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第六章 家族と暮らす
78 居心地の良い空間 緋色
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厨房で茶を飲んだ後、執務室ではなく自室へ向かっても、常陸丸は何も言わなかった。ただ、いつの間にか手に持っていた書類を俺に渡して、自分は手をひらひらと振りながら、執務室へ降りていった。
「半助。今日はもういい」
成人も共に自室へ戻ったので扉前まで半助が付いてきたが、うちに帰ってしまえば扉前に立つような護衛は必要ない。荘重も引き上げてきているし、一ノ瀬が拠点としている城に忍び込める者はいないと言っても過言ではないだろう。
「はい」
と、素直に頭を下げて下がっていく半助を見送って、部屋の扉を閉めた。あいつも、のんびり休むという概念が無いから、離宮周辺の見回りに加わるか、軍部の鍛練に顔を出すのかするのだろうが、本人の納得のいく過ごし方ができるならそれでいい。
一ノ瀬が朱実の命令で俺や成人の命を狙うというのなら、扉前に護衛を置いたところで意味はない。二人で寛いでいるときに、部屋の中に人を置くのも嫌だしな。
先ほどの城での食事は、まったく落ち着かなかった。
父と母の、侍従、侍女、護衛、料理人までが周りに立って、こちらの動きを注視している。世話をしようとしてくれているのは分かっているのだが、とにかく落ち着かなくて仕方ない。生まれた時からそういう環境だったというのに、どうしても慣れなかった。たくさんの人間に周りをうろつかれることに苛々していた。武術の鍛練をする前から、気配に敏い質だったのかもしれない。
学校に通うにあたり、常陸丸だけを連れて歩けるようになって、心底ほっとした。たぶん、影は付いていたのだろうが、俺が煩わしいと思わないようにしてくれればそれでいいのだ。
成長するにつれ城へ帰る足は遠退き、常陸丸の家へ入り浸った。おおらかな泉門院家は居心地が良くて、たくさんの人間が周りにいても、必ず苛々する訳じゃないのだと知った。武門なだけに鍛えた人間が多くいて、御身の安全のためにお帰りください、との言葉を鼻で笑った。
心配してくれる父母がいて、帰るおうちがあるのだからちゃんと家にも帰りなさい、と俺を諭したのは青葉だ。それでも渋る俺に、改善してほしいことがあるなら話し合うのです、と教えてくれた。
その言葉に従い、部屋の中に侍従を置かれるのが嫌だ、置かなければ帰る、と父に言ってみたら聞き入れられた。こんな簡単なことだったのか、と驚いた覚えがある。
その後は、それなりに快適な日々だった。毎日城へ帰ったかと言われると、まあ、それなりに、としか答えられないが。
二人の部屋に入った成人は、すたすたと自分の部屋へと歩いて行った。小さな本棚で区切ってある空間。成人のための場所。
あっさり離れていく成人に、少し寂しい気分になって、
「俺も、そこへ入っていいか?」
と、声を掛けていた。
あんなに、部屋の中に人を置くことを嫌がっていたのにな、と苦笑いをこぼしながら。
「半助。今日はもういい」
成人も共に自室へ戻ったので扉前まで半助が付いてきたが、うちに帰ってしまえば扉前に立つような護衛は必要ない。荘重も引き上げてきているし、一ノ瀬が拠点としている城に忍び込める者はいないと言っても過言ではないだろう。
「はい」
と、素直に頭を下げて下がっていく半助を見送って、部屋の扉を閉めた。あいつも、のんびり休むという概念が無いから、離宮周辺の見回りに加わるか、軍部の鍛練に顔を出すのかするのだろうが、本人の納得のいく過ごし方ができるならそれでいい。
一ノ瀬が朱実の命令で俺や成人の命を狙うというのなら、扉前に護衛を置いたところで意味はない。二人で寛いでいるときに、部屋の中に人を置くのも嫌だしな。
先ほどの城での食事は、まったく落ち着かなかった。
父と母の、侍従、侍女、護衛、料理人までが周りに立って、こちらの動きを注視している。世話をしようとしてくれているのは分かっているのだが、とにかく落ち着かなくて仕方ない。生まれた時からそういう環境だったというのに、どうしても慣れなかった。たくさんの人間に周りをうろつかれることに苛々していた。武術の鍛練をする前から、気配に敏い質だったのかもしれない。
学校に通うにあたり、常陸丸だけを連れて歩けるようになって、心底ほっとした。たぶん、影は付いていたのだろうが、俺が煩わしいと思わないようにしてくれればそれでいいのだ。
成長するにつれ城へ帰る足は遠退き、常陸丸の家へ入り浸った。おおらかな泉門院家は居心地が良くて、たくさんの人間が周りにいても、必ず苛々する訳じゃないのだと知った。武門なだけに鍛えた人間が多くいて、御身の安全のためにお帰りください、との言葉を鼻で笑った。
心配してくれる父母がいて、帰るおうちがあるのだからちゃんと家にも帰りなさい、と俺を諭したのは青葉だ。それでも渋る俺に、改善してほしいことがあるなら話し合うのです、と教えてくれた。
その言葉に従い、部屋の中に侍従を置かれるのが嫌だ、置かなければ帰る、と父に言ってみたら聞き入れられた。こんな簡単なことだったのか、と驚いた覚えがある。
その後は、それなりに快適な日々だった。毎日城へ帰ったかと言われると、まあ、それなりに、としか答えられないが。
二人の部屋に入った成人は、すたすたと自分の部屋へと歩いて行った。小さな本棚で区切ってある空間。成人のための場所。
あっさり離れていく成人に、少し寂しい気分になって、
「俺も、そこへ入っていいか?」
と、声を掛けていた。
あんなに、部屋の中に人を置くことを嫌がっていたのにな、と苦笑いをこぼしながら。
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