
「待て」
扉の近くに一人で歩いてきた気配。緋色の声。
成人は?
朱実殿下は?
「まだ入るな」
「全員、何ともないんですね?」
「一発だけだ……」
「一発……。手加減は……」
「………………した」
やはり、緋色が朱実殿下を殴ったな。
「何か冷やすもん持ってきてくれ。あと、熱いお茶一つ」
「……本当に、大丈夫なんでしょうね?」
しばし沈黙。
「………………とにかく、冷やすものと手拭い。あー、茶は三つあってもいい。とりあえず、入るな」
少し離れた所で落ち着かない様子で控えていた朱実殿下の侍従を呼んで、冷やすものと手拭い、熱い茶を頼む。念のために応急手当の道具も。
侍従は、開きかけた口を賢くつぐんで行動に移った。
「兄上」
「聞こえたか?」
「はい」
成人に付いてきた半助と、今日の朱実殿下のもう一人の護衛である弥壌さんも頷いた。最も近い扉前は俺が陣取っているから緋色殿下の声が聞こえた訳ではないだろう。俺が答えた言葉から色々察した、といったところか。気心の知れた仲間ばかりだ。敢えての説明はしない。
「俺が入る」
念のため、扉に背を向けて声を落とす。
「でも、緋色殿下は入るなって……」
「あいつに怪我の手当てとか看病とかできるわけないだろう?」
「成人にはやってんじゃん」
「普段のお世話の延長だ。成人にしかできないんだよ」
「あー。うん……」
「朱実殿下の怪我の具合を確認して早めに手を打たないとヤバい」
「すでに俺ら、かなり職務怠慢的な感じ?」
当たり前だろ。護衛対象を怪我させたんだぞ。
「隊長に報告をしてくる。常陸丸、何としても中に入れ」
弥壌さんが溜め息を吐きながら動いた。一番面倒くさいとこ行ってくれるとか、もう本当この人好き。ああ、今日の朱実殿下の担当が弥壌さんで良かったあ。
「俺らはどうする?」
「力丸は赤璃殿下のとこ行けるか?半助は引き続きここの警備頼む」
侍従がワゴンに、指示したものを積んできた。
さて。
「殿下、開けますよ」
叫んだのは、力丸と同時だった。音が漏れにくい仕様になっているとはいえ、扉の前にいれば、人を殴った気配を微かに感じることはできる。緋色がやけに冷静だったから心配ないと踏んだんだが、判断を誤ったか。
中から返事はない。元より、話し声などは聞こえていないし、全く様子は分からない。だが今、間違いなく殴った。しかもあれは、腹とかじゃなく顔だ。そしてグーだ。
馬鹿緋色。
先に手を出すのは駄目だっていっつも言われてんだろ、俺ら。
あんたたちはね、人よりずっと力が強いから、きっとたくさんのものを守れる。手に入れることができる。でも、力が強いから、力加減を失敗したら相手が壊れちゃうかもしれない。よく考えて行動するんだよ。自分から手を出しちゃいけない。手加減を忘れちゃいけない。その代わり、大事な物を守るとき、自分の身を守るときには躊躇うな。
母はよく、俺と緋色、力丸にそう言った。成人にも教えていたな。あいつはもう、そんな力は失ってしまったけど。いや、命と引き替えにならできないことはな……。いや、駄目だ。そんなことは絶対にさせねえ。緋色が泣くだろ?
まあ、そんなことはどうでもいい。
身に付いたその約束が吹っ飛ぶほどの何があった?何を言われた?朱実殿下がまた、何か仕掛けてきたのか?……ああ、くそ。
「殿下?開けますよ?」
「待て」
扉の近くに一人で歩いてきた気配。緋色の声。
成人は?
朱実殿下は?
「まだ入るな」
「全員、何ともないんですね?」
「一発だけだ……」
「一発……。手加減は……」
「………………した」
やはり、緋色が朱実殿下を殴ったな。
「何か冷やすもん持ってきてくれ。あと、熱いお茶一つ」
「……本当に、大丈夫なんでしょうね?」
しばし沈黙。
「………………とにかく、冷やすものと手拭い。あー、茶は三つあってもいい。とりあえず、入るな」
少し離れた所で落ち着かない様子で控えていた朱実殿下の侍従を呼んで、冷やすものと手拭い、熱い茶を頼む。念のために応急手当の道具も。
侍従は、開きかけた口を賢くつぐんで行動に移った。
「兄上」
「聞こえたか?」
「はい」
成人に付いてきた半助と、今日の朱実殿下のもう一人の護衛である弥壌さんも頷いた。最も近い扉前は俺が陣取っているから緋色殿下の声が聞こえた訳ではないだろう。俺が答えた言葉から色々察した、といったところか。気心の知れた仲間ばかりだ。敢えての説明はしない。
「俺が入る」
念のため、扉に背を向けて声を落とす。
「でも、緋色殿下は入るなって……」
「あいつに怪我の手当てとか看病とかできるわけないだろう?」
「成人にはやってんじゃん」
「普段のお世話の延長だ。成人にしかできないんだよ」
「あー。うん……」
「朱実殿下の怪我の具合を確認して早めに手を打たないとヤバい」
「すでに俺ら、かなり職務怠慢的な感じ?」
当たり前だろ。護衛対象を怪我させたんだぞ。
「隊長に報告をしてくる。常陸丸、何としても中に入れ」
弥壌さんが溜め息を吐きながら動いた。一番面倒くさいとこ行ってくれるとか、もう本当この人好き。ああ、今日の朱実殿下の担当が弥壌さんで良かったあ。
「俺らはどうする?」
「力丸は赤璃殿下のとこ行けるか?半助は引き続きここの警備頼む」
侍従がワゴンに、指示したものを積んできた。
さて。
「殿下、開けますよ」
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