【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
678 / 1,325
第六章 家族と暮らす

113 しょんぼり  成人

しおりを挟む
 また来た……。
 皇太子殿下は、次の日はおやつの時間の少し前に来た。そんなに緋色ひいろに渡す書類あるのかな。今まで来てなかったのに。用がある時は緋色ひいろが呼ばれて行ってた。

「お急ぎなら部下をお使い頂くか、定期便を出すのでそちらを利用して頂ければ、と思いますが?」
「はは。急ぎじゃないよ。大丈夫」

 笑った皇太子殿下に、緋色ひいろがふ、と溜め息を吐く。

「急ぎじゃないなら尚更、何故わざわざお運び頂いていらっしゃるので?」
「休憩?息抜き?まあ、お前の顔が見たくて」
「ではもう、ご満足頂けたのでは?俺たちはもうすぐおやつ休憩に入りますので、お帰りください」
「私の分もあったりしないかな」
「前日に朝、昼と間食、夜の食事が何人分いるかの集計を取ることになっております。大まかな予定も一週間毎に聞いて材料を準備するので、朝のうちに言ってくださるならまだしも、今言ってあるものではありません」
 
 緋色ひいろは、皇太子殿下の方を見ない。

「そういうところ、しっかりしてるんだね。何だか意外だよ。大雑把な印象があったから」
「大勢が出入りしているんですから、当然でしょう?いつも多めに作って廃棄するような無駄なことをする気はない。一ノ瀬を引き上げたいと仰るなら、またそれなりの運営を考えますが」
「……それは、引き上げても問題ないと言いたいのか」
「問題はありますよ。一ノ瀬は優秀だし、気配に敏い人間が多いうちとしては、気配を消せる使用人は助かっている」
「へえ……」
「で?」
「引き上げるつもりは無いよ。お前へ貸してはいても、私の部下であることにかわりはない」
「ではありがたくお借りしておきます。一ノ瀬は成人なるひとと相性がいいので嬉しいですよ」

 俺?
 おやつ前だから、皇太子殿下のお茶を出すついでに皆の湯飲みを片付けていたら、俺の名前が出てびっくりした。
 相性がいい?仲良しってこと?
 うん。一ノ瀬はみんな強くて動きの予測がつきやすくて好き。予想通りの動きをするから一緒にいて安心できる。壱臣いちおみなんて、動きの予測がつかなくてどきどきするもんね。
 なんでそっちに動いたの?とか、思ってたのより一拍遅いとか、一拍どころじゃなくのんびり動き出したくせにその後で急いでいたりとか、本当に予測がつかなくて大変。そんな壱臣いちおみを守って戦った半助って、本当に凄い。尊敬しちゃう。今も片腕でも戦えるしね。
 羨ましい。
 俺はすっかり動けなくなったから。
 もう誰にも攻撃する気は無いし戦いたくもないけど、いざというときに自分すら守れないことにしょんぼりしてしまう。鍛えることもできない体。緋色ひいろの役に立ちたいのに。

「どうした?」

 気配は読める。緋色ひいろが近付いて来てくれたの、分かる。もしこれが、敵意を持ってくる人なら気付いたら避ければいい。よほど相手が強くない限り、一手目は避けられるだろう。でも、その後は?生き残ることでも精一杯のこの体が……。
 抱き上げられて、しょんぼりとくっついた。

「天気が良くないから調子悪いか?」
「んーん」
「客の相手に疲れたんだな」
「んーん」

 お茶出しただけだよ。

「そうか」
「うん」

 ただ抱っこして、背中をぽんぽんしてくれる緋色ひいろが好き。

「今日は帰るよ」

 俺がしょんぼりしてる間に、皇太子殿下は帰っていった。
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

処理中です...