【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

61 熱い茶を飲む  緋色

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 ノックの音で小部屋の外に出て、常陸丸ひたちまるの持っているワゴンを受け取る。そのままとりあえず、熱い茶に軽く息を吹きかけて飲んだ。 
 はあ。
 旨いな。
 
成人なるひと朱実あけみ殿下、二人にして大丈夫なのか?」

 常陸丸ひたちまるが俺の耳元で声を潜める。
 あー……、心配するな。
 よしよししてるから。
 
「帰りたい」 
「無理だろ」
「ん。じゃ、後で」

 ひそひそと話して戻ろうとすれば、さっと小部屋の扉を開けてくれるから、何も考えずにワゴンを押して入った。常陸丸ひたちまるに世話をされることに慣れすぎていた。気付けば常陸丸ひたちまるも小部屋の中にいて、かちりと鍵が閉められる。

常陸丸ひたちまる?入るなと言った……」
「しっ」

 驚いて声が大きくなりかけた俺を制して、素早くソファに寄った常陸丸ひたちまるは、朱実あけみの頭を撫でる成人なるひとの頭をぽんぽんと撫でた。

常陸丸ひたちまる。皇太子殿下、寝ちゃった」
「おう」

 見慣れぬ涙に濡れた目は閉じられて、規則正しい呼吸が聞こえていた。流れた涙の跡をつけた頬は、赤く腫れてきている。

「どうすっかな」

 言いながら常陸丸ひたちまるは、ワゴンの上の濡れた手拭いで朱実あけみの目元をそっと拭った。

常陸丸ひたちまる
「殿下はソファでお茶でも飲んで、反省しててください」
「入るな、と言ったはずだが?」

 言い返しつつ、しっかりとソファに座ってまだ熱い茶をすする。
 はああ。
 熱いのが旨い。

「何故です?」
朱実あけみが泣いてたから」
「?」

 常陸丸ひたちまるが触れても、朱実あけみは目を閉じたままだ。本当に寝てるのか……。こんな姿は初めて見た。泣くところを見たのも初めてだし、無防備な寝顔を見るのも初めてだ。
 朱実あけみは、いつもちゃんとしていた。
 いつだって俺に、ちゃんとしなさいと言った。教師たちと同じ顔でそう言った。けれど俺が感情を爆発させると、小言を言いつつも楽しそうに笑って、自分で責任が取れるならいいんだ、とも言った。

朱実あけみは、感情を表に出した姿を見られるのは嫌かと思った」
「ああ。まあ、そうでしょうね」

 とんでもなく優しい手付きで朱実あけみの目元や頬を拭った常陸丸ひたちまるが、朱実あけみの赤い頬に湿布薬を貼り付ける。冷たいだろうに朱実あけみの目は開かず、ほんの少し肩がぴくりと揺れただけだった。
 成人なるひとは、手当てをする常陸丸ひたちまるのすぐ横で、真剣な顔で常陸丸ひたちまるの一連の動きを目で追っている。手当てとか看病とか、自分もできるようになろう、と思っている顔だ。どちらかというと看病される側だろうに、そういうの好きだよな。普通に育ってたら、面倒見のいいお兄ちゃんになってたりしたのかもな。
 普通に、か。
 朱実あけみももしかして、面倒見のいいお兄ちゃん、なんだろうか。色々と普通ではなかったが、思い返してみれば何だかんだ俺のやりたいようにやらせてくれていた気もする。
 成人なるひとへの諸々を簡単に許す気にはなれないが、今朝方までのように、どうでもいい気持ちにも戻れない。
 手当てを終えて場所を譲った常陸丸ひたちまるに代わって、また成人なるひと朱実あけみの横に膝をつき、よしよしと頭を撫ではじめる。朱実あけみの寝顔から、更にゆるりと力が抜けたように見えた。
 頬の湿布が痛々しい。
 仕方ないから少しだけ、貸してやる。
 成人なるひと常陸丸ひたちまるも俺のだけど、少しだけ。今だけ、貸してやるよ。

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