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第六章 家族と暮らす
62 それは私の出番 赤璃
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「殿下……。赤璃殿下……」
控えめな呼びかけが聞こえて、目を開けた。
「…………?」
いつの間にか寝ていたらしい。ソファで授乳しながらうとうとしていたら、ベッドで寝た姿勢で授乳して、そのままご一緒にお休みください、と勧められ従ったのだ。
本当に、妊娠出産からの子育てというのは、大変な仕事だわ。
腕の中にいたはずの朱音は小さなベッドへと移されて、穏やかな寝息を立てている。私の、はだけていた胸は整えられていた。
こんなにも恵まれていても疲れて仕方ないのに、手伝いの手がない者たちはどうやってこの小さな命を育てているのかしら。
「殿下、お休みのところ誠に申し訳ございません」
侍女が、ベッド脇で声をかけてきていることをやっと認識して慌てて起き上がった。
「殿下。急に起き上がられては……」
上半身を起こして、くらりとする頭をなだめるために、しばらくじっと目をつぶる。
ああ、そうか。
私はまだ、殿下と呼ばれて自分のことだと認識するのに、時間がかかるのだ。
「大丈夫よ。どうかした?」
「はい。力丸さんが来られております」
「力丸?」
ぞ、と背筋が粟立つ。
朱実に何かあった?
「赤璃殿下はお休み中だとお伝えしたのですが、その、お待ちになると仰られたので、私の判断で殿下にお声をお掛け致しました。お体はお辛くありませんか?」
「ありがとう、大丈夫よ。呼んでちょうだい」
優秀な侍女に心より感謝を込めて、笑顔を向けた。本当に、私は恵まれている。ここで起こしてもらえていなかったら、私はきっと、ずっとこの日を悔やむだろう。
「お休みのところ、誠に申し訳ございません」
すぐに入室してきた力丸は、簡単に包拳礼の形を取ると、許しも待たずに顔を上げた。口を開きかけて一度閉じ、少し考えてからまた口を開く。
「兄弟喧嘩です」
ああ、うん。
「緋色殿下が手を出してしまったらしく、冷やすものと手拭いを持ってこいと」
「らしく、ですって?」
「は。二人でお話になりたいと朱実殿下のご要望で、部屋には二人きり、あ、いや、途中でお茶を持った成人を入れたのですが、失敗だったみたいで」
「みたいで?力丸、減俸ものよ」
「はい。反省しております」
ふえ、と朱音の声がして、慌てて声を落とす。少し離れて控えていた乳母の玉乃井が寄ってきて、とん、とん、と朱音の胸を優しく叩くと、何度かふやふや言っただけで寝直した。
今回の件を聞いたときに、兄弟喧嘩の一つもすればいい、と思ってはいたけれど、緋色が手を出してしまうほどの様子には見えなかったのに。
「部屋にはまだ二人、いえ、三人なの?」
「緋色殿下は誰も入るなと仰っていましたが、兄上が部屋に入ると言っていたので、もう入っていると思います」
「そう」
常陸丸が入ってくれているなら、きっと大丈夫だろうけれど。
「行くわ」
「お願いします」
「着替えるから少し待って。玉乃井、朱音をお願いね。栄喜もここに連れてきておきなさい。一人にしては駄目よ」
朱音の面倒を見ている間、玉乃井の子どもが一人になるなんて、そんなことがあってはいけないので、これだけは念押ししておく。
久しぶりに寝起きのしやすい服を脱いで、誰に会ってもおかしくない服装に着替えた。
朱実、今行くわ。
控えめな呼びかけが聞こえて、目を開けた。
「…………?」
いつの間にか寝ていたらしい。ソファで授乳しながらうとうとしていたら、ベッドで寝た姿勢で授乳して、そのままご一緒にお休みください、と勧められ従ったのだ。
本当に、妊娠出産からの子育てというのは、大変な仕事だわ。
腕の中にいたはずの朱音は小さなベッドへと移されて、穏やかな寝息を立てている。私の、はだけていた胸は整えられていた。
こんなにも恵まれていても疲れて仕方ないのに、手伝いの手がない者たちはどうやってこの小さな命を育てているのかしら。
「殿下、お休みのところ誠に申し訳ございません」
侍女が、ベッド脇で声をかけてきていることをやっと認識して慌てて起き上がった。
「殿下。急に起き上がられては……」
上半身を起こして、くらりとする頭をなだめるために、しばらくじっと目をつぶる。
ああ、そうか。
私はまだ、殿下と呼ばれて自分のことだと認識するのに、時間がかかるのだ。
「大丈夫よ。どうかした?」
「はい。力丸さんが来られております」
「力丸?」
ぞ、と背筋が粟立つ。
朱実に何かあった?
「赤璃殿下はお休み中だとお伝えしたのですが、その、お待ちになると仰られたので、私の判断で殿下にお声をお掛け致しました。お体はお辛くありませんか?」
「ありがとう、大丈夫よ。呼んでちょうだい」
優秀な侍女に心より感謝を込めて、笑顔を向けた。本当に、私は恵まれている。ここで起こしてもらえていなかったら、私はきっと、ずっとこの日を悔やむだろう。
「お休みのところ、誠に申し訳ございません」
すぐに入室してきた力丸は、簡単に包拳礼の形を取ると、許しも待たずに顔を上げた。口を開きかけて一度閉じ、少し考えてからまた口を開く。
「兄弟喧嘩です」
ああ、うん。
「緋色殿下が手を出してしまったらしく、冷やすものと手拭いを持ってこいと」
「らしく、ですって?」
「は。二人でお話になりたいと朱実殿下のご要望で、部屋には二人きり、あ、いや、途中でお茶を持った成人を入れたのですが、失敗だったみたいで」
「みたいで?力丸、減俸ものよ」
「はい。反省しております」
ふえ、と朱音の声がして、慌てて声を落とす。少し離れて控えていた乳母の玉乃井が寄ってきて、とん、とん、と朱音の胸を優しく叩くと、何度かふやふや言っただけで寝直した。
今回の件を聞いたときに、兄弟喧嘩の一つもすればいい、と思ってはいたけれど、緋色が手を出してしまうほどの様子には見えなかったのに。
「部屋にはまだ二人、いえ、三人なの?」
「緋色殿下は誰も入るなと仰っていましたが、兄上が部屋に入ると言っていたので、もう入っていると思います」
「そう」
常陸丸が入ってくれているなら、きっと大丈夫だろうけれど。
「行くわ」
「お願いします」
「着替えるから少し待って。玉乃井、朱音をお願いね。栄喜もここに連れてきておきなさい。一人にしては駄目よ」
朱音の面倒を見ている間、玉乃井の子どもが一人になるなんて、そんなことがあってはいけないので、これだけは念押ししておく。
久しぶりに寝起きのしやすい服を脱いで、誰に会ってもおかしくない服装に着替えた。
朱実、今行くわ。
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