【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

111 緋色は飴を不味いと言わない  成人

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緋色ひいろのことや赤璃あかりのことは、もちろんとても大切なのだけれども、その二人の大切なものが、私にとっても大切かどうかは分からないのじゃないかな」

 少しの間、黙ってこちらを見ていた皇太子殿下が口を開いた。
 そうだね。人はそれぞれ違うから、大切に思うものも違って当たり前じゃないかな。俺が美味しいって思う飴やアイスクリームを緋色ひいろは美味しいって思ってないしね。

「うん。おんなじじゃないから仕方ない」
「そうだろう?」
「でも、緋色ひいろは飴を不味いって言わない」
「…………」

 俺が赤璃あかりさまの腕の中から顔を出して言うと、皇太子殿下は少し眉を寄せながらこちらを睨んだ。
 あ、常陸丸ひたちまるだ。
 その顔は、乙羽おとわが俺を抱っこしてるときの常陸丸ひたちまるの顔に似てる。伴侶の前で、別の人とくっつくのはよくないのだった。友達なんだから、いいでしょう?と乙羽おとわが言う度に、それでも他の男と抱き合ってたら嫌なの、と常陸丸ひたちまるは言うんだ。緋色ひいろは何にも言わないけれど、常陸丸ひたちまる乙羽おとわと俺を離したらすぐに抱っこしてくれる。ぎゅって抱っこされると顔が見えないんだけど、もしかして緋色ひいろもこの顔をしてたのかな。それなら、離れないと駄目だな。

赤璃あかりさま。伴侶の前で他の人を抱っこしたら駄目だった。俺、忘れてた」
「え?」

 赤璃あかりさまの腕から脱け出そうと頑張って動いてみる。

「ああ、大丈夫よ、なる。この人はそんなこと気にしな……」

 赤璃あかりさまは涙のあとのある顔を上げて皇太子殿下を見ると、言いかけた言葉を止めた。

「気にしてくれてるの?」
「やきもちって言うんだよね」
「やきもち?朱実あけみが?」
常陸丸ひたちまるが教えてくれた。乙羽おとわが大好きだから、乙羽おとわが他の人とくっつくとやきもち焼くんだって。だから、目の前ですんなって」
「そう……」
「でも、乙羽おとわは目の前でするけど」

 くす、と赤璃あかりさまが笑って、俺から離れた。手の甲でごしごしと涙を拭く。

「何の話だ?」
「あなたが、やきもち焼いてるって話」
「は?」
「ちゃんと想ってもらってて嬉しいわ」
「どういう話の流れでそうなっている?」
「私のことを、大切な人だと認めてくれてありがとう」
「当たり前だろう?」
「ええ。あなたの大切な人は緋色ひいろ殿下じゃないかと思っていたから、私も入っていて嬉しい。しかも、やきもちなんて」
「……やきもち?」
「そういう顔をしているってこと」
「よく分からないな……」
「分からないけどやきもち焼いてるのね。そういうことなのかしら」

 ふにゃあふにゃあと朱音あかね殿下が泣き始める。赤璃あかりさまは玉乃井たまのいから朱音あかね殿下を受け取った。

「なる。ごめん。授乳してくる。帰る?」
「うん」
「あなたは、寝室へ来る?少し話さない?」
「いや……」

 考えた皇太子殿下が動かない間に、赤璃あかりさまは寝室へ入っていった。
 俺も立ち上がって、ぺこりと頭を下げる。じいやともう一人の男の人はいつの間にかいなかった。

「失礼しました」

 返事はなかったけれど、部屋を出る。戸を閉める時に、皇太子殿下が何か呟いていたけれど、挨拶をしたのでそのまま部屋を出た。

緋色ひいろは飴を不味いと言わない……」
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