【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

110 妻の言葉  朱実

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 大切な人の大切に思う人、か。
 涙を流しながら私に訴える赤璃あかりの醜い顔を見る。このように感情を剥き出しにして、私以外の男を抱きしめている妻を、なんとなじればよいのだろう。
 同じ感情の場所へ堕ちることもできず、妻の言葉を反芻する。
 私が大切に思う人間。まずは緋色ひいろだ。緋色ひいろの側に居る時だけ、少し気を抜くことができた。その時間が好きだった。兄弟だから当然だと思っていたが、よく考えれば、赤虎せきとらとだって兄弟だった。しかし、あいつの前で気を抜いたことなどない。どころか、威圧を出して牽制していた。気を張っていたとも言える。気を抜くことと反対の状況。だから緋色ひいろだけ。
 その緋色ひいろが、最も大切な人間だと言って成人なるひとを最も近くに置く。腹が立ちこそすれ、共に大切にしようなどとは思ったことがなかった。成人なるひとだから?あれは、敵の兵器だから拒絶反応が大きいのかもしれない。
 いや。
 私は常陸丸ひたちまるのことも嫌いだ。ずっと気に食わなかった。緋色ひいろの最も近くにいて、守り、笑い合う仲の良い人間。乙羽おとわもそうだ。身分に問題がなく記憶を共有する幼馴染み。緋見呼ひみこ義母上は、乙羽おとわ緋色ひいろの嫁にと考えていたことがあり、仲良くしていることを喜んでいた。その時も、私はとても不快に思っていた。子が成せないことさえも、ちょうどいいと思われていた小さな乙羽おとわ
 あの子は決まった相手がいるから諦めるよ、と緋見呼ひみこ義母上が言った時に、酷く安堵したことを覚えている。緋色ひいろの大切な二人は、緋色ひいろを避けものにしてくっついたのだと思うと嬉しかった。
 これで、緋色ひいろの特別はまだ誰でもない、と。
 自分が、最も近くに置くのは赤璃あかりだと分かっていて、緋色ひいろをその場所には置けないと分かっていて、それでも、緋色ひいろの特別な場所に、あれが心を許すような人間を置きたくなかった。
 緋色ひいろが気兼ねなく話すのは私だけでいい。
 自分は、赤璃あかりとそれなりに心を通わせながら、緋色ひいろほどではなくとも大切に思いながら、ずっとそうであれば良いと思っていた。緋色ひいろは、簡単に誰かに心を許すような人間ではないと知っていたから。
 だと言うのに。
 成人なるひと
 これが緋色ひいろの隣に来てから、緋色ひいろの大切な者は増えていく。部下だと名乗る人間は離宮に溢れかえり、仲良く暮らしている。緋色ひいろの稼ぎで完璧に養って、楽しい報告ばかりが私の元に届く。
 それを全て、私にも大切にしろ、と言うのか……。
 どうしたら、そんなことが……。
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