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第六章 家族と暮らす
112 皇太子殿下の笑顔 成人
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「なかなか居心地の好い執務室だね」
皇太子殿下が離宮の執務室へやってきたので、お茶を持ってきた。
「用が済んだならお帰りください。忙しいでしょう?」
「いや、大したことはない。優秀な部下がいるからね。とは言え、気にかけてくれて嬉しいよ、緋色」
ソファに座る皇太子殿下は、にこにこと執務室を見渡している。緋色はいつも通りの席に着いていて、ソファには来ないみたいだ。常陸丸も緋色の隣に座ったままだし、斎と三郎もいつも通り仕事をしている。今日は睦峯がいないので、散らかっている机はない。睦峯は作業をしているといつも、色んな本やメモ、書きかけの書類で机が一杯になるからね。どこに何があるか分からなくなるから動かすなって言われてる。今日はいないから、隣の席の斎が少し動かしたみたい。机の上はいつもよりは片付いている。たまに来る八条薫もまだいなくて、今日は人が少ない。
「どうぞ」
「ありがとう」
お茶を出すと、にっこり笑顔を向けられた。俺のこと嫌いなのに、こんなににこにこできるの凄いなあ。俺は、赤虎を目の前にしてにこにこできるだろうか。嫌いって気持ちは何とか隠そうと思うけど、にこにこは難しい。しようと思ってにこにこするのって難しいよね。
あれ?
自分の顔って見られないから、俺がいつもどんな顔してるのか分からないぞ。にこにこしてるのかな。
緋色の顔ならいつも見てる。いつもちょっと笑ってるよね。格好いい顔で、俺のこと見て笑ってる……。
頭の中で緋色が笑って、嬉しくなった。
ああ、大好き!
くっつきたくなるから我慢してたけど、やっぱり見たくて緋色の方を見る。
あれ?
む、とへの字のお口で眉間に皺まで寄せて書類を読んでいた。
あれ?
お仕事の時はこんな顔なんだっけ?んー?でも、いつもお仕事中にお茶を持ってきてもこんな顔はしていない。
「緋色、お茶のおかわりいる?」
近寄ったらくっつきたくなるから、皇太子殿下のお側から聞いてみる。
ん?と顔を上げた緋色が、ちょいちょいと手招きした。あ、もうへの字口じゃない。
でも、近くに行っていいの?俺たち仕事中だよ。
近くに寄ったら椅子を少し後ろに引いた緋色に、ひょいと抱き上げられた。やっぱり?俺がくっつきたいときは、緋色もくっつきたいよね。俺たち、気が合う。
そして膝の上に収まったら、ずっとこうしていたくなる。ここが、俺の一番いい場所なんだから。
ペンを走らせる音と書類をめくる音。
お客様のことなんて、すっかり忘れていた。
「お茶も頂いたし、書類も渡したし、そろそろ帰るかな」
皇太子殿下の声に、びっくりしたのは俺だけじゃなかったみたい。
「お構いも致しませず、申し訳ありません」
三郎が慌てて立ち上がって包拳礼を取り、斎もそれにならう。もちろん俺も緋色の膝から下りて、同じようにした。常陸丸もいつの間にかその形になっている。俺の横に立ち上がった緋色が、
「玄関までお送りします」
と、頭を下げた。
「ああ、そうしておくれ」
皇太子殿下は呟くように言って、緋色と部屋を出ていった。
皇太子殿下が離宮の執務室へやってきたので、お茶を持ってきた。
「用が済んだならお帰りください。忙しいでしょう?」
「いや、大したことはない。優秀な部下がいるからね。とは言え、気にかけてくれて嬉しいよ、緋色」
ソファに座る皇太子殿下は、にこにこと執務室を見渡している。緋色はいつも通りの席に着いていて、ソファには来ないみたいだ。常陸丸も緋色の隣に座ったままだし、斎と三郎もいつも通り仕事をしている。今日は睦峯がいないので、散らかっている机はない。睦峯は作業をしているといつも、色んな本やメモ、書きかけの書類で机が一杯になるからね。どこに何があるか分からなくなるから動かすなって言われてる。今日はいないから、隣の席の斎が少し動かしたみたい。机の上はいつもよりは片付いている。たまに来る八条薫もまだいなくて、今日は人が少ない。
「どうぞ」
「ありがとう」
お茶を出すと、にっこり笑顔を向けられた。俺のこと嫌いなのに、こんなににこにこできるの凄いなあ。俺は、赤虎を目の前にしてにこにこできるだろうか。嫌いって気持ちは何とか隠そうと思うけど、にこにこは難しい。しようと思ってにこにこするのって難しいよね。
あれ?
自分の顔って見られないから、俺がいつもどんな顔してるのか分からないぞ。にこにこしてるのかな。
緋色の顔ならいつも見てる。いつもちょっと笑ってるよね。格好いい顔で、俺のこと見て笑ってる……。
頭の中で緋色が笑って、嬉しくなった。
ああ、大好き!
くっつきたくなるから我慢してたけど、やっぱり見たくて緋色の方を見る。
あれ?
む、とへの字のお口で眉間に皺まで寄せて書類を読んでいた。
あれ?
お仕事の時はこんな顔なんだっけ?んー?でも、いつもお仕事中にお茶を持ってきてもこんな顔はしていない。
「緋色、お茶のおかわりいる?」
近寄ったらくっつきたくなるから、皇太子殿下のお側から聞いてみる。
ん?と顔を上げた緋色が、ちょいちょいと手招きした。あ、もうへの字口じゃない。
でも、近くに行っていいの?俺たち仕事中だよ。
近くに寄ったら椅子を少し後ろに引いた緋色に、ひょいと抱き上げられた。やっぱり?俺がくっつきたいときは、緋色もくっつきたいよね。俺たち、気が合う。
そして膝の上に収まったら、ずっとこうしていたくなる。ここが、俺の一番いい場所なんだから。
ペンを走らせる音と書類をめくる音。
お客様のことなんて、すっかり忘れていた。
「お茶も頂いたし、書類も渡したし、そろそろ帰るかな」
皇太子殿下の声に、びっくりしたのは俺だけじゃなかったみたい。
「お構いも致しませず、申し訳ありません」
三郎が慌てて立ち上がって包拳礼を取り、斎もそれにならう。もちろん俺も緋色の膝から下りて、同じようにした。常陸丸もいつの間にかその形になっている。俺の横に立ち上がった緋色が、
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と、頭を下げた。
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皇太子殿下は呟くように言って、緋色と部屋を出ていった。
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